▼スペシャルインタビュー▼
第2部「海外剣道への想い」
〜剣道教士八段 東倉雄三(2)〜
海外駐在歴も長い東倉氏。
駐在員ならではの視点から、海外剣道への想いを語っていただきました。
(以下 KENDO PARK=KP 東倉雄三氏=東倉)
-東倉雄三(とうくらゆうぞう)-
1968年生 和歌山県出身
小学2年生で剣道を始め、平塚江南高校(神奈川県)から同志社大学(京都)へ進学。
大学卒業後はソニー株式会社に就職し、現在はソニービジネスソリューション株式会社へ勤務。
中国を中心に海外駐在を多数経験し、アジア各地の剣道普及に貢献。
2018年5月に、”サラリーマン剣士”でありながら剣道八段審査に1回目の受審で合格。
主な実績に、全国基督教系大学剣道大会優勝、関西学連剣友大会準優勝、アジアオープン香港剣道大会優勝6回ほか。
現在ソニー株式会社剣道部部長、厚木市剣道連盟理事を務める。
海外剣士にも、多数のSNSフォロワーを抱える。
※前回まで:第1部「ビジネスマン剣士、八段一発合格への道」
|海外剣道に衝撃を受ける
KP:
東倉さんは、海外にも多数のSNSフォロワーを抱えていらっしゃいます。
海外での剣道について教えてください。
東倉:
海外で剣道をするようになってから、自分の剣道観は確実に変わったと思います。
ソニーへ入社後、2004年から北京と台北での海外駐在を経験し、2012年までの約8年を中国と台湾で過ごしました。
北京赴任直後に、アジアオープン香港剣道大会※1に参加させていただき、そこで世界各地から集まる剣道家や駐在員の方々と初めて交流いたしました。
日本語、英語、中国語、広東語が飛び交い、海外大会特有のいわゆる「ウェルカムパーティ」※2も初体験であったので、本当に衝撃を受けたのを覚えています。
※1:毎年春先に行われる、フリー参加型の剣道大会。
大会期間中、トーナメントのほか、審査会、交流会等も催される。
※2:海外開催大会では、「ウェルカムパーティ」や「サヨナラパーティ」と題し、大会期間中の夜に参加者の親睦パーティが催されることが多い。
最初に赴任した中国では、剣道をする環境が整備されておらず、現地剣道連盟の立ち上げ期でもありました。
その中で自分も指導にあたるようになり、世界剣道連盟への加盟に携わるとともに、2009年世界剣道選手権ブラジル大会では、中国チームのヘッドコーチを務めさせていただきました。
※中国チームは2009年大会が初出場
台湾駐在時も、台北日本人学校指導者会の立ち上げに参画いたしました。
台北を中心に、稽古を通して色々な方々にお世話になりました。
これらの経験を通して、恵まれない環境の中でも熱心に剣道を学ぶ現地の剣道家と、仕事と両立しながら彼らを指導する現地駐在員の先生方の姿に大変感動しました。
KP:
具体的にどのように剣道観が変わりましたか?
東倉:
彼らと触れ合うことで、「伝統文化を普及させるとは、こういうことだ」ということを逆に教えられました。
剣を交えるのはもちろんのこと、自ら剣道を文化的側面から学び、共有することこそあるべき普及の姿であると感じました。
また「なぜ剣道は、こんなに人の心を惹きつけるのだろう」というシンプルな問いも生まれました。
日本にいた時は考えたこともありませんでしたが、改めて剣道の本当の価値を考える機会となりました。
一期一会を大切にし、たとえ言葉が通じなくても、剣道を通じて世界各国の剣士と交流ができることが、剣道を続けていく上で確かなモチベーションとなっています。
|世界共通言語としての剣道
KP:
ほかに海外剣道を経験してよかったことはありますか?
東倉:
様々な面で、学びの機会を数多くいただくことができました。
赴任直後は語学を学びながらの生活であったのですが、たまたま「中国現地で日本伝統の剣道をやっている」というだけで、中国語学習キットのモニターをやらせて頂きました。
そういった縁もあって、駐在直後にもかかわらずNHKの中国語会話シリーズにも出演させていただきました。
また海外で剣道をしていると、日本にいるよりも有名選手や高名な先生方にお会いしやすいこともあります。
先生方が海外指導にいらした際は、現地駐在員がアテンドすることとなりますので、自然と色々な先生方と稽古をしたり、知り合えたりするようになりました。
むしろ日本にいた時よりも、そういった機会に恵まれたと思います。
動画出典:NHK中国語会話「北京駐在シリーズ」”社会で活きる中国語”
KP:
とはいえ、海外駐在は「期間限定」だと思うのですが、それほど海外への想いを持ち続ける理由はなんでしょうか?
東倉:
一つは私のこれまでの経歴もあると思います。
私は決して剣道エリートの道を歩んできたわけではないので、学生剣道にあるような一種の「燃え尽き」は全くありません。
同志社大学時代は、同期6名のうちスポーツ推薦でないのは私ともう一人だけでした。
しかも私は浪人しての入学であったため、ブランクもあり「2軍の大将」のようなポジションが指定席でした。
就職してからも、実業団の強豪チームのように定期的な稽古があったわけではないので、赴任した先々で細々と続けてきました。
そもそも就職した当時はソニーの変革期で、アナログからデジタルに事業シフトしている時でした。
まだアップルなども台頭してきておらず、仕事が本当に忙しかったので、剣道に取り組む余裕は一切なかったと思います。
それともう一つは、海外での剣道を通して剣道の魅力に改めて気付かされたことだと思います。
剣道を通して海外剣道家の熱意に触れ、世界中に仲間ができました。
彼らとのつながりが、剣道を続ける上での原動力となっていることは確かです。
これらにより、「学生剣道をやりきった」という意識よりも、純粋に「剣道が好き」という気持ちが今でも一番大きいです。
KP:
今後の目標を教えてください。
東倉:
具体的なものはないですが、海外の剣道には今後も関わっていきたいです。
特に駐在した中国と台湾のチームは、応援していきたいと思っております。
引き続き、知らないところに行って知らない人たちと剣を交えていきたいと思います。
一方で八段に昇段致しましたので、今後は彼らにしっかりとした剣道を伝えなければならないと感じています。
そういった意味では、これまでと違った意識で海外剣道に携われるのではないかと考えています。
この度八段に昇段できたのも、世界中の先生方や剣友の支えがあったからだと考えております。
特に、過去の駐在地の方々には、直接伺ってお礼を言いたいと思います。
世界中の剣道家に会えることを、心から楽しみにしております。