▼スペシャルインタビュー▼
「観察と分析こそ上達のカギ」
〜剣道教士八段 佐藤誠〜
武道具店を経営するかたわら、驚異的昇段審査合格率を誇る「誠先生の剣道教室」を主催し、マルチに活躍なさっている佐藤誠先生。
築き上げた独自の剣道理論を、お聞きいたしました。
(以下 KENDO PARK=KP 佐藤誠氏=佐藤)
-佐藤誠-
1961年生 大阪府出身
清風高校から大阪拘置所刑務官拝命後、35歳で事業を起こす。
現在、有限会社サトウ代表取締役にして佐藤武道具店店主。
大阪府剣道道場連盟副会長と四條畷剣友会(しじょうなわてけんゆうかい)主席師範を務める。
剣道教士八段。(2018年1月現在)
|呼吸法で審査を制する
KP:
佐藤先生は警察官・教員以外での、数少ない八段取得者でいらっしゃいます。
佐藤:
平成21年に八段を取得いたしました。
3年かけて6回目の受審で合格致しましたが、それまでの5回は一次審査合格経験もありませんでした。
KP:
合格を掴み取った要因は何だったのでしょうか?
佐藤:
自分では「呼吸法」を学んだことが大きかったと思います。
それまでの審査では、「いかに緊張をほぐすか」が最大の課題でした。
八段審査ともなると、前日から緊張してしまい、実際の立ち会いで力が発揮できないことが数多くありました。
そこで「呼吸法」を学ぶことで、緊張をほぐす術を身につけました。
具体的に言うと、
1)口をつぐんだまま、ゆっくり息を吐き切る
2)2秒間息を止める
3)3秒間で、一気に鼻から息を吸う
4)1)へ戻る
というのを繰り返します。
深呼吸を伴う腹式呼吸は、副交感神経を刺激しストレスや緊張をほぐす効果があることは、医学的にも広く知られています。
※参考 大和薬品株式会社公式HP「自律神経、呼吸法で調整」
これは稽古中だけではなく生活の中でも行うもので、特に審査当日は朝起きてから立ち会いの直前まで繰り返しました。
結果として、当日は自分の力を十分に出せたと思います。
※本記事の最下部に「誠先生セレクト剣道具」をご紹介しております。
|”言語化”の重要性
KP:
技術的な面で、重視したことはありますか?
佐藤:
とにかく「観察と分析」を行いました。
どの段位でもそうだと思いますが、合格するには「何が求められているか」を理解する必要があります。
そのために受ける段位の審査を見に行ったり、合格者の先生方に話を聞きに行ったりしました。
しかし一番効果があったのは、「ビデオ研究」ですね。
実は七段取得後、稽古から遠ざかった時期があったのですが、その間もずっと映像での研究は行っていました。
観る対象としては、現役の特練選手から師範の先生まで段位に関係なく映像を集めました。
とにかく各選手の特徴をよく観察し、わかりやすく体系化・言語化していきました。
観察→分析→体系化→言語化
このサイクルを徹底することこそ、上達の近道であると思います。
KP:
剣道の技術は、言語化することがなかなか難しいですよね。
佐藤:
例えば有名選手に「その技はどうやって打っているのですか?」と聞いても、「上からこう叩いているだけです」という答えが返ってくることがよくあります。
私自身も、先生から「スッと入って、パンと打て」と教えられた経験があります。
しかしこれらの表現は、結局その人の感覚的なものがベースとなっているので、他人の我々がやっても同じようにできません。
そういった感覚の部分は、教えるのが大変難しいので、結局は自分で観察して言語化するしかないと思います。
そういう観点で多くの映像を見ているうちに、技に至るシチュエーションや細かい動作の特徴が見えてきます。
それらをきっちりと自分の言葉で言語化することで、はじめて技術が習得されると同時に技の再現性に繋がるのだと思います。
その積み重ねが、今の私の剣道を作り上げています。
もちろん八段を取得した今でも、多くの映像や文献を研究して日々知識を更新しています。
※本記事の最下部に「誠先生セレクト剣道具」をご紹介しております。
|”誠先生の剣道教室”が起こす革命
KP:
そういった知識を元に、現在「誠先生の剣道教室」において技術伝承なさっていらっしゃいますね。
佐藤:
現在「実践・誠先生の剣道教室」と銘打ち、全国各地で剣道セミナーを開催しています。
参加者の中には複数回不合格になり、どの様に受審してよいか解らなくなり迷っていたが、セミナーを受けることによりその方向性が理解でき、次の審査や、短期間で六段・七段に合格した方も多くいらっしゃいます。
例えばセミナーの中で行っているのが、「すりかぶり」です。
ある映像を見ていた的に、打突の前は必ず右足から始動していることがわかりました。
社会人になって体力も落ちてくると、なかなか一挙動での打突ができなくなってきます。
しかし、正しい体の運用を身に着けることによって気剣体の一致した豪快な打突が出来るようになります。
「すりかぶり」は、それを改めて身につける意味で、オリジナルに開発した素振り法です。
1)左足のかかとを上げ、右足のつま先を床に軽く着ける
2)右足のつま先を出しながら、左手を引き上げる。
3)上げた手を振り下ろしながら、右足を戻す
4)2)に戻る
注意1:右足のつま先と左手を同時に動かす。
注意2:右足のつま先を出した際に、腰を前に出さない。構えた姿勢のまま、姿勢は崩さない。
もちろん剣道の指導法は対象者や目的によっても異なりますので、どれが正しく、どれが間違っているということはありません。
指導者としていかに正しく・わかりやすく剣道を伝えていくか、自分なりの解答を模索しているところです。
指導動画
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|”大人の剣道”を実践するために
KP:
ブランクから再開された、所謂“リバ剣”の方にアドバイスをお願いします。
佐藤:
まず、体の運用の仕方・打突法を身に着けることが大事ですね。
そして、「5つの間合」を理解することです。
「5つの間合」とは遠間・触刃の間・交刃の間・一足一刀の間・打ち間のことをいいます。
このうち、一足一刀の間と打ち間に関しては、仕掛ける間合いになるので打たれても仕方ないという気持ちで打ち切る部分になります。
それよりも大切なのは、遠間と触刃の間におけるいわゆる「技前」の部分です。
ここでどのような駆け引きを行うかを考えながら、稽古に取り組むと良いと思います。
KP:
具体的にどのようなことを考えていけば良いでしょうか?
佐藤:
遠間においては、構えた感じ・着装・所作・立ち姿等から相手の情報を収集します。
触刃及び交刃の間においては、相手の竹刀に触れ、抑え、巻き、弾き、乗せ等により相手の反応を伺います。
ここの情報収集なしに勝負にいっても、「打ちたい・打たれたくない」という気持ちが先に来てしまうので、「打ちたい気持ち」は自分勝手、「打たれたくない気持ち」は醜い剣道になりがちです。
必ず遠間から剣道をすることが、こういった間合いへの理解を深めると思います。
※本記事の最下部に「誠先生セレクト剣道具」をご紹介しております。
KP:
佐藤先生の稽古を拝見していると、誰に対しても自らが仕掛けて打っているように見受けられます。
佐藤:
八段を取得したからといって、相手が打ってくるのを待って合わせにいくような稽古はしません。
自分から打ち込む体力があるうちは、打たれても仕掛けるべきだと考えるからです。
先ほども申し上げた通り、「打ちたい」ばかりだと自己中心的剣道、「打たれないように」ばかりだと醜い剣道になりがちです。
そのどちらにもならず、いわゆる「合気」の中で勝負するには、技前の部分から仕掛けていって相手の情報を得ながら勝負していくような稽古が必要だと考えています。
KP:
基立ちの立場で、1日に何人も相手に仕掛けていくのは大変だと思います。
佐藤:
もちろん体力的に本当に苦しいですが、八段保有者として剣道を正しく伝える責任感が背景にあります。
伝える以上は、基本に即した稽古をしていかなければならないですし、稽古の中で究極の基本打ちができるよう間合い・攻めなどの技前を丁寧に実践していくことが、最終的に正しい剣道を伝えることになるのではないかと考えています。
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|少年指導の真髄
KP:
現在、四條畷剣友会(しじょうなわてけんゆうかい)でも、子供たちに指導をしていらっしゃいます。
佐藤:
子供たちに対しては、とにかく剣道を好きになってもらうことを最優先で考えています。
まずできることをやらせて、なるべく大袈裟に褒めるようにしています。
先生に褒められた体験というのは、子供にとっても親にとっても嬉しく、記憶に残るものなので、それによって剣道をやる喜びを子供と父兄の双方と共有することが大事だと考えています。
その甲斐あってか、四條畷剣友会では皆で褒めて応援する雰囲気が出来上がっているので、おかげさまでこの少子化の情勢下でも会員数は年々増えています。
KP:
学生に対する指導の考え方を教えてください。
佐藤:
まず、足腰・体幹を強化する稽古を重視することですね。
体幹を鍛えることで構えや打突が崩れなくなります。
すると、打突時の間合いが明らかになり自信を持って試合することができるようになります。
例えば同じ追い込みや掛かり稽古でも、色々なバリエーションを盛り込んだメニューを用意します。
これにより、単調になりがちな稽古がより一層楽しくなり、高等で複雑な技を自然と身に着けられるようになります。
稽古の中から自分が得意とする技術的発見を見出してもらうようにしています。
精神面に関しては、「自ら考えて取り組む環境作り」をしてあげるよう意識しています。
特に試合に関しては、最終的には個人の特性や一瞬の閃きが勝敗を分けると考えているので、そういった閃きを引き出すような環境を作ることが、指導者としての責任であると思います。
仮に「この場面では、こう攻めて、こう打て」と具体的に説明しても、型にはめてしまうだけで、選手一人一人の特性や独創性が発揮できません。
「この場面では、君ならどう攻め、どう打つ?」と考えさせる指導が学生の成長を促進させることにつながると思っています。
KP:
昔の子供たちと今の子供たちに違いはありますか?
佐藤:
今の子供は競争に弱いと思います。
学校でも平等と調和を重視する教育を行っているせいか、今までと同じように伝えても子供たちの捉え方が全く異なることがあります。
かといって小さい頃から勝負に徹すると、打たれないようにする意識が強くなって剣道が小さくなるので、そのあたりのバランスは意識しています。
出典:四條畷剣友会公式HP
※本記事の最下部に「誠先生セレクト剣道具」をご紹介しております。
|精神世界へ通じる道
KP:
最後に剣道における目指すべきところを教えてください。
佐藤:
剣道の真髄は、ここぞというときに「身を捨てて」技を出す部分だと思います。
その積み重ねが、剣道のみならず仕事や人生においても、何かを成し遂げる原動力になると考えています。
究極的な部分を言うと、「出発点は捨て身、到達点は相打ち」という格言があるように、互いに捨て身の状況で生死のやり取りを行う相打ちが一つの極意とされています。
さらにその先に行くと「相抜け」というように、構えあった段階で互いに力を見定めて実際には戦わないという境地があるとされています。
なかなか現代剣道に置き換えるのは難しいですが、最終的にはそういった精神世界まで実感として感じることができれば良いと思います。
※格言や考え方に関しましては、流派によっても異なりますので、あくまで個人見解に基づいております。
また、特定の流派や考え方を肯定したり、否定するものではございません。
運営から:
長年をかけて築き上げて来られた、オリジナルな剣道理論をお聞きすることができました。
自身の目で観察し、自身の言葉で分析・言語化してきたからこそ、言葉の一つ一つに大変説得力がありました。
これからもさらなるご活躍を、心より祈念しております。