「切り返し」は剣道の稽古の中で最も重要とされ、剣道の基本となる稽古法です。
多くの人は、稽古を始める際にまず切り返しから取り組みます。
しかし切り返しとは、体を温めるための単なる運動ではありません。
では、正しい切り返しとは一体何でしょうか。
今回は、そんな切り返しについて基礎から解説していきます。
|切り返しとは?
まずは切り返しの取り組み方の前に、そもそも切り返しとは何なのかについて述べていきます。
切り返しの意味
当たり前のように稽古メニューに組み込まれている切り返しですが、皆さんはその意味についてしっかりと考えたことはあるでしょうか。
実は、切り返しを見るだけでその人の力量がわかってしまうほどに、切り返しには剣道で生かされる多くの要素が含まれているのです。
足さばき、手首や肩の使い方、踏み込み、体当たりなど、一度の稽古で多くのことを体得することができます。
つまり、切り返しとは、剣道の基礎が凝縮された稽古です。
|切り返しの動作
切り返しとは何なのかについて、ご理解いただけたでしょうか。
続いて、正しい切り返しの取り組み方についてご紹介していきます。
正しい切り返しのやり方のポイントは4つあります。
1.足さばき
一眼二足三胆四力という言葉があるように、足の使い方は剣道では特に重要視されています。
切り返しの中での足さばきの注意点としては、左足が右足を越えてはいけないということです。
切り返しの最中や、最後の面を打った後などに左足を出しすぎないように注意しましょう。
左足が常に右足より後ろに位置しないと、試合中などにいつでも打てる体勢を維持することができません。
そういった癖をつけるためにも意識して取り組みましょう。
2.竹刀の軌道
切り返しをしている人の中には、しっかりと肩を使わずに手首だけで打ち込んでいる人もいますが、それは正しいとは言えません。
肩を使って大きく振りかぶり、一本一本丁寧に打ち込んでいきましょう。
そうすることで、柔軟な肩関節を手に入れて、自由自在に竹刀を扱えるようになります。
その際に注意するポイントとしては、竹刀の軌道です。
正しい竹刀の軌道は斜め45度で、頭上に戻ってきたときには真っ直ぐになっていることを意識しましょう。
そしてその後にすかさず相手の反対側の面を打ち込んでいきましょう。
3.呼吸
上記のことを達成できた人は、続いて呼吸を意識しましょう。
切り返しは激しい動きをするため、途中で息継ぎをしてしまうことが多くあります。
しかし、人間は息を吸っている瞬間は急な反応ができない言われています。
つまり、人間は息を吸っている瞬間に隙が生まれます。
その隙を少しでもなくしていくためにも切り返しを一呼吸でする必要があるのです。
またそうすることで、心肺機能も高めることができ、同じメニューの切り返しでも全く負荷の異なる切り返しを生み出すことができるのです。
4.スピード
最後はスピードです。
大きく強く打ち込むことができた上で、だんだんとスピードを上げていきましょう。
速ければ速いほど、動きにキレが生まれて、見ている人を圧倒するような正しく激しい切り返しへと近づいていきます。
実際に剣道の全国トップレベルの選手たちは、驚くほどの速さで切り返しをしています。
そういった選手たちに一歩でも近づくために、スピードを意識してみてはいかがでしょうか。
|切り返しの受け方
切り返しは、元立ちが上手くないと掛かり手も上手くできません。
それほどに元立ちは重要なのです。
今まで元立ちをおろそかにしていた人は、見つめ直す機会にしましょう。
正しい切り返しの受け方のポイントは、3つあります。
1.体当たり
切り返しの中には、体当たりがあります。
体当たりも、剣道において重要な役割を果たします。
試合の多くの場面で体当たりのシーンが訪れるので、その際に大いに役立つことでしょう。
切り返しの際は、相手は勢いをつけてから自分に当たってくるので、それに負けないようにしっかりとした体当たりをする必要があります。
その際の注意点としては、手だけで押さないということです。
手だけで押してしまうと、力のこもっていない体当たりになってしまいます。
なるべく、腰から当たることを意識ことを意識しましょう。
相手が面を打突し、体当たりしてくる瞬間に右足を半歩前に出ることにより強い体当たりに耐える事ができます。
そうすることで、切り返し自体に激しさが生まれ、より正しく強い切り返しを行うことができます。
2.竹刀の位置
受ける際の竹刀の位置も重要です。
自分の面から離れた位置で受けてしまうと、実際の面の位置との間にズレが生まれてしまいます。
そうすると、掛かり手は力のこもった打ちができなくなってしまうのです。
より実際の面の位置に近づけるためにも、自分の面の近くで受けるようにしましょう。
その際は、竹刀が飛ばされてしまわないようにしっかりと握ることも重要です。
軽く握ってしまうと、簡単に竹刀が弾かれてしまい、これもまた掛かり手が力のこもった打ちができない原因となってしまうので気を付けましょう。
3.相手との間合い
相手との間合い(=距離)は一定に保つことも大切です。
近付きすぎると、相手が竹刀の物打ち(=打突部)で打つことができなくなります。
逆に遠すぎると、力の入った打ちができなくなったり、空振りをしてしまうこともあります。
相手によって打ちやすい距離を見定めて、相手が打ちやすい距離で受けてましょう。
|切り返しの留意点
上記のように多くの利点がある切り返しですが、一方で危険なポイントも多くあるので、それもご紹介していきます。
切り返しにおいて、動作上注意すべきポイントは2つあります。
1.後ろ向きで退がる
切り返し中は、後ろ向きで退がることが多くあります。
そのため、物が落ちていたり、人がいたりしても気付くことができません。
なので、切り返しをする際は周囲の安全を確認してから始めましょう。
また、道場の床が汗などで滑りやすくなっている状態も危険です。
面は後頭部を守ることができていないので、後ろ向きで倒れてしまうと極めて危険です。
そういった怪我の防止のためにも、安全確認を徹底してから取り組みましょう。
2.竹刀の破損
切り返しは竹刀と竹刀の激しい接触が多いため、竹刀の破損の元となります。
竹刀の破片が目に入ってしまい、失明してしまったという事例もあるほどに、竹刀の破片はとても危険なものなのです。
日頃から竹刀の手入れを怠らず、怪我のない環境づくりを意識しましょう。
参考記事:【竹刀を長持ちさせる手入れの仕方】
|切り返しを使った練習メニュー
続いて、切り返しを使った練習メニューをご紹介していきます。
本数の多い切り返し
本数の多い切り返しとして、具体的な数字では30本、50本、100本切り返しなどがあります。
数が多くなるに連れて体力的にとても厳しい内容になるので、初心者の方はまずは少ない本数から初めて、だんだんと多くしていくことをお勧めします。
強豪校などでは、切り返しに多くの時間を割くようです。
皆さんもたくさんの切り返しをして強くなりましょう。
切り返しの追い込み
切り返しの追い込みとはその名の通り、長い距離を追い込むように打ち込んでいく切り返しです。
道場の端から端まで切り返しを続け、足さばきと心肺機能の向上を目的としています。
このメニューの注意点としては、隣の列とスタートのタイミングを合わせるということです。
スタートのタイミングがずれてしまうと、背中と背中での接触を起こしてしまい、大怪我につながる恐れがあります。
タイミングを合わせる方法としては、太鼓や笛などを使うことをお勧めします。
|正しい切り返しとは?
以上、正しい切り返しについてのご紹介でした。
先にも述べたように、切り返しは剣道において重要な要素が多く含まれています。
今回説明した切り返しを極めて、一流選手の仲間入りを果たしましょう。