「”勝ち続ける”メンタリティー」
〜剣心館道場館長 宮川覚次〜
学生時代に6度も日本一に輝き、史上初めて高校3年・大学1年の別カテゴリーで2年連続日本一となった宮川覚次氏。
現在道場主となり、指導者となった今だからこそ話せる剣道観や想いをお伺いしました。
(以下 KENDO PARK=KP 宮川覚次氏=宮川)
-宮川覚次(みやがわかくじ)-
1982年 神奈川県生
久里浜剣士会(神奈川県)、PL学園高校(大阪府)、筑波大学(茨城県)出身。
中2時に、全国道場少年剣道大会で個人優勝。
高3時に選抜優勝、インターハイ個人優勝、団体第3位。
大学1年次に、全日本学生剣道選手権大会で優勝。
史上初めて、高校3年・大学1年の2年連続個人全国優勝を達成。
全日本学生剣道優勝大会でも優勝2回。
高3時より日本代表強化指定選手に選出。
大学卒業後、海上自衛隊に奉職。
海上自衛隊退任後、2015年に地元横須賀市で剣心館道場を設立。
現 剣心館道場館長。
剣道六段。(2019年12月現在)
|勝つことで生まれるプレッシャー
KP:
宮川先生は、学生時代に6度も日本の頂点に立っていらっしゃいます。
「勝ち続ける」ための秘密を教えてください。
宮川:
特別なことはしていません。
中学時代に初めて全国優勝をしてから、相当なプレッシャーを感じるようになりました。
そのような時はあえて特別なことはせず、普段通りの姿勢で、いつも通りの稽古を行うことを意識していました。
実際、「勝ち続けること」自体に欲はなかったように思います。
「あいつが宮川か」というような周りの目も感じてはいましたが、特に気にしていませんでした。
KP:
そのような姿勢は、どこから来ているのでしょうか?
宮川:
これまで師事してきた先生方の指導が元になっていると思います。
私の出身道場である、久里浜剣士会の千葉光昭(ちばみつあき)先生は、勝敗よりも人間性を重視した指導を頂きました。
稽古においても、試合で勝つ技術よりも、基本練習を繰り返し行うスタイルでした。
地元の神奈川県から大阪府のPL学園高校に進学したのも、当時の川上岑志(かわかみたかし)監督が同じような考え方でいらっしゃったからです。
当時のPL学園の稽古や学生生活は、想像を絶するものでしたが、稽古内容はあくまで基本の延長であり、厳しい生活規律も人間形成を目的として考えられていたからです。
そのおかげもあって、高校3年時にインターハイで優勝し、全日本強化合宿にも呼んでいただけるようになりました。
|現代の学生剣道との違い
KP:
史上初めて、高校3年・大学1年の別カテゴリーで2年連続日本一となりました。
宮川:
全日本学生選手権で優勝させていただきましたが、そもそも進学した筑波大学がスーパースター揃いでしたので、部内で鍛えていただいたのが本当によかったと思います。
当時在籍していた先輩方は、いずれもその後警察や全日本選手権で活躍するような方々ばかりでした。
当時はまだ1年生でしたし、周囲が全国的に名の知れた先輩方ばかりでしたので、少なからずやりづらさは感じていたと思います。それでも勝負になれば、先輩後輩関係なくできたのが良かったのだと思います。
当時から筑波大学の稽古は、各年代の男女主将を中心に自分達で稽古メニューを決めていました。
稽古自体は厳しかったですが、規律が厳しかった高校時代に比べ、良い意味で「自由に」やらせて頂ける環境であったと思います。
KP:
当時の学生剣道と今の学生剣道で、違いを感じますか?
宮川:
今の子は、本当に技が多彩だと思います。
当時はまだYouTubeも無かったですし、鍔迫りルール(=10秒以内に別れる 等)も無かったので、パワーかスピードを重視した大技に頼っていたと思います。
私は比較的小柄ですので、スピードを磨くことを意識していました。
結果として、当時の稽古内容は比較的原始的な基礎練習が多かったと思います。
現在も稽古メニュー全体はあまり変わっていないようですが、技研究の面やバリエーションの面では、今の学生の方が豊富だと思います。
|言語化の壁
KP:
大学卒業後から、子供達の指導に携わっていらっしゃいます。
宮川:
卒業後、体調の問題で一時剣道から離れた時期もあったため、そこから選手の第一線に復帰するよりも、自分の経験を伝えたいと思うようになりました。
そこで、地元の道場で少しずつ子供達の指導を始めました。
ちょうどその頃海上自衛隊に入隊し、自衛隊の中で稽古をしながら、合間に道場へ指導に行くようになりました。
身体のリハビリも兼ねて指導を行なっていたのですが、次第に指導の楽しさや難しさを感じるようになりました。
指導者誰しもが経験することだと思いますが、最初に指導する際に必ずぶつかる「言語化の壁」に直面しました。
これまで自分の感覚でやってきたことを、子供のレベルに合わせて伝えないといけないので、自分がやってきたことを言葉にする作業が必要でした。
正直自分が勝つよりも、子供達を強くする方が難しいですが、その分子供達に指導が伝わって、結果を出してくれた時の喜びは何物にも代えがたい瞬間です。
|剣道観を高める
KP:
現在のご自身の剣道観についても教えてください。
宮川:
学生時代は「早く当てよう、とにかく勝とう」という意識ばかりでしたが、今は「構えてからの、中心の駆け引き」を重視しています。
なかなか自分の稽古をする時間も機会も無いですが、剣心館道場の稽古で週に何回か基本打ちをさせてもらったり、子供達や大人との地稽古の中で、相手を見ながら少しずつ調整していくイメージです。
近隣の道場等の稽古に参加させて頂いたり、次元の選手と稽古したりすることもあるので、その中で自分の剣道のクオリティを高めていくのは十分可能だと思います。
|子供達を日本一に
KP:
剣心館道場について教えてください。
宮川:
剣心館道場は、2015年に立ち上げたまだ新しい道場です。
道場を始めるにあたっては、地元の先生方に挨拶を行い、地元のほぼ全ての小中学校に連絡して道場や体育館を使わせて頂けるよう交渉いたしました。
(現在主に横須賀市立大津小学校と横須賀市立公郷中学校を使用)
最初は私の甥っ子2人からスタートし、そこから稽古をしている学校の子供や私を知ってくれている親御さん、生徒の友達などから少しずつ会員が増えていきました。
現在では小中学生30名弱、大人10名前後の合計約40名の会員で運営しております。
剣心館道場では、私が学んできた基本を大切にした稽古を行っています。
それと同時に、まずは相手に立ち向かう精神力を引き出すため、試合においては「とにかく足を使って前に行く」ことを指導しています。
一方で、小学校高学年くらいから戦略や戦い方、技の出し方といった「勝ち方」の部分を少しずつ教えています。
もちろん挨拶等の生活の基本となることは、厳しく指導しています。
繰り返し伝え続けてきた甲斐もあり、今では上級生が下級に自ら基本となる部分を教えてくれるようになってきています。
伝えてきたことが浸透してきた喜びと共に、私は技術指導に集中できるので、大変良い環境になりつつあると感じています。
KP:
今後のビジョンを教えてください。
宮川:
指導を通して、子供達には「世の中に出て通用する人になって欲しい」と考えています。
だからこそ、普段の生活態度に関しては、大人以上にきっちりできるように指導しています。
また私自身、日本一になった時に「何故かわからないが、勝手に涙が流れる」という経験をしました。
子供達にもその感覚を味わって欲しいと思いますので、「子供達を日本一にする」ことが次の目標です。
剣心館道場では、一緒に剣道をやってくれる仲間を大募集しています。
もちろん未経験者も大歓迎ですし、見学も随時受け付けております。
皆様からの問い合わせを、心からお待ちしております。
(年少〜大人まで可)