【有田焼の粋・玉のような美しさ】深川製磁 深川泰氏

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

~深川製磁 深川泰氏~

有田焼の老舗「深川製磁」で長年製造部門を担当する深川氏。
有田の地で代々窯焼き業を営んできた深川忠次によって明治27年に創立され、天草地方の陶石を使用した”玉”(ギョク)のような表面が特徴。    粘土を成形し、高温度で焼き上げた有田の伝統的な技法に、欧州の最先端技術を加えて、日本の美感を表現した世界の”フカガワブルー”と呼ばれる染付の澄んだ青色も特徴の商品を数多く生み出す深川氏に、約130年の歴史から「深川製磁」のこだわりまで、たっぷりとお話を伺いました。

(以下 KENDO PARK=KP   深川泰氏=深川)

|有田焼と陶磁器の歴史

KP:
この有田の地では、「有田焼」と「深川製磁」の歴史がリンクする部分が多くあると思うのですが、なぜ江戸時代にこれだけ陶磁器が発展し、深川製磁がこの地にあるのでしょうか。


深川:
日本では1万5000年以上前の縄文時代に土器が登場しており、これは世界的に見ても焼き物の出現する時期として早いです。
今でこそ世界中で陶器をつくっている方は多くいますが、それぞれの地域によって粘土や製法が異なります。
私たちが作っている磁器というのは中国が発祥の製法で、粘土も製磁用の特殊な性質を持つ白い陶石から作られ、表面が白い宝石のように美しいことから、日本で生産が開始される前から大変人気がありました。
そのため、どうにか国内で磁器を生産したいという思いで豊臣秀吉が朝鮮出兵の際に、佐賀藩の鍋島様が陶工を日本に連れて来たことと、この陶石が400年前に有田の地で発見されたことがきっかけで生産が始まりました。


KP:
佐賀県が朝鮮半島に近いという、地理的な要因も有田で磁器が発展したことに関係があると感じました。


深川:
地理的要因と偶然この地で陶石が発見されたことはとても大きいと思います。
その後、この磁器生産は藩の大事な産業となり、長崎の出島で佐賀鍋島藩が警備をしていた関係で外国人に磁器を販売し、輸出するようになりました。
外国人の中でこの美しさが大変人気を博し、VOC(東インド会社)から大量の注文が入ったことで17世紀頃に有田は大変発展しました。

17世紀の染付皿を復刻

|深川製磁のルーツ

KP:
いつから有田で磁器の作成を始めたのでしょうか。


深川:
17世紀に佐賀鍋島藩のもとで窯焼き業を始めました。大量の注文が入っていたため、多くの人材を集めたことがきっかけだと思います。


KP:
当時はかなり多くの新規参入者がこの有田に入ってきたということですね。


深川:
また、磁器の製陶技術というのは当時最先端のものであり集められた人達は外部に情報を漏らさない確かな人達だったとのことです。
技術を外に漏らさないために関所で藩窯関係者の出入りを制限するほど徹底した管理をしていました。


KP:
行政として管理していたわけですね。


深川:
それこそ代官様の許可制で生産していた程ですし、販売や貿易も許可制でした。


KP:
しかし、それまで日本は鎖国してきた訳なので海外との繋がりは薄く、外貨を得るために陶器を政府管理で売買していたのでしょうね。


深川:
幕末以降に活躍し明治政府の中心を担った人達は、若い頃に長崎で勉強し留学することで外国に目を向け、日本では何ができるかなどを考えていました。
海外で実際に体験したことを元に、有田焼を外国人の好みに合うようにアレンジしました。
明治大正を通じて、深川製磁を含む多くの焼き物がヨーロッパに輸出され、そこで深川製磁のファンが、ヨーロッパを中心に世界中に出来たわけです。

|深川製磁と海外との交流

KP:
そこから明治維新にかけて万博などで海外への露出が増えていったんですね。


深川:
江戸時代では、特に古伊万里が「IMARI」と呼ばれ、フランスやイギリスなどのヨーロッパの王室から人気で、日本に来ると必ず購入していく程でした。
その後、明治時代に入ると、ヨーロッパ諸国に追いつくために日本では晩餐会を開くようになり、その食器を有田で作りました。
また、富国強兵のために政府は貿易に力を入れ、パリ万博などのヨーロッパの博覧会に日本の焼き物を出品することで貿易を活発にしようとしました。
実は当時すでに日本の焼き物は人気で、万博に出品したものの中で一番外貨を稼いだのはやはり焼き物でした。


KP:
我々の元々のイメージとして焼き物と言えば茶碗などの日本的なものが多いですが、洋食器などの海外用にアレンジしたことが有田焼の凄いところだと感じました。


深川:
実は明治期から深川製磁の初代もヨーロッパに行き、西欧人向けの食器を作ろうと研究をしていました。
というのも、当時の日本市場はまだ発展途上であり海外に目を向ける必要があったのです。

KP:
しかし、それまで日本は鎖国してきた訳なので海外との繋がりは薄く、外貨を得るために陶器を政府管理で売買していたのでしょうね。


深川:
幕末以降に活躍し明治政府の中心を担った人達は、若い頃に長崎で勉強し留学することで外国に目を向け、日本では何ができるかなどを考えていました。
海外で実際に体験したことを元に有田焼を外国人の好みに合うようにアレンジし、明治大正を通じて深川製磁を含む多くの焼き物がヨーロッパに輸出され、そこで深川製磁のファンがヨーロッパを中心に世界中に出来たわけです。


KP:
有田焼とは別で深川製磁という名前で焼き物を認知している人々が、私たちが思っている以上に海外にはいるんですね。


深川:
深川の名前で認知している方は多いです。
戦間期では、ヨーロッパでも日本でも焼き物を楽しむという文化が廃れてしまいました。
戦後しばらくは深川製磁も大変でしたが、朝鮮特需により長崎や横浜などの港に外国から船が来るようになり、そこで焼き物をお土産として、大量に購入していただいたことで回復しました。

大正期の染付工房

|深川製磁と剣道

KP:
剣道との関わりはいつから始まったのでしょうか。


深川:
初代から家訓として刀鍛冶と関係のある花瓶があるのですが、その花瓶には焼き物も刀を作る精神と同じような心持ちで作るようにという想いが込められています。
そこで二代目からは武道を心得るようになり、二代目進は剣道をしておりました。
実力もあり、慶應義塾大学剣道部の主将を努めた上、ムッソリーニ元イタリア元首の前で、御前試合をしたこともあるそうです。


KP:
二代目から続く剣道との関わりは、深川製磁の歴史にも大きな影響を与えているのでしょうか。


深川:
深川製磁という会社に直接関係をしているというより、二代目以降、剣道の精神や剣道を通じた関わりが、現在の海外進出や剣道デザインの商品が誕生などに影響を与えていると思います。

KP:
まさに我々(KENDOPARK)がやっているような海外の方向けの事業に、当時から目を向けていらっしゃったのですね。


深川:
特に三代目の弟である叔父剛は、八段を取得するため生涯剣道に打ち込んいました。
剣道への愛情が深く、海外に当時剣道が広く普及していなかった時代から、ロシアやフランスへ出かけて、剣道の良さを海外に発信したいと強く考えていました。 剣道のデザインの酒器を作ったのも、新しいアプローチをしていかなければ、という思いを受け継いだからです。

1900年パリ万国博覧会に出品、深川製磁は海外でも大変人気があった

|130年続く工房にて

深川:
明治27年に創業し、初代深川が始めた工房です。
地震や戦災の影響を受けていないため、良い状態を保つことができています。


深川:
こちらの工房で、粘土作り、形作り、素焼き、染めつけ、直調合の釉薬までし、その後1350度ある本窯に入れ、美しい焼き物を作っています。
25以上の工程を約70名の職人で一気通貫して行なっています。


KP:
世界的にみると、何十年も修行を重ねた職人の作る焼き物は減ってしまったのでしょうか。


深川:
新しい技術や機械の発達により手頃な値段の焼き物が増えている一方で、焼き物の風合いは落ちているように感じます。月に一回、社内の工房の中にある陶山神社にて、社員とともにお祓いをいただいております。


KP:
創業当初から続けていられるのはすごいですね。

絵付けを行っている様子、大変繊細な作業である

深川:
工程としては、まず陶石と呼ばれる原料の石を人の力で磨いていき、真っ白な粘土を作り上げています。
そのままだと石が大きいのでカットし、巨大な石臼で石を砕きます。
下流の大きさの石、硬い川の石を水と一緒に機械に入れると、石同士がぶつかりさらに細かくなり、削れる音が聞こえます。


KP:
原理はかなり物理的、原始的だと感じますね。


深川:
次にポンプでフィルターに通します。
フィルターに通すことで水のみが下に落ち、水分を抜いた粘土のみが残ります。この粘土を板状にします。
これではまだ質感がパサついているため、粘土を練る機械で粘りをつけていきます。機械が回ることで上と下からプレッシャーをかけます。


KP:
この作業は「菊練り」に近いものを感じますね。


深川:
仰る通り、菊練りのようなことを機械でやっています。
これは世界中の焼き物業者が使っている機械です。
この状態では空気が入っているため、真空脱泡機で空気を抜いていきます。
この作業を経てはじめて、製品に使用できる粘土が完成します。


KP:
様々な細かい工程を踏んでいますが、原理はかなりシンプルですね。
余計なものを加えないことが、最終的に繊細で美しい陶磁器に仕上がる秘訣のように思います。


深川:
自然なものを自然な製法で作っています。
次に粘土をろくろの上にのせ、形を作ったらろくろから外し、乾かした後にもう一度ろくろにのせ、贅肉を削り、口当たりを調整します。
日本人は食器を手に取って使うので、口当たりや触り心地に敏感ですから、この工程によって仕立ての良いものになります。


KP:
一つ一つこの工程をやるのでしょうか。想像を絶する作業ですね。
それぞれ微妙に差が出るのも、個性のうちということでしょうか。


深川:
一つずつ手作業でやっていきます。全く同じものは一つとしてありません。
またマニュアルはなく、手本を見ながら職人が作っていきます。

次にあらかじめ用意した石膏の型の上に粘土をのせ、ろくろで伸ばします。
この時、均等に粘土を伸ばすことが出来なければ、窯の中でいびつになってしまうため、ここは非常に繊細な作業です。

大量生産とは違い正確にやらなければ売り物にならないため、熟練の技術が必要なのです。
慣れた職人でも、窯から上げたら曲がっていることもあるくらいです。


KP:
一つでもミスがあると、全体に響くという事ですね。

粘土をろくろで伸ばしている様子

深川:
次に乾燥させてロクロにのせて、削り仕上げで形を整えます。
焼く前には、自家調合したガラス質の釉薬を器に万遍なく掛けます。
白い液状の釉薬に、素焼きの状態の器をつけると、素焼きの状態は水を吸うので、水分を吸い込んで釉薬のガラス成分だけが表面に残ります。


KP:
これが独特の透き通った白になるものですね。非常に特徴的な白色だと思います。


深川:
今回の盃は内側を白にして、外側に瑠璃色の釉薬を掛け分ける手法で、2日間かけて作業します。
この工程は専門の職人でないと上手く作ることが出来ませんし、少しでも間違えるとやり直しが出来ないことも難しいところです。


KP:
製品の形状によって、つけ方が違ってくるのですね。色々な形がありますが、一つ一つ見ながらやっていく手間があってこその、美しさなんだと感じます。


深川:
800度くらいまで温度が上がると、窯の入り口と出口を絞ります。
そうすると、窯の中の酸素量が減り、いわゆる蒸し焼き状態になります。
そうすると、透明感も生まれるんです。
同じ1350度でも空気が入ると、粘土の色がそのまま出て透明感がなくなります。


KP:
化学反応まで考え、緻密に計算した結果、”玉”のような美しく唯一無二の製品が出来上がるということですね。

光に当てることで透明感の違いが顕著に

|絵付けの高度な技術

深川:
この商品は(上記の画像)叔父剛がデザインをした剣道具と桜をモチーフにした柄を、酒器に絵付けしています。


KP:
絵柄を拝見すると、面金や竹刀の細かな部分まで繊細に描かれていて、高度な技術が必要だと感じます。


深川:
これは「上絵付け」という技法を用いていて、真っ白に焼いた土台に絵の具を10種類以上重ねて作っております。
実際手で描くと値が張るため、”シルクスクリーン”を用いています。
何種類もの判を作り、重ねていくことで、手書きで書いたような繊細なタッチになります。
表面を手で触ると重ねた絵柄の凹凸を感じることができ、ステンドグラスを上にのせたような風合いになるため、通常プリントのような製造方法とは全く異なったものになっております。


KP:
ベースの綺麗な白があるからこそ、絵が際立って見えるように感じますし、「蒔絵」に近いような感覚がありますね。


深川:
まさに仰る通りです。
焼き物の特徴でもありますが、大切に扱って頂くと永久に美しさが変わることはありません。
しかし、焼き物は固い分衝撃に弱いという特徴もあります。
ですから、扱いをきちんと覚え、割れてしまうものだという意識を持ち扱っていただければと思います。
大切に扱えば、非常に長持ちすると思います。


KP:
様々なユーザーがいらっしゃると思いますが、やはり徳利や湯呑みが人気でしょうか。


深川:
そうですね。どちらかというと、男性の方がお使いになるものは、徳利などの酒器に人気があると思います。


KP:
剣道にゆかりがある方がご購入されることが多いと思いますが、実際にどのようなご意見がありますか。


深川:
一番は、磁器でお酒を頂くと非常に美味しく感じることです。
美味しく頂けることで、身体の健康や長生きにも…繋がるのではと思っております。


KP:
この酒器でお酒を頂くことで、気持ち的にも高貴な感じがして楽しめるように思います。


深川:
仰る通りで、人間は味覚だけでなく見て、触った感覚や雰囲気も味として感じることができると考えていますので、見て楽しむことも非常に大切だと思います。


KP:
ただ使うだけではなく、その物の歴史や背景を考えながら使用することは、高級で上質な防具を身に付けて稽古をする感覚と似ているような気がします。
また、贈答用だけでなく、自らの気持ちを高めるという意味で昇段審査や大切な場面の前に使うのも一つ面白いと思いました。


深川:
剣道の精神性、ただの勝ち負けではない修行のような要素は、大切な日本の文化であり、磁器作りにも繋がるものだと考えています。
今後も、剣道を通じた価値観は大切にしたいと思っております。

深川製磁【有田焼・剣道酒器セット】
深川製磁【有田焼・剣道ロックカップ】はこちらから
深川製磁【有田焼・剣道お猪口セット】はこちらから

|剣道具専門通販セレクトショップ【KENDO PARK】

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

コアな剣道情報を配信いたします!

【無料メールマガジンを配信いたします!】

KENDO PARK会員及びメルマガ登録していただいたお客様に、剣道に関する情報を発信いたします。
今なら、メルマガ登録で割引クーポン進呈中!

 

  • 有名剣士インタビュー
  • 最新剣道具情報
  • 大会情報

 

剣道を愛し、極め、楽しむ方々へ、有用な情報をしっかり届けてまいります。
是非、無料メルマガにご登録ください。


KENDO PARKへGO

SNSでもご購読できます。