▼スペシャルインタビュー▼
「剣道の価値と評価を高める」
〜剣道プロジェクト 石塚一輝〜
実業家でありながら、剣道の価値と剣道家への評価向上のため、独自の取り組みを行う石塚氏。
その取り組みと想いを、お聞きいたしました。
(以下 KP:KENDO PARK 石塚一輝:石塚)
-石塚一輝(いしづか かずき)-
1979年生 大阪府出身
元大阪府警主席師範石塚美文氏(範士八段)を父に持ち、小学校3年生時より剣道を始める。
中学よりPL学園中高に進学し、高校時代に玉竜旗・国体優勝。
中央大学に進学し、全日本学生剣道優勝大会団体準優勝、関東学生剣道優勝大会優勝。
卒業後にパナソニック株式会社(旧松下電工㈱)に入社し、全日本実業団剣道大会3位。
全日本都道府県対抗剣道大会優勝(大阪代表)。
入社5年目にパナソニック女子剣道部(旧パナソニック電工㈱)創設に参画し、設立3年目で全日本女子実業団剣道大会3位、翌年
準優勝に導く。
2014年にパナソニック株式会社を退社し、ユースフルワールド株式会社を設立。
並行して、剣道の価値向上プロジェクト「剣道プロジェクト」を創設。
現在、ユースフルワールド株式会社代表取締役及び、剣道プロジェクト代表。
|警察や教員だけではない選択肢
KP:
石塚さんは剣道のサラブレッドというイメージですが、剣道を始めた経緯を教えてください。
石塚:
ちょうど幼稚園か小学生の時に、父が全日本選手権や世界選手権で活躍していました。
しかし父から剣道をやるように言われたことは、一度もなかったです。
実は剣道を始めたのは、母からの助言からでした。
ちょうど引っ越すタイミングで、且つ近くに道場が無かったこともあり、結局父が道場を設立する形で剣道を始めました。
当然初心者しかいませんでしたので、防具を装着して稽古するまでに1年程度かかりましたね。
KP:
そこから剣道の強豪に進学なさいました。
石塚:
デビュー戦となる大会で3位に入賞したところから、自分の中で徐々に剣道が面白くなってきました。
兄も通学していた関係で、小学生の頃からPL学園に出稽古に行かせていただいていたこともあり、自然な流れでPL学園へ進学することになりました。
当時のPL学園高校は体育クラスがあった関係で、野球部と剣道部に専用の寮が与えられており、毎日朝練・午後練・後練(=居残り練習)がありました。
寮から学校までもすり足で行くような生活でしたので、本当に剣道漬けでした。
ちょうど入れ替わりの学年に、後に全日本選手権2連覇を果たされた高鍋進先生がいらっしゃり、大阪府内では強豪チームとして名を馳せていたと思います。
結果として、高校時代には玉竜旗と国体で優勝を果たしました。
特に玉竜旗では、当時まだ大阪から優勝したチームは少なかったので、非常に嬉しかったのを覚えています。
こういった実績もあり、大学も強豪の中央大学に進学いたしました。
大学でも1つ上の学年に木和田大起先生(全日本選手権優勝・大阪府警)、2つ上に東永幸浩先生(全日本選手権準優勝・埼玉県警)等チームメイトの方々にも恵まれ、関東学生優勝大会で優勝、全日本学生優勝大会でも準優勝を果たしました。
KP:
卒業後は警察や教員ではなく、一般企業に就職なさいました。
石塚:
実は在学中には警察か教員を目指していたのですが、学生時代にずっと剣道中心の生活をしてきたので、それ以外で挑戦したいという気持ちをずっと持っていました。
兄が大阪府警の剣道部特練に所属していたこともあり、私はまた別の選択肢を歩みたいと考えました。
そういった想いから、縁あってパナソニック株式会社(旧松下電工㈱)へ入社いたしました。
当時のパナソニックの剣道部(現 パナソニックES剣道部)は、今ほど大学時代に実績を残した選手は少なかったのですが、全日本実業団優勝を目指し、朝稽古や自主練習など、恵まれた環境でチームが一丸になって取り組んでいました。
役員でいらっしゃった長榮周作氏(現パナソニック株式会社取締役会長)が、自ら率先して仕事と剣道の両立を実践していたこともあり、社内でも剣道部の評価も高く、徐々に各大学剣道部から人材を採用し始めた頃でした。
そういった環境の中で、最終的には全日本実業団大会で3位入賞いたしました。
もともとパナソニックは、松下電器産業(現パナソニック株式会社)がサッカーやラグビー等のプロスポーツをサポートし、松下電工(現パナソニック株式会社エコソリューション)がアメフトや剣道等のアマチュアスポーツをサポートするという流れがありました。
その中で教員や警察以外の選択肢を辿れたことは、本当によかったと思います。
|危機感が生む行動力
KP:
その後パナソニック女子剣道部を創設なさいます。
石塚:
入社5年目の時に、たまたま東京の本社で新プロジェクトの企画がありました。
これは社会人として新たなステージにいくチャンスだと思い、志願して現役選手引退前提で東京に転勤いたしました。
東京に転勤してからしばらくして、社内の縁から東京でパナソニック女子剣道部創設のプランが持ち上がりました。(※パナソニックホームエンジニアリング名義)
東京では交友関係も少なかったこともあり、社外の時間は剣道部創設に尽力することにいたしました。
とはいえ東京に専用の稽古環境があったわけではないですし、強豪選手が在籍していたわけではないので手探りでのスタートでした。
そこで知り合いの実業団チームや町道場に入れていただき、何とか稽古環境を整えると共に、仕事後の時間を見つけて週に複数回ミーティングを行いました。
ミーティングも剣道の話だけでなく、剣道を通じて仕事に活かす育成を実践しました。
結果として設立3年目で全日本女子実業団大会3位(パナソニック本社に敗退)、翌年同大会準優勝を果たしました。
この経験を経て、「コーチング」と「チームビルディング」の大切さと魅力を学びました。
もともと中学校で親元を離れてから、10年間集団での寮生活を続けてきましたので、団体でのコミュニケーションは比較的得意な方であったと思います。
それに加えてもともと教員志望であったこともあり、「教える」ことに対しても楽しさを覚えました。
私のコーチングスタイルは、常に「美点凝視」と「相互の尊重」です。
集団では必ず多様な考えの人間同士がいますので、それを互いの尊重しながら良い面を引き出していくのが理想のチーム作りだと思います。
そしてチームが育っていく過程を見ながら、最終的に一定の成果を出せた時の喜びは、何物にも代えがたいものです。
KP:
そういったご経験が、現在の事業につながっているのですね。
石塚:
そうですね。
これらの経験から、コーチングや人材育成に強い興味を持ち始めました。
その一方、東京でのプロジェクトが一段落し、大阪に戻ることになったのですが、少し時間に余裕ができ、仕事の上でもちょうど30歳を過ぎた頃でした。
当時はリーマンショック後で、大企業も苦戦が続き、一方で日本人の平均寿命は伸びていることから、「将来的に、このままここにいても良いのだろうか」という強い危機感を持つようになりました。
そして、自分の力で生きていく力を身に付ける必要性を感じました。
KP:
ご経験のない福祉の事業を選択なったのはなぜですか?
石塚:
本当に社会に貢献することをしたいと考え、まずは社外の時間に業界やジャンルを選ばず、社会貢献できる事業について勉強することにしました。
そこで福祉業界と出会い、こそから福祉関係のボランティアに参加したりしながら福祉について学ぶようになりました。
そして2014年に、約12年半お世話になったパナソニック株式会社を退社し、医療や福祉向け人材育成やコンサルティングを行うユースフルワールド株式会社を設立いたしました。
家族を含め周囲からは猛烈な反対を受けましたが、「今やらなければならない」と思い、半ば強引に起業した形でした。
|剣道プロジェクトとは?
KP:
同時並行で剣道プロジェクトを創設なさいました。
石塚:
これまでの経歴を考えると、私を育ててくれたのは間違いなく剣道です。
剣道に対する恩返しの気持ちを何とか形にしたいと思い、「剣道プロジェクト」の創設を決意いたしました。
理念としては、「剣道の価値と、剣道家の社会的評価を高めたい」というものです。
というのも、問題意識として剣道はボランティア精神が先行しすぎていて、高段位の先生でも完全に仕事にしている人がいないのが現状です。
逆に立場の高い先生であればあるほど、業界との軋轢を気にして情報発信には消極的であることが多いように感じます。
結果として、本来発信されるべき剣道の価値が世間に伝わっていないのではないかと思います。
KP:
剣道の価値や魅力というのは何だと思いますか?
石塚:
剣道が作る「幅広いつながり」だと思います。
世界中の武道やスポーツを見渡しても、ここまで世代や国を越えて一緒に交流できるものは無いのではないかと思います。
普段生活していても、小学生や70歳の高齢の方と共通のコミュニケーションを取る機会は少ないと思います。
ましては海外の方とは、本来言語ができなければ上手くコミュニケーションが取れませんが、剣を交えることですぐに交流を深めることができます。
こういったつながりは、多様性が尊重される時代において、生きていく上で視野を広げるという意味で、とても大切になってくると思います。
しかしこのような価値や魅力を積極的に発信や企画をするのは、労力や責任が伴うものです。
私としては、各剣道連盟や立場上発信しにくい人たちが手が届かない範囲をカバーするような存在でありたいと考えています。
|視野と選択肢を広げる
KP:
学生にもよくセミナーをなさっているそうですが、学生に伝えたいことは何でしょうか?
石塚:
剣道部の学生と話していると、視野の狭さを感じます。
剣道をやっていると、OBをはじめ、会う大人には自身の大学や道場関係の警察、教員、実業団剣士が必然的に多くなります。
一方で世の中は多様性が進んでいるので、いくらでも選択肢があることを知ってもらいたいです。
また社会に出ていく上で、自信を持てない学生も多いように思います。
剣道はプロリーグも無いですので、「このまま剣道に打ち込んでいて、将来大丈夫なのだろうか」という疑問が湧くのも当然だと思います。
そういう学生には、剣道の鍛錬を行うことで身につく能力を伝えています。
具体的に言えば、
・集団でチームを作り上げる力
・自分の役割を認識する能力
・PDCAサイクル(=Plan・Do・Check・Action)を活かした理論的思考・発想力
といった能力を認識し、社会に出た時に置き換えて考えてもらうようにしています。
結果として、「あの時、石塚に会ってよかった」と思ってもらえれば嬉しいです。
KP:
今後の目標を教えてください。
石塚:
剣道プロジェクトでの活動を通じ、剣道の価値を広めて、剣道と剣道家の社会的評価を高めたいと考えています。
そのためには、剣道業界から社会に出て成功した人を増やすことが必要ではないでしょうか。
将来的に、私がその一人となることができれば良いと思います。
<取材・文 永松謙使>
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