【警察の剣道事情】〜特練員とは何か?〜

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警察,剣道

剣道をする皆様、あるいは剣道ファンの皆様にとって、警察剣道界の選手たちの洗練された実力はよく知るところではないかと思います。
その中には、いわゆる「特練員」といって専門的に剣道の鍛錬を行う人たちが数多く存在します。
特練員のなり方や業務をはじめ、警察官の剣道について解説していきます。
また、警察の強豪チームについても解説します。

|警察における”剣道”の位置付け

高校・大学で剣道を極めた人が、そのまま警察に行って剣道を続ける、という話は多々聞いたことがあるかと思いますが、そもそもなぜ”剣道を極める”=”警察”となるのでしょうか。
警察官にとって剣道とはどういうものなのか、というところから理解を深めましょう。

術科教養

昭和50年に警察庁が発表した「警察白書」の9章に、「警察教養」という項目があります。
そこには警察官に必要な教養が三つ記載されており、学校教養・一般教養にならび、術科教養が必要とされるとされています。

「警察官の職務には、犯人の逮捕、人命救助等強固な体力と精神力をもって当たらなければならないものが極めて多いため、 柔道・剣道等の訓練を通じてこれらの能力を錬成し、更に、これを基にして逮捕術やけん銃操法等の職務執行に必要な術科技能を習得しなければならない。 」とあるのです。
つまり警察官にとって剣道の鍛錬は、歴史的にも必要不可欠で尊重されるべきものなのです。

警察,剣道
警察学校の授業や日常業務の中にも、剣道が組み込まれている。

|術科特別訓練員(特練)とは?

日本の警察において、術科の訓練を重視するがゆえに指定された警察官を特練員と称して強化する制度があります。
各都道府県によってどの競技の特練員を置くかは異なりますが、一般に柔道・逮捕術・けん術射撃などがあり、剣道もここに含まれます。

高校・大学の剣道界で揉まれた猛者たちが自らの実力を更に高めるために警察特練員を目指すことが多く、こうした選手が多い背景には剣道にプロ制度がないことも原因の1つです。

実業団や教員など、社会人として剣道を続けていく道はいくつかありますが、その中でもより多くの時間を剣道修行に割ける点で、更なる実力を目指す選手たちが特練を目指すのも当然であると言えるでしょう。

特練員になるためには?

ではどうすれば特練員として警察官になることが出来るのでしょうか。

剣道特練員は、一般の警察官とは別個の採用枠が設けられます。
この採用は後に警察官の術科指導員として、他の警察官へ剣道の指導に当たることを期待されますが、若いうちにはとにかく試合に勝つ事が求められます。

もちろん採用されるには剣道が強いことは欠かせませんが、更にそれを示す試合実績が必要となります。
よって、剣道強豪校に所属し将来警察官として剣道に携わりたいと思っている人達は、とにかく学生時代に実績を残すために日々しのぎを削っているのです。

特練員の業務

前述した通り、剣道特練員は剣道界における唯一のプロのような位置付けをされており、基本的な業務は剣道の修練と言えます。
しかし、 実は彼らの殆どが警察機動隊としての顔を持っています。
招集がかかればすぐに駆け付けて、震災や事件などの警戒・鎮圧、時には VIPの護衛など、機動隊としての任務を果たすのです。

仮に稽古中であっても、管轄所管内で該当事件や事故が起こった場合は、直ちに稽古を中断して駆けつけることになります。

どのような状況でも、すぐに駆けつける機動隊。
画像出展:山陽新聞デジタル

特練員が目指すもの

特練員には試合で勝つことが求められると前述しましたが、具体的に彼らが目標としているのは全日本剣道選手権大会、全国警察剣道選手権大会、全国警察剣道大会での優勝です。

全日本剣道選手権大会は地方予選によって勝ち上がった各県の代表者が、日本一を目指しトーナメントを勝ち抜く個人戦大会です。
各地方予選でも警察特練員がその実力を遺憾なく発揮し全日本への出場権を勝ち取る場面が数多く見られます。
また、全日本剣道選手権大会の歴代優勝者もその多くが特練員で占められているのです。

全国警察剣道選手権大会は、全国の都道府県警察署と皇宮警察所属の術科特別訓練員(=特練員)から、個人の日本一を決める個人トーナメントです。
「警察の仕事は真剣勝負と同じで二本目はない」との理念から、「時間無制限1本勝負」ルールにて争われます。(2019年現在)

全国警察大会は一部から三部までの、三部門で構成される団体戦大会です。
各部門ごとに団体メンバーの人数が異なるなど、細かな違いがあります。
また、一部から順番に実力順で分けられることが多く、各都道府県警の特練員たちは一部での優勝を目指し日々の練習に打ち込んでいます。

いわゆる「全日本選手権」と「全国警察大会(個人・団体)」が、2大タイトルとされる。
画像出展:LET’S KENDO

なぜ警察にいくのか

先ほども触れた通り、剣道の実力を更に高めることを望む選手には警察へ奉職する人がとても多いです。
そこで、実業団などと比べて警察で剣道をすることには、どのような利点があるのかについて解説していきます。

まず実業団について見てみましょう。
企業などによってある程度の差があるとは言え、基本的な実業団の稽古は平均して週に2日程度です。
また、1回の稽古時間は1時間から長くても2時間ほどでしょう。

仕事の都合などもあり稽古回数、稽古時間が少なくなることもあり、稽古時間の確保には苦労している選手も多いようです。
これはやはり会社員として仕事を中心に考え、剣道は余暇の時間で行っていることが一番の原因でしょう。

参考記事:【実業団の剣道事情とは?】強豪チーム〜就職事情〜自社道場まで徹底網羅!

続いて警察特練員についてですが、一週間の半数以上は稽古をしている場合が多く、その中でも1日に2部練習、3部練習をしている場合もあるようです。

そもそもの警察官にとって剣道を学ぶことの意義については、昭和26年の警察の剣道訓練再開の通達を見ることで理解できます。

警察における剣道訓練の目的は、警察官が逮捕術を体得し、これを有効に実施に用いるため必要な技術、体力及び精神力を錬磨するにあること、及び警察官の体育として心身の健全な発達を助長すること

「警察における剣道訓練の目的」

上記の理念から、警察官は剣道や柔道を学ぶ事が義務として課されており、そのなかでも特練は剣道を専門的に訓練する集団であるため、剣道に割く時間が多くなるようです。

結果として、会社や仕事を中心に考えなくてはならない実業団剣士とは異なり、業務の一部として剣道に打ち込める環境の整っている特練の方が、稽古時間を取りやすく、厳しい練習にも打ち込めるために、警察剣道を目指す剣士が多いといえるでしょう。

全国警察剣道大会
画像出展:LET’S KENDO

|警察の名門チーム

次は警察剣道界の名門チームを紹介していきます。
今回ご紹介するのは、強豪ぞろいの警察剣道界の中でも常に一線で活躍し続ける一流チームばかりです。

警視庁

まずご紹介するのは、警視庁剣道特別訓練員です。
警視庁は、過去から現在に至るまで数多くの名選手を輩出してきました。
過去3回の全日本優勝経験を持つ内村良一選手や、史上最年少で全日本選手権優勝を果たした竹ノ内佑也選手(※優勝当時筑波大学所属)も警視庁所属です。

その他にも、世界大会でも活躍している多くの一流選手を擁しています。
主席師範の西川清紀氏をはじめ、豪華な指導陣を揃えており、「剣道の形」にもこだわった指導が特徴です。

近年主流であった「短い面垂」を廃止したり、試合前後の所作が若干異なるなど、「正しい剣道」を追い求める独特の文化が特徴です。
一方で、これこそが警視庁特練の「正剣」ともいえる剣風の由来でもあります。

警視庁には、学生時代から名の通った選手が集まる。
画像出展:LET’S KENDO

神奈川県警

お次にご紹介するのは神奈川県警特別訓練員です。
実力・選手層の厚さともに日本トップクラスの特練で、日々厳しい稽古に取り組みその実力をさらに洗練させています。

宮崎正裕氏や高鍋進氏といった往年の名選手を指導陣に添え、全日本、そして世界大会で活躍するメンバーがそろっています。

男子では全日本選手権優勝者である勝見選手、女子では個人団体双方で世界王者である松本選手を筆頭に、男女ともに日本を代表する選手が数多く在籍しています。

神奈川県警,剣道
「平成の剣豪」といわれた宮崎正裕氏も、神奈川県警所属。
画像出典:神奈川県剣道連盟ブログ

大阪府警

最後にご紹介するのは、関西の名門である大阪府警です。
近年では全国警察大会(一部)で3連覇を成し遂げており、「日本最強」言われるチームです。

全国や世界の舞台で活躍した寺本将司氏を指導陣に添え、2018年世界選手権では男女合わせて4名もの選手が日本代表に選出されています。
ベテラン選手から若手選手まで、世代を問わず強豪選手が揃っているのも特徴です。

フィジカルを生かした打突力と、豪快な剣風が特徴です。

大阪府警,剣道
近年、全国警察剣道大会で無類の強さを誇る大阪府警。
画像出典:LET’S KENDO

|過去の全国警察剣道大会結果

最後に、直近数年の全国警察大会の結果を記載いたします。

2022年

男子

・一部
優勝 警視庁  二位 北海道警  三位 大阪県警  四位 愛媛県警

・Ⅱ部
優勝 兵庫県警  二位 京都府警  三位 大分県警  四位 茨城県警

・Ⅲ部
優勝 沖縄県警  二位 埼玉県警  三位 佐賀県警  四位 山形県警

女子

優勝 大阪府警  二位 神奈川県警  三位 警視庁  四位 京都府警

2018年

男子

・一部
優勝 大阪府警  二位 神奈川県警  三位 警視庁  四位 北海道警

・Ⅱ部
優勝 山口県警  二位 鹿児島県警  三位 福岡県警  四位 三重県警

・Ⅲ部
優勝 皇宮警察  二位 茨城県警  三位 徳島県警  四位 高知県警

女子

優勝 警視庁  二位 大阪府警  三位 京都府警  四位 神奈川県警

2017年度

男子

・Ⅰ部
優勝 大阪  二位 警視庁  三位 神奈川  四位 北海道

・Ⅱ部
優勝 愛知  二位 兵庫  三位 岐阜  四位 愛媛

・Ⅲ部
優勝 鹿児島  二位 福井  三位 三重  四位 石川

女子

優勝 大阪  二位 神奈川  三位 警視庁  四位 岡山

2016年度

男子

・Ⅰ部
優勝 大阪  二位 神奈川  三位 警視庁  四位 北海道

・Ⅱ部
優勝 京都  二位 福岡  三位 和歌山  四位 山口

・Ⅲ部
優勝 大分  二位 愛媛  三位 愛知  四位 岐阜

|特練剣士達の活躍に注目!

今回は、「警察の剣道事情」についてご紹介させていただきました。
警察特練員は今後も全国、そして世界の舞台で活躍してくれるであろう一流選手達です。

今後も、日本の剣道界で最もハイレベルな警察剣道に注目していきましょう。

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