KENDO PARKが共同運営する剣道専門オンラインサロン「剣道イノベーション研究所」に関しまして、剣道日本2020年12月号にて特集いただきました。
今回剣道日本様のご厚意により、主宰者である岡田守正先生の独占インタビュー記事を、特別に掲載いたします。
-岡田守正(おかだもりまさ)-
1967年 東京都出身
幼少期より祖父・守弘、父・又彦より剣道(居合道・古流剣術含む)指南を受け、日本体育大学へ進学。
大学卒業後、弱冠22歳にして第3代尚道館(@東京都)館長に就任。
並行して、日本体育大学武道学研究室助手として務め、慶應義塾大学医学部剣道部、早稲田大学高等学院剣道部等の指導にもあたる。
その後、日本体育大学非常勤講師及びスポーツ専門職、剣道部監督等を歴任。
2007年全日本女子学生剣道優勝大会、2009年全日本女子学生剣道選手権大会(西野絢氏)2015年関東学生剣道優勝大会 等において優勝に導く。
教え子に渡邊タイ氏(現・熊本県警、世界選手権優勝2回)、村瀬諒氏(現・日本体育大学桜華中学・高等学校監督、元世界選手権日本代表)、舞原倫秀氏(現・大阪府警)、貝塚泰紀氏(現・日体荏原高監督)ほか、名選手および全国で活躍する指導者を数多く指導。
尚道館では、多くの企業家、医師、教員、著名人など様々な分野の方々を指導し、直近3年間で12名の七段昇段者を輩出。
他方、フランス人門弟を中心に、尚道館の欧州支部としてフランス尚道会、尚道館ヴォンデなどを開設し、海外普及指導にもあたる。
2018年一般社団法人伝統文化保存継承学舎・尚道学院を発足し、代表理事に就任。
2020年に、業界初の本格的剣道オンラインサロン「剣道イノベーション研究所」を設立。同サロン代表および主宰。
尚道館館長・桜美林大学非常勤講師・杉並区剣道連盟副会長兼理事長
剣道教士八段(2020年1月現在)
|「理論と実践」という 尚道館の原点に還れた 道場でのオンライン指導
(岡田守正)
「自分の道場でコロナ禍も家族 で自由に稽古できていたと思わ れがちですが、全日本剣道連盟 が対人稽古の自粛を呼びかけてから、それを条件付きで解除す るまで、その間、私は一度も面 を着けての稽古を意識的にしま せんでした。
このような経験は 剣道を始めてからこれまであり ませんから、自分の中でどのよ うな感情が沸き起こるのかを実 感したくて。
この間の自分の稽古といえば、大学生の息子に伝 えるため、二人で居合を抜くぐ らいでしたね。
しかしそのなか でも多くの発見と実感がありま した」
(剣道日本)
岡田守正さん( 歳)は東 京都杉並区に居を構える道場 経営者だ。
尚道館は昭和10年(1935)に祖父の岡田守弘 (故人・剣道・居合道範士八段)が創設した道場で、本年で 85周年を迎える。
二代目館長の又 彦(故人)は 歳の若さで隠居。
当時22歳の守正さんに道場経営 を託した。
三代目館長となって からすでに30年が経過。
その間には、母校日本体育大学で剣 道部を外部指導員として支え、コーチや監督を務め、女子メンバーを日本一の座に導くなど越した指導力を世に知らしめて いる。
道場を経営する岡田さんは、 剣 道 の”専 門 家”を 自 負 で きる立場でもある。
幼少期から剣道 と居合道をたしなみ、4歳のときには夢想神伝流の初伝、中伝、 奥伝までを杉並区の剣道大会で 公開演武した。
戦後、GHQに 公的な場での剣道が禁止されたとき、私的道場である尚道館には当時の剣道の大家がこぞって集まり、祖父や父へも剣道の大事な教えが伝えられた。
ことさ ら英才教育を受けてきたわけで はないと言うが、尚道館で育ったことで、守正さんの頭や体や心には、当時尚道館に集い剣道の命脈を保ったとされる、武道専門学校、東京高等師範学校、国士舘専門学校、警視庁等で学んだ”専門家”たちのエキスが、ごく自然なかたちで染み込んで いったに違いない。
|以前から模索していたオンライン指導の構想
祖父は『剣道日本』の創刊号 から取材を受けていました。
昭和51年(1976)の 創刊号 に 写っているフランス人剣士たちは祖父のお弟子さんたちで、フランス人では最初に剣道を本格 的に学んだ方々で、のちにフラ ンスに帰って剣道を広めた世代です。
そのおひとりがベルナール・デュラン氏( 86歳・七段)で、今でもフランスで稽古と指導をされていますが、そういう方々 の要請があって、私も館長就任と同時期からフランスを中心としたヨーロッパでの指導、近年では恩師・志沢邦夫先生(日体大名誉教授)の推挙を受け、オーストラリアでの指導も加わり、諸外国での指導経験を積ん できました。
フランスにある数ヶ所の尚道 館支部道場のうち、7年ほど前にフランス西部地区にヨーロッパでも随一の立派な専用道場(尚道館ヴォンデ)を構えたのがジャック・ミュラー氏です。
二段のときから、1年に1度父 と私をフランスに招き、地元で 講習会を開いてきた熱心な剣士で、ヨーロッパ人剣士ではかなり早い 代で七段を授かりました 。
「尚道館」 の暖簾分けを正式許したのは彼が六段になる頃で、以降はフランスでの普及活動に一層精を出し道場を落成させました。
昨年11月には57歳で初めて東京での八段審査にも挑戦しています。
例えばそうした海外のお弟子さんたちに、インターネットで つながったかたちで指導をしてみたいという構想が、ここ1、2年私の中にありました。
そもそも尚道館では道場にカメラを設置し、稽古の様子をプロジェクターで確認できるシステムをかなり以前から取り入れており、これに映像をオンラインでつなぐことができれば、海外の剣士たちと新しい稽古スタイルを構築できるのではないかと考えていたんです。
尚道館の名を持つ道場で、指導者が”尚道館 の剣道”から外れていくのは困るわけで、映像を通して直すべき点があればそれを指摘できるような環境は、お互いのプラスになると思ってきました。
竹刀を交えて直接指導するのがもちろんベストですが、”言わんと していることが解る者同士”であれば、「そこは違うぞ」の指摘ひとつで真意は伝わります。
さらに最近は、遠方の教え子の技術的な悩みに応える際に、映像が活きたという体験もしました。
熊本県警に所属する渡邉 タイさんは日本体育大学での教え子です。
世界大会の女子団体 戦で2度の優勝経験を持つ選手ですが、当時の強化訓練中の技 術的な悩みを電話で相談されたものの、言葉ではどうしてもイ メージを描けないということがありました。
すると彼女の提案で「先生、LINEを利用して 映像を送りたい」と申し入れて くれたので、SNSの利便性は知っていたものの縁遠かった私も、それを機にLINEアプリを活用するようになったんです。
結果的には映像によって問題点が明確になり、アドバイスの言葉を見つけることができました。
文字や言葉に視覚的要素が加われば、伝えたいことをより 明確に伝えられることをものす ごく実感出来た体験でした。
そうした実感をもった中で、 今年の初旬に剣道専門の「オンラインサロン」の開設を現在共同運営者のKENDO PARK・永松謙使氏より持ちかけられました。 詳細は後半で述べますが、3月にサロン第一期生の会員を募って4月から稼働しようというときに、全国に新型コロナウイルスの感染が拡大。
実際の稽古とオンラインサロンをつなげると いう当初の図式がいきなり崩れてしまいました。
とはいえ、オンラインで他者とつながる方法論は、そもそも思い描いていた尚道館のお弟子さんたちと交流する構想とも合致します。
そこで道場の近くに住むシステムに詳しいお弟子さんの大友洋一氏 (教士七段)にオンライン会議 システム・ZOOMを設定していただき、尚道館の会員の方々と
オンラインでつながった稽古・ 講義が実現できました。
|尚道館会員60名が、毎週のようにオンラインで一同に介す
尚道館の活動の自粛は3月末(2020年)から。
全日本剣道連盟の示す 「感染防止ガイドライン」を遵守し、その防止に努めながら活動を再開したのは6月13日でした。
およそ2カ月半、会員は道 場にて稽古ができなかったわけですが、その間、私は、少年・少女部の会員たちとは木曜日と土曜日に、一般部の会員とは土曜日にオンライン稽古と称して、 毎週ZOOMでつながっていました。
とりわけ土曜日は、夕方5 時から夜中の 時ぐらいまで気 がついたらずっと喋りっぱなしというのが常でした。
子どもたちの剣道は夕方5時からです。
現在その前に書道の時間を設けていますので、子どもたちが 書いた「書」をオ ンラインで書道の先生に添削していただくという導入から、体操や剣道の為に取り入れているけん玉遊びを経て、私が子どもたちに必要な講義をし、座ったまま でもできる素振りを一緒に行うなどしながら、午後7時まで指導。
午後7時から9時半までの一般部の時間では、講義を中心に行ないました。
主たる内容は剣道の歴史や基本論です。
それらは尚道館の稽古を理解していただくうえでとても大事なことで、歴史認識の講話では祖父や父の教えの言葉を伝えたり、剣 道の基本の講話では剣道界の現状や国際化の方向性とも照らし合わせながら基本的な思想や技術論を展開してみたり……。
日本剣道形はそもそも道場の会員であれば重きを置いていることが分かることですが、改めて、形が歴史的にどういう目的でつくられ、尚道館ではどういう要 素を大事にしているかを、再確認のつもりで一から語りました。
そこからさらに、柔道の祖・ 嘉納治五郎先生が説かれたという「乱取り(稽古)、形、講義、問 答」というキーワードが、すべて尚道館にはあったのだと再認識できたのです。
私はカメラに向かって話しますが、パソコンの画面上にはZOOMによって尚道館の会員の方々のお顔が映し出されます。
学生相手の講義とは違って、中には大学病院の教授や会社経営者の方々、一流大学を出ておら れる方々が当館にはたくさんいらっしゃいますので、その前で講義する事に非常に緊張もします。
その中で普段の稽古で集ま るのは通常10名〜20名ですが、オンラインでは多いときで 名 以上が参加されました。
現在、 遠隔地にお住まい等でなかなか来館できない方、そして、海外の当館関係者も加わり、国内は 福岡、山口、広島、滋賀、大阪、 愛知、秋田、宮城から、海外はフランスだけで4、5カ所(コル シカ島含む)、そのほかアメリカ、ドイツ、ベルギー、オランダ、オーストラリア、ニュージーランド、コロンビアからも参加。
午後9時半以降も残れる方には 残っていただき、剣道談義は夜の12時近くまで毎週続きまし た。
とくに遠方の方々の継続率は高いですね。
今まで年に1回し か会えなかったのが、毎週のよ うに顔を合わせられるようにな ると、とくに積極的に必ず参加 されておられる。
私も嬉しく感 じています。
フランス人の中には日本語がまったく分らないのに、黙って2時間聞いてくれる 方もいます。
それと、以前は人 の話を聞くことにそれほど集中 していなかったような方が、最後まで集中して聞いてくださることも印象的で、そのあたりも、オンラインのやりとりの特性の ように感じました。
とにかく、私自身も話をしていて非常に楽しい。
理由は、祖父や父の頃から「理論と実践」と「問答」を大事にしてきた尚道館が、本来の姿に立ち還った思いがするからです。
父が館長 だった私が高校生の頃は、稽古 が終わったあとも当時相当な若手指導者たちに対して父の剣 道講義が止むことなく、朝を迎えてしまうことが当たり前でした。
剣道にはそれほど語るべき内容があったということですが、最近は、尚道館の剣道をお伝えするような、まとまった時間をとることがなかなかできませんでしたし、今回改めて貴重な機会を得られたと実感しています。
雑談では、外国でのコロナへの対応の仕方などお弟子さんから生の情報も聞けますし、社会勉強になることも多いです。
剣道談義は質疑応答も兼ねますが、オンラインの方が話しやすいのか、毎回、たくさんの質問が出されます。
オンラインでも、お互いを高め合えられる可能性を充分に感じますし、人間関係の維持や拡大という面でも、存分に功を奏することがで きるツールであると実感しました。
稽古が再開されてからも、尚道館の稽古の様子はZOOMで見 られるようにしています。
固定カメラで指導稽古の様子も、私が地稽古をしている様子も見ることができるようにしていて、 終わってからはZOOM画面の方々からも質問を受け付けてい ます。
そんなあり方は、私がここ1、2年イメージしていた構想にだいぶ近づいてきた感がありますし、今後5Gが定着したら、双方の映像もかなりクリアになり、さらに進んだかたちで お互いを高め合えるのではないかと期待が膨らんでいます。
|袖を振り合わさずとも 縁ができる、オンラインサロンのこれからの可能性
(岡田守正)
「対人稽古の自粛は条件付きで 解除されたけれども、まだ再開できなかったり、みずから再開を控えている方もおられます。
実技が自由にできない現状に、 ふと思うのは『小川忠太郎先生等の大家がご存命だったら、”こ んなときこそ”と、専門家に対して座学の勉強会を奨励され たのではないか』ということです」
(剣道日本)
確かに剣道日本の古い記事を振り返ってみてもそう思う。
昔は、大家の講話にも味わいがあった。
古い文献に載った教えが紐解かれたり、禅や哲学と剣道が紐付いて語られたり、人の生き方や社会との関わり方を剣 道と結び付けて話がなされたり ……。
実際に打ち合わずとも、剣道場は学びの場となりうるだけの、懐の深さを持っていた。
「例えば、京都大会における範士の立合は、立会人の『拝見』の声で始まりますが、終わるときにかかる言葉が、昔と今とでは違ってきているように感じます。いかがお思いですか ? 」
そんなことを問いかけられ た。しばし沈黙。
昔は「それまで(でございます)」がほとんどだったが、今は「やめ」の声も掛かる。
「『拝んで見させていただ きます』の言葉で始まったわけですよね」
と岡田さんのヒント。
なるほど、「やめ」という命令口調には確かに疑問が湧いてくる。
岡田さんはそういったことの大切さを、生活の中で自然 に習ったのだという。
剣道界にあったさまざまな伝統やしきたりが崩れてきたことを嘆く声も多いが、それをどう方向づけていけばいいかは、伝える言葉を持つ人に託していくしかない。
岡田さんが「剣道専門オンラインサロン」を開設した思いを語ってくれた。
|互いの剣道観を高め合う 「剣道イノベーション研究所」
道館とのお付き合いの関係 でも会員登録していただいていますが、現在オンラインサロンにご登録いただいている会員は、海外を含め、過去に面識の ない方々も多いです。
尚道館の会員に対しては、道場主として 尚道館の剣道をお伝えしていますが、オンラインサロンは、私個人が「一緒に剣道を勉強しませんか?」というスタンスで始めたもの。
ここは道場とは切り離し、私的な研究所として成り立たせています。
剣道専門のオンラインサロンとして、「歴史をこう考えている」「技術をこう考 えている」といった提示はするものの、会員の方それぞれにはお師匠さんがおられるだろうし、 私自身の考えを押し付けるよう なことはしたくありません。
そ れぞれの剣道を尊重し合いながら、融合できるところは融合していきたいという前提です。
同時に、海外であろうと地方であろうと、そして、所属する道場は違えども、垣根を超えたコミュニティから大事なことを共 有できれば、剣道界自体の発展 につながるだろうという思いも根底にあります。
まずは主宰した私が話をしますが、皆さんのご意見や皆さん から寄せられた題材を共通テー マとして語り合いながら、ともに剣道観を高め合える革新的な研究所にしたいとの思いで「剣 道イノベーション研究所」とネーミングしました。
カッコ付きで「通信教育型道場」という文字も残しましたが、オンラインを利用した剣道専門の通信講座と受け止めていただいてもよろしかろうと思います。
インターネット上に、「剣道イノベーション研究所」のタイトルが入ったYouTubeチャ ンネル(現在登録者1,400名超)にて指導動画のサンプルが複数見られるので、それらをご覧いただくと内容をご理解頂けると思います。
また、本会員の方々に向けては、現在、以下のような特典を用意しています。
1、動画およびコラム「稽照」 を配信(毎週1度)
2、サロン内交流・ディスカッ ション
3、ライブ配信(不定期)
4、定期研修会(=実践稽古会) へのご招待
5、個別の質疑応答動画指導
※配信動画は、指導動画や稽古 動画、および将来資料になる過去の映像などを予定。
※サロンコミュニティは、サロ ン生限定Facebookグループを使用。
※個別の質疑応答および動画指導は、LINEを使用。
そのほかにも、さまざまな方との対談、大規模なセミナー、 全国各地での研修会等、サロン 生の方々と一緒に将来いろいろな取り組みができればと考えて います。
LINEにしても、オンラインサロンで活用しているFacebookにしても、私自身が登録をしたのはつい最近のことです。
週1回、決められた曜日に 動画とコラムを配信するために、締め切りを設定した生活も送り始めて半年が経ちますが、 私自身の勉強になることが多々あり、なによりも剣道普及の新しい可能性に向けたチャレンジととらえているため、前向きな気持ちで取り組めています。
課金システムにしているのは、求める気持ちの高い方々が 集まることを想定してのことで すし、多少なりとも収益が出れば活動の質と幅を広げられ、か つ剣道界自体に多少なりとも貢献できるのではと考えているからです。
また、道場と個人と分けて考えているとはいえ、そもそも尚道館の会員の方々からはお月謝をいただいて活動していますから、偏ったことはしたくないという思いもあります。
すべての特典を受けられるの が一般会員で、Facebookを未取得の方や、「双方向のやりとりは希望しないが内容は見てみたい」という方に対しては、 別な価格設定で、コラムと動画のみをパソコンやスマートフォンで手軽に見られる閲覧会員というプランも設けています。
少しずつではありますが、各層及び国際的に同志が広がっている 手応えを感じています。
|剣道の古き教えの継承を 新しい手法に託す
すでに会員の方からの数多くの質問も寄せられています。
おとなになって剣道を再開された40代の方からは、新調した甲手の型の付け方や、コラムに書い たことへのご質問をいただきましたが、この方も非常に熱心で、 二段受審を控え、頑張ってくださいと励ますと、通りましたと返信がくる。
そしてサロン生各位からもお祝いのメッセージが届くなどのやりとりも行なわれ ています。
現時点で私はまだその方の剣道も知らなければ、お顔も存じ上げていないわけですけれども、こだわりを持って剣 道に取り組む姿勢からは確かな熱量を感じています。
まだ一度もお会いしたことな い人、一度も喋ったことのない 人とも、〝剣道の内面〞という 部分でつながれるのがこの世界です。
「袖振り合うも多生の 縁」と言いますが、現在の袖と袖が接しなくても人間関係を構築できる世界というのは、改めて革新的なことと感じますし、 集まった仲間の輪が、スピード感をもってさらにその外へと広 がっていく可能性を考えると、 数十年前、祖父が少数のフランス人に一所懸命教えていた”剣道の伝承”が、新しいツールによって、数倍、数十倍の勢いで 実現できる可能性に、改めて価値の高さを思わされます。
ただ「便利」だと感心するだけではなく、これからの時代は、そのツールをどう活かしていくかが 我々に課せられた使命なのかも 知れません。
現実にお会いしたことがない 人とでも、文字と映像を駆使し、双方向で互いの意見を論じ合っ て、剣道観を高め合う−−。
文字だけでは嘘や大言壮語もまかり通ってしまうこともありますが、映像が伴えば、そこは辛辣です。
私自身も、拙く恥ずかしいと自覚しつつも、師匠の教えを守って改善する意欲を忘れずに”現時点のありのままの私”をさ らけ出していくしかありません。
生前、私は父から「修行の身 で分ったようなことを書いて発表するようなことはしてはいけない」と釘を刺されていましたので、父がいれば今回の取り組みも場合によっては反対されたのかなと考える時もあります が、50歳を過ぎてみると、同じ時期に父はどういう剣道観を抱 いていたのだろうかと想うこともしばしばです。
今となっては 少しでも書き残していて欲しかったという気持ちもあります。
記録は跡を託す子どもたちや後進のためにも必要という思いから、文字や映像は、「現段階での私の理解」という但し書き付きで配信するようにしています。
配信する内容にしても、私が 思いつきで考えたことを発信しようなどとは微塵も思っていません。
「昔の先生方が伝え残そうとしてきた剣道を、祖父や父から伝え聞いたことを主に世の中に示していきたい」というのがあくまで本意です。
つまりは古 い教えを自分の中で消化し、将来に残すためにもっとも新しい 手法に賭けてみることにした、 と。
書籍に残すというような、これまでのような手法だけでは教え自体が淘汰されてしまいかねません。
新機軸への舵取りは、そんな意識も働きました。
手元 には、昔の剣道の映像もありますし、将来的にはそういったものを用いて考える題材をいろい ろと提示していきたいと思って います。
温故知新というキーワードで剣道を学ぶ方々も多か ろうと思いますし、新たな剣道の学びの場として当研究所に足を踏み入れて頂き、共に学びな がら多くの方々にご活用いただけることを期待しています。