▼スペシャルインタビュー▼
第1部「ビジネスマン剣士、八段一発合格への道」
〜剣道教士八段 東倉雄三(1)〜
いわゆる”サラリーマン剣士”でありながら、1度目の挑戦で八段審査合格という快挙を成し遂げた東倉氏。
第1部では、その秘訣と道程を掲載いたします。
(以下 KENDO PARK=KP 東倉雄三氏=東倉)
-東倉雄三(とうくらゆうぞう)-
1968年生 和歌山県出身
小学2年生で剣道を始め、平塚江南高校(神奈川県)から同志社大学(京都)へ進学。
大学卒業後はソニー株式会社に就職し、現在はソニービジネスソリューション株式会社へ勤務。
中国を中心に海外駐在を多数経験し、アジア各地の剣道普及に貢献。
2018年5月に、”サラリーマン剣士”でありながら剣道八段審査に1回目の受審で合格。
主な実績に、全国基督教系大学剣道大会優勝、関西学連剣友大会準優勝、アジアオープン香港剣道大会優勝6回ほか。
現在ソニー株式会社剣道部部長、厚木市剣道連盟理事を務める。
海外剣士にも、多数のSNSフォロワーを抱える。
|「無欲」が最高の結果を生む
KP:
この度は八段昇段おめでとうございます。
まず、八段挑戦までの道程を教えてください。
東倉:
ありがとうございます。
私は40歳で七段に昇段したのですが、その際に「10年後、まだ体が動くうちに八段にチャレンジできるな」と考えていました。
また、サラリーマン仲間からも八段の1次審査に受かる人が出てきたこともあり、「一生のうち一度でも、2次審査の舞台に立ってみたい」という目標設定で臨みました。
私はあくまでサラリーマン剣士ですので、「絶対に受からなければならない」といった気負いは全くありませんでした。
ある意味で、その「無欲」さがよかったのではないかと思います。
KP:
審査までに取り組んだことは何ですか?
東倉:
まず一つ目は「呼吸法」です。
自分の特徴として、大きな体格と突進力を生かした面技が強みであると考えていました。
一方で、今の年齢からスピードや体力を向上させるのは難しいと考え、専門的な知識はありませんが、とにかく「呼吸法」を意識した稽古を心がけました。
具体的には、「攻める時は息を吐き続ける」ことです。
人間は息を吸った時は力が入りませんが、息を吐いている時であれば、自分からも攻められますし、相手の動きに対しても対応することができます。
稽古の中でいえば、触刃に入るの前に発声を行い、触刃の間に入ったらなるべく長い時間息を吐き続けるようにしました。
これを続けた結果、無駄打ちが少なくなり、最近では相手の息遣いも感じながら攻め入ることができるようになりました。
KP:
ほかにはありますか?
東倉:
もう一つは「ビデオ研究」です。
以前より、佐藤誠先生(大阪・剣道教士八段)からビデオ研究の重要性をご指導いただいておりました。
とはいえ日頃の業務が忙しく、京都大会や京都の審査会を直接見ていたもの、それ以上の素材は見ていませんでした。
しかし審査日直前に、たまたま時間ができたためYouTubeで「八段 合格」と検索し、合格者を中心に6~7名の立会いを拝見しました。
そこで合格者の間に共通点を発見しました。
・返し胴以外の前技で、最低1本は有効打突がある。
・初太刀にはこだわらず、あくまで自分から機会を作っていく。
ということです。
上記を踏まえた結果、とにかく「慌てないこと」が大事であると考えました。
よく高段の審査では「初太刀をいかに打つか」ということを聞きますが、初太刀を合気で綺麗に決めることなど、確率的には相当低いと思います。
先ほどの呼吸法も踏まえて、自分の打ち間でなければ我慢すれば良いですし、仮に相手が打ってきてもしっかり捌けば大丈夫ということがわかりました。
これに気づけたことで、かなり落ち着くことができたと思います。
※参考記事:【観察と分析こそ上達のカギ】剣道教士八段 佐藤誠
|「普段通りであること」の重要性
KP:
日頃大変ご多忙かとは存じますが、稽古量はどのように確保したのですか?
東倉:
会社の業務上、転勤や海外出張も多いことから、稽古時間の捻出は相当意識して行いました。
3年ほど前から「年間100回稽古」を掲げ、SNS上でも記録を付けて、世界の剣友と励ましあってモチベーションを維持しました。
海外出張の際にもできるだけ剣道具を持参し、現地でも稽古を行えるように準備いたしました。
そこで役に立ったのがSNSです。
特に海外の方は、稽古の様子をSNSに頻繁に投稿なさるため、自然と剣友の輪も広がっていきました。
結果として、赴任先や駐在先でも円滑に稽古場所を探すことができるようになりました。
受け入れていただいた皆様には、本当に感謝しております。
KP:
審査当日の過ごし方を教えてください。
東倉:
とにかく「普段通り」に過ごしました。
会場には顔見知りの先生はもちろん、海外駐在時代に一緒に剣道をした方々もいらっしゃいましたので、いつも通り挨拶を交わしました。
ウォーミングアップも後輩と一緒に行ったので、自分としてはいつも通り立会いに入れたと思います。
先述のように、立会いでは「慌てないこと」を意識していたので、落ち着いて取り組むことができました。
もちろん私の有効打突はありましたが、一方で打たれた部分もありましたので、決して他の方と比べて「圧倒的な」パフォーマンスだったわけではありません。
とにかく雑念を持たずに、普段の稽古通りできたことがよかったと思います。
KP:
1次と2次審査の間はどのように過ごされたのですか?
東倉:
本当の意味で「普段通り」でした。
というのも、審査日が平日であったため、当日は会社を休んで参加していました。
1次審査が終わった後スマホを確認すると、会社から業務連絡が山のようにきていたため、結局着替えてパソコンを持ち出し、業務をこなしておりました
結果として、「普段通り過ごさざるを得なかった」というのが本当のところです。
KP:
当然ながら、自身初の2次審査であったとは思いますが、いかがでしたでしょうか?
東倉:
2次審査ともなると、全国の高名な先生方が私の立会いだけを見てくださいます。
こんな贅沢な環境で剣道ができることに、何よりも幸福感が大きかったように思います。
少なくとも「受かりたい」などという気持ちは、一切なかったです。
また性格的にもいい意味で調子に乗りやすいタイプなので、視線が集まったことでより集中して立会いに入ることができました。
2次審査は本当に強い相手しかいないので、普通に立ち会ってもなかなか打ち込めないと思います。
その意味でも、「乗りやすいタイプ」のほうが審査向きであるように感じました。
KP:
八段に昇段して、変化はありますか?
東倉:
世界中からお祝いのメッセージを頂き、本当に感謝しています。
審査後数日間はスマホが鳴り止まず、八段昇段の持つインパクトに大変驚いているところです。
一方で剣道に関しては、何も変わっていません。
昇段すると急に強くなられる方もいらっしゃるとお聞きしますが、「無欲」で昇段している身としては、これからも変わらず黙々と稽古に励みたいと思っています。
一つ変化があるとすれば、今まで先生にかかってばかりだったところが、師範の横で元に立たせていただく機会ができたことです。
常に師範の先生の後ろ姿が視界に入るのですが、今まで見えていなかった「先生方の凄さ」が見えるようになりました。
まだまだわからないことだらけですが、いつか先生方のような剣道ができるようになりたいと思っています。
KP:
前半最後として、社会人剣道家の方々にメッセージをお願いします。
東倉:
私の原動力は、何よりも「剣道が好き」ということです。
それさえあれば、どんな環境下でも剣道を追求することはできると思います。
私も引き続き全国を飛び回って稽古にお伺いしますので、皆様と稽古できる日を心よりお待ちしております。