日本剣道形とは、真剣を用いることを想定しながら剣道の稽古をするために編み出された、剣道で重要な動きすべてを凝縮した形稽古のことです。
今日では、段審査を受ける際に必要であったり、刃筋や姿勢・打突の機会などを確認するために剣道の稽古に用いられます。
今回はそんな日本剣道形の意義や動きの説明などを順を追って解説していきたいと思います。
剣道は一般的なスポーツとは異なり、剣道のような武道には大会実績のほかにも「段位」という視点からもその人の実績を見ることができます。
学科試験や実技審査があり、地域によってもその形態は異なります。
今回はそのような剣道の昇段審査についてまとめてみました。
|「段位」とは
剣道という武道が確立される際に、指導力、技量、人格などの剣道家としての完成度、つまりは「格付け」も同様に決めなければならないということで始まったのが「段位」という制度です。
時代とともに変化してきたこの段位制度なのですが、現在初段、弐段、参段、四段、五段、六段、七段、八段と八つの階級に分かれています。
(六段以降はさらに錬士、教士、範士という称号も取得することができます。)
その中でも最高位に位置している八段の審査は、その合格率の低さ、難易度から「日本一難しい試験」と呼ばれています。
全国で名のある七段の剣士たちでも、その合格率は1パーセントを下回るそうです。
受審資格
初段…一級を保持し満13歳以上の者
弐段…初段合格から1年以上修業した者
参段…弐段合格から2年以上修業した者
四段…参段合格から3年以上修業した者
五段…四段合格から4年以上修業した者
六段…五段合格から5年以上修業した者
七段…六段合格から6年以上修業した者
八段…七段合格から10年以上修業し、かつ46歳以上の者
試験形態について
その様な昇段審査の試験形態は、地域差もある程度はあるのですが決まっていますのでご紹介します。
学科試験
剣道の昇段審査では、ただ実技のみが出来ていも受かりません。
五段以下の審査では、筆記試験が採用されており、剣道の理念や練習の際意識することを理解できているかを問われます。
問題も多種多様なので、所属している剣道連盟ではどのような問題を出されているか確認しておきましょう。
一般的な知識を身に着けていれば必ず問題を解けるようになっていますので、参考文献などを読み込むようにしましょう。
また、試験会場に行ってその場で問題を解く形式と、予め解答用紙を渡され、当日提出するという形式のものがあるので注意しましょう。
解答用紙には、ボールペンで記入するのが良いでしょう。
参考記事:完全版!昇段審査向け【学科試験模擬回答集】
実技試験
次にもっとも大事と言われる実技試験についてご説明します。
初めに切り返しを行った後に、地稽古形式での試験を審査員の前で行います。
相手は審査番号が一つ前の人と一つ後の人になるのが通常で、その二回のチャンスの中で実力を発揮しなければなりません。
普段の試合とは異なり、単に勝ち負けを問われるわけではないので、正しい姿勢、攻め、打突を心がけるようにしましょう。
剣道形試験
実技試験の合否は審査直後に発表され、合格者はそのまま形の審査に入ります。日本剣道形を実演し、その出来栄えを審査するものです。
日本剣道形は本来実践稽古と並び剣道の大切な要素とされているため、昇段審査でも取り入れられています。
一本目から七本目、そして小太刀を用いた形が三本目まであり、受ける段位が上がるにつれ実演する形も徐々に増えていきます。
大抵は打太刀か仕太刀をその場で指定されて、どちらかの役を務めることになります。
竹刀とは異なり木刀を用いるため、間合いや剣線の高さが普段の稽古とは異なるので注意しましょう。
また、練習する際にはきちんと相手との呼吸を合わせる必要があります。
当日、初めて会う相手と演舞を行うが多いため、きちんとできるように、一つ一つの動きを覚え込んで試験に臨みましょう。
段審査の料金
段審査には大きく分けて「受審料」と「登録料」があり、前者は受験者全員、後者は合格者のみが支払います。
これらは各都道府県によって多少異なるのですが、おおむね同じなので大阪府剣道連盟の料金を例として挙げています。
|剣道の昇段審査とは
昇段審査についてお判りいただけましたでしょうか。
同じことの繰り返しになりますが、剣道の昇段審査には地域差があります。
必ず周りの人に聞いたり、剣道連盟のHP等で昇段審査についての情報収集を行うようにしてください。
ここからは日本剣道形について解説していきます。
|日本剣道形の基本
それでは本題に入っていきましょう。
この日本剣道形は太刀同士の形が7本と、小太刀を利用した形が3本あり、合計10本の形で構成されています。
「打太刀」・「仕太刀」と呼ばれる二つの役割からなり、打太刀が仕太刀を先導し打たせるという形を取ります。
日本剣道形は、多くの技の中から重要な動きを含む10本の技を厳選したものです。
それぞれの形に剣道に必要な動きが含まれています。
また、日本剣道形を理解することにより、相手の呼吸を理解し、実戦でも必要な手の内や太刀筋を覚えることができます。
以下では具体的な日本剣道形の動きを、順を追ってご説明いたします。
|昇段審査における日本剣道形
昇段審査において、初段を取得するには3本目まで、二段は5本目まで、三段は7本、そして四段は太刀の7本と小太刀の3本を習得することが必要になってきます。
そこで、それぞれの段階ごとに分類しながら、日本剣道形についてご説明していきます。
目次
・初めの所作
太刀
・1本目
・2本目
・3本目
・4本目
・5本目
・6本目
・7本目
小太刀
・1本目
・2本目
・3本目
日本剣道形の所作
まず、日本剣道形を覚える前に行う、所作を覚えなければければなりません。
剣道は、礼に始まり礼に終わると言われているように、礼儀を重んじる武道です。
そこで、日本剣道形では、所作も大変重要な要素となります。
初めは刀を右に持ち、15度の角度で相手と礼をしてから左手に持ち替えて、互いに3歩ずつ進み刀を抜きながら蹲踞します。
そこから立ち上がった時の間合いは「横手」であり、刀と刀が触れ合うくらいの間合いを取ります。
そして立ち上がり、刀を開きながら相手の左の膝の下付近まで下げ、小さく5歩下がります。
日本剣道形は必ず師匠である打太刀から動き、それに合わせて仕太刀が動きます。
また、いつでも相手から目を離さないことも重要です。
初段取得のための日本剣道形
初段を取得するには、日本剣道形1本目から3本目までの習得が必要となります。
1本目
まず、1本目は打太刀が左足を前に出しながら左諸手上段をとり、仕太刀が右諸手上段をとります。
打太刀が相手の手ごと切るつもりで振り下ろすのに対し、仕太刀は一歩下がりながら刀を振りかぶって避け、一歩前に出ながら相手の面を打ちます。
打太刀が1歩下がるのに合わせて仕太刀は相手の眉間に剣尖を向け、もう1歩下がるところを追い込むように仕太刀は左上段をとります。
2本目
2本目は、お互い中段同士から打太刀が大きく振りかぶって小手を打つところを、仕太刀は左斜め後ろに下がりながら下に抜き、相手の小手を打ちます。
1本目と2本目は、相手の技を抜いて打つ技量が求められます。
3本目
3本目は、お互い下段をとります。
一足一刀の間合いに入ったら、息を合わせ中段に戻しきった後、打太刀が仕太刀の水月を突きます。
そこを仕太刀は1歩下がりながら入れ突きになやし、突き返します。
その時打太刀は右足で下がりながら裏のしのぎを用いて避け、仕太刀がもう一度突いてくるところを左足で下がりながら面しのぎを用いて避け、左足から3歩下がると同時に構えを解き追い詰められる形になるところを、仕太刀は右足から3歩前に出ながら眉間に剣先を向けます。
充分な残心が取れたら、仕太刀は5歩下がり、打太刀はその最後の3歩に合わせて前に出ます。
二段取得のための日本剣道形
二段を取得するには、日本剣道形を5本まで習得することが必要です。
3本目、4本目、そして5本目では相手の攻めをしのぎを用いて避け、攻める技量が必要になります。
4本目
4本目は、打太刀が左足を前に出しながら八相の構え、仕太刀が右足を引きながら脇構えをとります。
お互い、小さく3歩入り、機を見て相打ちをします。
打太刀が相手の右の肺を突くところを仕太刀は左手を頭上に上げ、しのぎを用いて相手の剣を避け、左足を下げながら面を打ちます。
5本目
5本目は打太刀が左上段、仕太刀が上段に対しての中段をとります。
まず、打太刀が面を打つところを仕太刀は1歩下がりすり上げ、前に出て面を打ちます。
仕太刀は右足を引きながら、剣先を相手の眉間に滑らせ左上段に構え残心、その後お互い3歩ずつ元の位置に戻ります。
三段取得のための日本剣道形
三段を取得するためには、日本剣道形を7本目、つまり太刀の形全てを習得することが必要です。
6本目
6本目は、仕太刀が下段をとります。
日本剣道形の中で、これが唯一仕太刀先導の動きとなります。
仕太刀が中段に戻すところを打太刀は右足を下げながら左上段に構え、仕太刀はすぐさま間合いを詰めて剣先を相手の左こぶしにつけます。
そこを打太刀はすぐさま中段に戻し、小さく小手を打つところを仕太刀はすり上げ小手を打ちます。
仕太刀が更に攻めようとするので、打太刀は一歩下がり仕太刀は左上段で残心をとります。
6本目では、一連の流れを切らさず、つまり縁を切らさぬように取り組むことが重要です。
7本目
次に7本目は、お互い中段から打太刀が胸をつくところを仕太刀は下がりながら支え上げ、構え直して打太刀が左足から大きく面を打ちます。
そこを仕太刀は右足から3歩で胴を抜きます。
この時、打太刀は一瞬目が離れますが、仕太刀は相手から目を離してはいけません。
打太刀が振り返りお互いに目が合あった時、仕太刀は刀を脇にとり、その後息を合わせてお互い上段を通して構え合います。
打太刀が引っ張り上げるようにして仕太刀は立ち上がり、お互い回りながら元の位置に戻ります。
日本剣道形における小太刀
四段以上の取得には、太刀での形に合わせて3本の小太刀の形の習得が必要になります。
そこで、小太刀の解説をしていきます。
小太刀は、仕太刀のみが用いるものであり、上部を右手で持ちます。
立ち会うときは基本半身の姿勢をとります。
これは、太刀より短い分、半身になり長さを補うためです。
立会いが終わったら、右手をももに置き、下がります。
四段以上取得のための日本剣道形
四段以降を取得する場合、太刀の7本と小太刀の3本を習得しなければなりません。
1本目
小太刀での1本目は、打太刀は左上段を取り、仕太刀は少し高めに半身の構えをとります。
間合いに入り、仕太刀が入り身になったのを見て打太刀が面を打ちにいきます。
仕太刀はそれを右斜め前にさばきながら受け流し、打ち返した後左足から一歩下がりながら振りかぶり残心を取ります。
2本目
2本目は、打太刀は下段をとり、仕太刀は下段に対して低めの半身の構えをとります。
打太刀が中段に戻そうとするところを小太刀で抑えようとし、打太刀は右足を出しながら脇構えをとります。
すかさず仕太刀は間合いを詰め、打太刀は腰を使いながら右足を出しながら面を打ちます。
仕太刀は1本目とは逆に裏しのぎを用いて左にさばいて面を打ちます。
相手の右の腕を掴み、小太刀を腰に添え、残心をとります。
3本目
3本目は、打太刀が中段、仕太刀は下段半身をとります。
打太刀は間合いを詰める3歩目と同時に振りかぶり、面を打ちます。
仕太刀はそれをすり上げすり下ろし、打太刀が胴を打つところを仕太刀はすり流しすり込みます。
鍔と鍔を合わせ、打太刀の腕を持ち、制します。
その後、3歩進み小太刀を腰に添えて残心をとります。
小太刀は、いずれも刃筋正しく、スピーディーに展開を早くしないといけないため、多くの時間を費やし練習しないといけません。
日本剣道形のまとめ
以上のように、日本剣道形は、太刀7本と小太刀3本で構成された形です。
そのいずれもが剣道の上達に必要不可欠なものであり、その形を覚えることにより、より上達が早くなるでしょう。
また、段を取得するためにも日本剣道形は必要であり、剣道を修練する上で重要な存在です。
間合いや刃筋、相手の呼吸を覚えるためにはもちろん、段を取得するためにも今のうちに日本剣道形を習得しましょう。