剣道において、素振りは非常に重要な練習法です。
素振りには剣道の基本要素が数多く詰まっており、剣道を始めたばかりの初心者はもちろん、剣道歴何十年の熟練者であっても、素振りを反復することによって剣道の基本を確認しています。
本記事では、そんな重要な練習法である素振りの目的、種類、方法などについて見ていきたいと思います。
|素振りに用いる得物の種類
素振りをするといっても、用いる得物は竹刀に限りません。
他にも木刀などを使うことによって、竹刀を振るだけではなかなか得ることのできない特別な効果を得ることもできます。
以下を参照して、自分に必要な素振りを探してみましょう。
1.素振り用木刀
素振り用木刀とは通常の木刀よりも重い、素振り専用の木刀のことを指します。
通常の木刀が500g前後なのに対して、素振り用木刀は約1キロ前後あり、2倍近くの重さがあると言えます。
この素振り用木刀を振る主な目的は「筋力アップ」です。
通常の素振りでももちろん筋力をアップすることはできるのですが、この素振り用木刀はその効果に特化しています。
素振り用木刀を振り込むことで、竹刀の重さに操られることなく、自分の意のままに竹刀を操作することが可能になります。
しかし、素振り用木刀が重いからといってゆっくり振っていると、効果が半減してしまいます。反対に無理をして振っていると、手首や腕を痛めてしまう恐れがあります。使う際には、十分気をつけるようにしましょう。
【片手用】”フリセン”素振刀
2.桐の木刀
桐の木刀は重さが150gと非常に軽量な桐製の木刀です。
桐の木刀は「打突のスピード」を向上させたい人におすすめです。
打突のスピードを上げるには重い木刀を振り込むのが効果的だと思われがちですが、実際の研究では軽い木刀を振った後の方が素振りのスピードが上がるというデータが出ています。
軽い木刀を振り込むことによって、素早い動きが体に染み込むこと、余計な力が入っていない打突が打てるようになることがスピードアップの要因だと思われます。
3.模擬刀
模擬刀とは、日本刀を刃引きをしたものの事を指します。
模擬刀での素振りは「刃筋を正したい」人におすすめです。
日本刀は木刀と違って非常に刀身が薄く、なおかつ重量もあるので、刃筋正しく振らないと手首を痛めてしまいます。
刃筋正しく振れている人は模擬刀を振ったときに「ヒュッ」という空気を切る音が出ます。
この音が出るまでにはなかなか時間がかかりますが、一度出るようにさえなれば、通常の竹刀でも継続的に刃筋正しい打突を行うことが可能になるでしょう。
4.素振竹刀
素振り竹刀とは、素振りのために加工した竹刀です。
コンパクトかつ、十分な重量です。自宅での素振りトレーニングにも活用いただけます。
竹刀と同じように握ることができます。
【両手用】”フリセン”素振り用竹刀
【フリセンマグナム】素振竹刀
|素振りの目的
素振りをすることによる具体的な目的には、どのようなものがあるのでしょう。
目的をしっかり理解した上で素振りに取り組むのと、そうでないのとでは、素振りの効果に大きな差が出てきます。
以下で説明する主な目的をしっかりと意識した上で素振りに取り組みましょう。
目的1. 打突に冴えを出す
主な目的の1つとして打突に冴えを出すことが挙げられます。
打突の冴えとは単純な振りのスピードというよりは、打突の瞬間のインパクトのことをいいます。
初心者は右手が強くなりがちで、力任せに振るので打突の音は鈍くゴツンといった音がして、叩かれたほうは非常に痛いです。
対して上級者は左手二本の指は常にしっかり握って後の指は軽く、そして叩く瞬間のみ両手をキュンと絞るように打ち込みます。
スパ-ンと、響き渡るいい音がしますが叩かれたほうは痛さを感じません。
打突時にこうした一瞬のインパクトを出すために素振りが必要となってきます。
何回も素振りを繰り返すことによって、瞬間的に手首を絞めスナップを効かせることを覚え、打突に冴えが出るようになります。
目的2. 刃筋を正す
2つ目の効果として刃筋を正すことが挙げられます。
有効打突の条件には「打突部位を刃筋正しく打突し」という条件があり、どんなに強烈な打突でも刃筋が正しくなければ一本になりません。
正しい刃筋を意識しながら一本一本しっかりと素振りをすることによって、実践の中でも正しい刃筋で打突をすることが可能になります。
目的3. 筋力をアップさせる
素振りには単純に筋力をアップさせる効果もあります。
試合でせっかく機会を捉えたのに打突力が足りなくて一本にならないという悔しい経験は誰もがしたことがあると思います。
筋力をアップさせることによって、打突力の向上に繋がり、このような惜しい打突を減らすことが可能になります。
この目的で行う素振りには後の章で説明する素振り用竹刀を用いるとより効果的でしょう。
|素振りの種類
素振りの種類はメジャーなものからマイナーなものまで数多くあり、種類によって目的と効果も変わってきます。
ここでは一般に取り組まれている基本的な素振りを4種取り上げ、その狙いを紹介していきます。
基本的な素振り
①上下素振り
上下素振りは竹刀をお尻に当たるまで大きく振りかぶって、つま先の前まで大きく振り下ろす素振りです。
この素振りの狙いとしては正中線に沿って竹刀の軌跡を作ることで、竹刀の正しい軌道を体に覚え込ませることと、肩甲骨を使って大きく振りかぶり大きく振り下ろすことで、肩甲骨の稼働領域を広くするという2つがあります。
右手に力が入ると竹刀の軌道が右側にずれてしまうので、力まずに左手中心で振ることを意識しましょう。
②前進後退正面素振り
素振りの練習として道場などで一番多くみられるのが、この前進後退正面素振りです。
前進しながら面打ち、後退しながら面打ちを繰り返すもので、狭い場所でも練習できます。
この練習の狙いとしては正確な竹刀の振りと打突の感覚を身につけることです。
単純な素振りではありますが、剣道の基本が最も多く詰まっている素振りでもあるので繰り返し取り組みましょう。
③左右面素振り
左右面素振りとは前進後退正面素振りの応用ともいえる素振りで、前進するときに右斜め45度に振り下ろし、後退するときにその軌道をたどって今度は左斜め45度に振り下ろす素振りです。
この素振りの狙いは手首をしっかりと返すことで正しい刃筋で打突できるようになることです。
剣道において手首の柔らかさというのは非常に大切です。
ぜひ竹刀を手首の力で動かす感覚をこの素振りでマスターしてください。
④早素振り
早素振りは左足で蹴って前に飛んで面、続いて右足を後ろに蹴り出して、一歩跳びながら振りかぶり、ふたたび前に跳んで面ということをくり返します。
この素振りは、どんな態勢でもきちんと打突できるバランス感覚を養い、跳躍力など下半身強化につなげることを目的とした素振りです。
早く打とうとするあまり、前かがみになったりバランスを崩したりしがちなので、つねに頭頂部が真上を向くように意識しましょう。
また、足と上体がバラバラにならないよう、リズムよく行うことも大切です。
応用的な素振り
この4種類の基本的な素振りを習得するだけでも、上達することはできます剣道は基本がかなり大事なので、初心者の方は特にこの素振りを重点的に練習していきましょう。
次の応用素振りは、基本的な素振りで物足りない方やさらに打突力を向上させたい方のために紹介していきます。
①膝抜き
剣道オンラインサロン 「剣道イノベーション研究所」の岡田守正八段が考案した、打突に繋がる素振り法です。
古武術でも用いられる膝の脱力を使い、下半身から上半身へ効率よく力を伝える素振り法です。
このまま打突に派生でき、斬れ味ならぬ「打ち味」を体感することができます。
方法:
1)構えた形を崩さずに、真っ直ぐ竹刀を振り上げる
2)振り上げた頂点に来た瞬間に、膝を脱力する
3)膝を脱力した力を利用して、自然と竹刀を振り下ろす
4)関節の反射反応を利用し、元の体勢に戻す
注意1:打突した手は、前方向へ伸ばす
注意2:腕の力や脚の力を使わず、脱力による力の伝達で振る
②すりかぶり
「誠先生の剣道教室」でお馴染みの、佐藤誠八段が考案したオリジナルの素振り法です。
手足の一致した打突(=一挙動の打突)や、初心者の基礎動作の徹底のために抜群の効果を発揮します。
方法:
1)左足のかかとを上げ、右足のつま先を床に軽く着ける
2)右足のつま先を出しながら、左手を引き上げる。
3)上げた手を振り下ろしながら、右足を戻す
4)2)に戻る
注意1:右足のつま先と左手を同時に動かす。
注意2:右足のつま先を出した際に、腰を前に出さない。構えた姿勢のまま、姿勢は崩さない。
※参考指導動画
※参考記事:【観察と分析こそ上達のカギ】剣道教士八段 佐藤誠
|素振りの回数
最後に素振りの回数について説明したいと思います。
一概に素振りといっても、目的によって一度に何回位振ればいいかは変わってきます。
ここでは大きく30本以内の本数の少ない素振りと、30本以上の本数の多い素振りの2つに分けて説明します。
30本以内の本数の少ない素振り
「素振りの目的」の部分で述べた3つの目的、①打突に冴えを出す②刃筋を正す③筋力を上げるなど、なにかしら目標を持って集中的に取り組みたいときに本数の少ない素振りは有効です。
素振りは本数が多くなればなるほど機械的な作業になってしまう傾向があり、こうした目的を忘れてしまいがちです。
しかし、30本以内の素振りであれば、集中してこれらの目的に取り組むことができます。
1本1本手を抜くことなく、全力で振り切ることで素振りの効力を最大限に発揮しましょう。
30本以上の本数の多い素振り
対して本数の多い素振りの目的としては筋持久力の向上が挙げられます。
竹刀は振り込めば振り込むほど腕周りの筋肉が発達し、なおかつ腕を酷使し続けても疲れづらい筋肉が形成されていきます。
個人戦などの長時間に及ぶ試合においては、この筋持久力が勝敗を分けることがあるといっても過言ではありません。
回数の多い素振りを行うことによって、上記の目的のみならず、筋持久力の向上も目指しましょう。
|「剣道の素振り」のまとめ
剣道の素振りについての説明いかがでしたでしょうか。
注意点として、筋トレは筋肉量を増やすために行うものであり、素振りとは目的が異なるので使い分けましょう。
繰り返しになりますが、素振りには本当に剣道に必要不可欠な要素がたくさん詰まっており、剣道を続ける限り決して欠かせない練習方法になります。
防具をつけての稽古と違って、素振りはどんな格好でも、場所さえあればできる練習なので、是非皆さんも積極的に取り組んでみてください。