▼チームインタビュー▼
「少年剣道のさらに先へ」
〜東松舘道場 榎本雄斗〜
言わずと知れた、日本有数の強豪道場である東松舘道場。
少年剣道の最先端を行くその指導法に迫りました。
(以下 KENDO PARK=KP 榎本雄斗氏=榎本)
※一般名称は「東松館」ですが、本記事では正式名称「東松舘」と記載致します。
東松舘道場(とうしょうかんどうじょう)
1968年、榎本松次氏によって東京都練馬区に設立された剣道道場。
親子三代にわたって指導が受け継がれ、現在小中学生約70名の門下生を抱える。
全国選抜少年剣道錬成大会、全国道場少年剣道大会、全日本都道府県剣道道場対抗優勝大会の全てで優勝経験を持つ。
特に小中学生は、全国大会連覇を含む入賞常連のチーム。
警察や実業団で活躍する名選手も多数輩出する、日本を代表する名門道場。
※一般名称は「東松館」ですが、本記事では正式名称「東松舘」と記載致します。
榎本雄斗(えのもとゆうと)
1992年東京都生
曽祖父が設立した東松舘道場で剣道を始め、以降九州学院中高、中央大学へ進学。
大学1年時関東学生新人戦大会優勝、3年時関東学生剣道選手権大会優勝。
卒業後に株式会社NTTドコモに就職。
現在実業団剣士として活躍する傍ら、東松舘道場小学生監督を務める。(2017年12月現在)
|先輩から後輩へ
KP:
東松舘道場は、今や誰もが憧れる超名門道場です。
榎本:
とんでもないです。
ただ、ある程度成績を出せるようになって、“常勝軍団”のように言われるようになったことは、誇らしいです。
KP:
強い選手を積極的に集めている道場もあるとお聞きしますが、スカウティングのようなものはあるのですか?
榎本:
よく言われるのですが、こちらから声をかけることはまずありません。
基本的には地域の子供達が中心です。
ただ小学校高学年くらいから、自ら東松舘の門を叩いてくる子が多いのは事実です。
道場がそのような存在になっていることも、子どもを預かる身としては嬉しいですね。
KP:
稽古を拝見しましたが、細かい技術指導はあまりしないのですね。
榎本:
そうですね。技術指導はあまりしないですが、大切なポイントだけは何度もしつこく言っています。
KP:
それにもかかわらず、皆返し技や引き技など、技術レベルが高いのはなぜですか?
榎本:
先輩やOBの方々の影響が、かなり大きいと思います。
東松舘の強みとして、先輩やOBの先輩方が後輩を指導する雰囲気が定着しているので、日頃の稽古の中で自然と技が身につくという面はあると思います。
OBの先輩方は、高校や大学、社会人でも活躍している方が多いのですが、オフ期間になると東松舘に戻ってきてくれて後輩指導をしてくださいます。
そういった環境は、他の道場よりもかなり恵まれているかもしれません。
|どこへ行っても通用する剣道を身につける
KP:
これだけの選手が揃っていると、小さい頃からレギュラー争いが激しいように思います。
榎本:
競争意識は、小学生のうちから相当持たせています。
“特練チーム”を設定しているので、そこに入るか入らないかというのもありますし、そこから試合に出るのも競争です。
選手に選ばれた後にも、試合でのパフォーマンスに関して常に危機意識を持つように言っています。
子供達にとっては厳しいかもしれませんが、社会に出ればどこに行っても競争は存在しますので、そこで這い上がる力を養う目的で行っています。
もちろん精神的につらいこともあると思いますので、親御さんには家庭でのバックアップもお願いしています。
KP:
全国レベルの選手が多いとはいえ、小学生から中学生までが一緒に指導するのは難しいように思います。
榎本:
もちろん各人の技術レベルは異なるので、そこのフォロー体制は非常に難しいです。
現在は館長である父や常駐のコーチと合わせて、4名の指導体制で運営しております。
全体は私が統括しておりますが、基本修練の子と選手クラスの子、小学生と中学生等、カテゴリにある程度分けて指導を担うようにしています。
稽古も、基本練習日・特練日の両方を設けて、あらゆるレベルの子に対応できるようにしています。
ただ私も平日日中は仕事をしながらの指導となるので、選手クラスの子は成年の稽古の時間まで残ってもらって直接稽古をつけたりしています。
このような体制になったのは最近なのですが、保護者へのフォローも含めてやっとうまく回り始めるようになったというところです。
KP:
東松舘の子供達を見ていると、必ず打つ前に“技前”の練り合いを入れているのですが、どのように指導しているのですが?
榎本:
“技前”のところは、東松舘の稽古で最も大切にしている部分の一つです。
とはいえ大人でも難しいところなので、もちろん最初は全くわからないと思います。
大切なポイントだからこそ、こちらも何度も指導しますし、先輩が皆そうやって稽古している姿を見ているうちに、少しずつ身についてくるのだと思います。
私の指導方針として、「道場を卒業してからも成績を出せる」ことに主眼を置いて指導にあたっています。
そのためには、“技前の練り合い”はいずれ必要になってくるので、小さいうちから身につけられるように指導しています。
KP:
シンプルながら、難易度が高い稽古ですね。
榎本:
稽古メニューは、私が学んできた剣道が基となっています。
私自身、小学生の時は東松舘で指導を受けていたのですが、その後中学から熊本の九州学院に進学し、 “何をしてでも勝つ”という気の強さを学びました。
その経験から、従来の稽古に九州で培ったものをミックスしながら、稽古メニューを決めています。
先述の通り、どこにいっても通用する剣道を身につけさせるよう指導しています。
|”局面打開力”を育てる
KP:
子供達を見ていると、騒ぐ子もいないですし、全員が稽古に対して本当に真剣です。
榎本:
子供達には、礼儀や所作をしっかり行うよう、日頃から細かく指導しています。
これは親御さんも期待するところですし、道場が全国で有名になればなるほど、必要になってくる要素だからです。
KP:
子供達を指導する上で、具体的に心がけていることはありますか?
榎本:
二つありまして、一つは「打たせて覚えさせる」ことです。
指導する相手は子供ですので、言葉だけで全てを伝えるのは不可能です。
そこで基に立つほうの打たせ方が重要になってきます。
指導プロセスを理解し、「こうなったら一本なんだ」というところまで打たせて伝えることが重要だと考えています。
二つ目は「子供たちに考えさせる」ことです。
私は、指導の中で度々子供達に質問します。しかも答えをこちらから言うことはありません。
稽古の意味や指導の意図を考えさせることで、実際の試合において「この場面で何を打てばよいか?」を理解させるようにしています。
その積み重ねが、実際の試合局面での打開力につながると考えています。
KP:
今の子供達と昔の子供達に違いはありますか?
榎本:
私が小さかった頃に比べると、今の子供達は言いたいことを言えていないような気がします。
それは、時代とともにルールやしがらみが多くなり、先生や目の前の大人が言いたいことを言えていないからだと思います。
一方で子供の変化率や吸収力は物凄いものがあるので、少しでも考えさせることができればあっという間に強くなります。
これも道場を卒業した後にもつながる、必要な要素だと考えています。
運営から:
超強豪道場でありながら、「道場を卒業した後」を見据えた指導が印象的でした。
東松舘道場の今後のご活躍を、心より祈念しております。
参考リンク: