▼チームインタビュー▼
第2部「対人感覚こそ剣道の本質」
〜筑波大学剣道部男子監督 鍋山 隆弘〜
※ご本人による立会いの解説も掲載しております。
(以下 KENDO PARK=KP 鍋山 隆弘=鍋山)
鍋山 隆弘
福岡県出身
PL学園時代に玉竜旗優勝。インターハイ個人・団体優勝。
その後筑波大学に進学し、全日本学生優勝大会優勝。
2002年より筑波大学剣道部男子監督を務め、2016年までに4度の全日本学生優勝大会優勝に導く。
教え子には、全日本選手権者である西村英久(現熊本県警)、竹ノ内祐也(現警視庁)ほか多数。
筑波大学体育系准教授、剣道教士八段。(2017年10月15日現在)
※前回まで:第1部「意識の高さが強さに繋がる」
|多様な選手と剣を交える
KP:
昔と今では剣道自体もかなり変化していると思うのですが、指導において難しいと感じる部分はありますか?
鍋山:
もちろん見たこともない技を打つ選手もいますので、変化は感じます。
しかし技の進化自体は、私が学生の頃から常にあったことなので、特に気にはならないです。
むしろ技の部分は個々人に任せて、「対人感覚」という部分を重点的に指導しています。
ここに関しては、技が進化しても変わらない部分なので、しっかりと伝えるようにしています。
KP:
「対人感覚」について具体的に教えてください。
鍋山:
「対人感覚」というのは、
・相手がこうしたから次こうなるだろう
・この距離でこの体勢だと打たれる危険性がある
といった感覚のことです。
剣道の勝負における本質はこの「対人感覚」にあると考えています。
難しいのは、これは口で教えて身につくものではないということです。
例えば大学選手権を見ていても、最後に勝ち残る選手は小さい頃から実績がある子が多いように感じます。
これはやはり、小さい頃から経験してきたシチュエーションが多いほうが、勝負の世界では優位に立てるということだと思います。
KP:
その「対人感覚」を養うには、どのようにすれば良いでしょうか?
鍋山:
基本はやはり稽古量です。
それも、とにかく多くのタイプの相手と剣を交えることが大事だと思います。
ただこれは環境にもよるので、相当出稽古にでも行かない限り近道はないと思います。
それ以外では、なるべく指導者にかかることです。
指導者側としては、普段の練習を見ながら生徒の癖や隙を探しています。
いざ稽古になれば、そこを打つようにしているので、そこから自分の弱点を感じてもらえれば良いと思います。
KP:
先生にかかる際に、意識すべきことはありますか?
鍋山:
「なぜ打たれるか」を考えることです。
先ほども申し上げたとおり、指導者側としては相手の欠点を打っていこうという意識なので、打たれたところをしっかりと理解することが大事です。
わからなければ直接聞けば良い話なので、そこをきっちりと解明する必要があると思います。
例えば筑波大学の学生でいえば、「先生にこう打っていったけど打たれました」と言っているうちはまだ理解できていないと言っています。
「先生にこう動かされて打たれました」と言えるように、打たれたメカニズムを理解するように指導しています。
|一本までのメカニズムを理解する
KP:
「対人感覚」はなかなか説明するのは難しいと思いますが、生徒にはどのように伝えているのですか?
鍋山:
求められれば、勝負のプロセスを1からすべて教えます。
その際に擬音等は使わず。なるべく言語化して伝えるようにしています。
例えば私の立会いを例に取りますと、
【第62回 全日本東西対抗剣道大会男子16将戦 彌永 政美-鍋山 隆弘】
1)打ち気を見せる→相手は剣先を下げながら下がった。(0″26)
2)面のモーションから小手に変化→相手はのけぞって、防御反応を示した。(0″31)
この時点で、2つの可能性の高い仮説が成り立った。
・相手の狙いに「手鼻技」はない。
・相手の意識としては、これ以上退くことはできない。
この2つの要素を勘案し、「プレッシャーを緩めれば跳んでくる」と予測。
3)少しプレッシャーを緩めて打突を引き出したところを、相面に乗る。(0″39)
このように、自分の「対人感覚」でやっていることを、しっかりと言語化して伝えるようにしています。
生徒に教えるようになってから、今まで何気なくやっていた自分の動きも、言葉で説明できるようになりました。
KP:
「対人感覚」以外のところで、技術的に日頃指導しているところはありますか?
鍋山:
「軌道に乗せろ」とよく言っていますね。
現代剣道は技のバリエーションも多いので、個別の技は個々人に任せていますが、相手を打つために合理的な打ち方をするように指導しています。
体の構造上、自然な軌道に竹刀を乗せるようにと言う意味で「軌道に乗せろ」という言葉を使っています。
彼らは若く身体能力も高いので、色々な技を打ててしまいます。
その反面、不合理な打ち方をすることも少なくないのでそこは修正しています。
しかしあくまで修正程度で、技自体は個々人の磨き上げたものを尊重しています。
KP:
教え子たちに期待することは何ですか?
鍋山:
筑波大学は基本的に教員、つまりは指導者になることを教育目的としているので、将来指導者になったときに私の言葉が少しでも頭に残っていて、何かの役に立ってくれれば良いと思っています。
そして学生生活を通して、指導者になる人間的資質を磨いてほしいと思います。
|運営から
毎年選手が入れ替わる中で、筑波大学が強豪チームであり続けるのは、時代に即した指導法によるものだと感じました。
生徒の自立性を引き出し、求めてくる生徒に対して最大限応えるという姿勢は、まさに新時代の指導者の姿そのものではないでしょうか。
筑波大学剣道部の今後のご活躍を、心より祈念しております。