▼スペシャルインタビュー▼
第二部「過程を大切に」
〜’09 ’12 ’15世界剣道選手権日本代表 鷹見由紀子〜
(以下 KENDO PARK=KP 鷹見由紀子=鷹見)
鷹見由紀子
福岡県如水館で剣道を始め、阿蘇高校時代にはインターハイ優勝。
その後清和大学へ進学し、第1期生として個人団体で全国制覇。
卒業後は、2009年、2012年、2015年世界剣道選手権日本代表に選出され、
個人優勝1回、3位1回、団体優勝1回。
現在は順天堂大学スポーツ健康科学部助教
※前回まで 第一部「本質にこだわる」
|年齢とともに変化する
KP:
女性が剣道を続ける上での、アドバイスをお願いします。
鷹見:
まずは目標を設定することです。
・大会での勝利を目指したい
・段位取得を目指したい
・子供と一緒に楽しみたい 等
何でも結構です。剣道を続ける意味や、モチベーションとなる目標を設定してください。
あとは、昔の自分と比較しないことです。
女性は競技から離れたり、年齢によってもかなり身体パフォーマンスが変わります。
若い時のイメージを捨てて、世代にあった剣道をするべきです。
特に段位取得を目指すのであれば尚更ですが、
・20代→積極的に打っていく
・30代以降→打つまでの過程を重視する
といったように少しずつシフトしていくと良いと思います。
私自身も、自分の剣道が今後どのように変化していくのか楽しみですし、変化していかなければならないと感じています。
勝負にこだわらず、純粋に駆け引きの中で“打った打たれた”を楽しんでいただくのが一番良いと思います。
お母さんが楽しそうにしていれば、お子様も楽しく剣道に取り組んでくれると思います。
KP:
男性剣士と稽古する際のポイントを教えてください。
鷹見:
どうしても男性相手に稽古するケースが多くなると思うので、これもいくつかポイントがあります。
・恐れず下がらないこと
・中心を取ったまま、前に仕掛けること
男性相手の場合はもちろん恐怖心はありますが、後ろ体重になった瞬間に差し込まれて打たれるだけでなく、怪我をするリスクも高まります。
まず下がらないことを意識しましょう。
それでもリーチやパワーが違いますので、ただ下がらないだけでは簡単に打たれてしまいます。
あくまで中心を取ったまま(理想は”突き”を狙った状態)、前に仕掛けることを意識すると良いと思います。
前に仕掛けるというのは必ずしも打つことではなく、前に出たり竹刀を触るだけでも十分効果があります。
そうすることで相手の出足が遅れたり、場合によっては止まりますので、返し技や出ばな技を出しやすくなります。
跳躍力のある男子大学生相手だと、特に顕著です。
KP:
女性も含めた社会人剣道家の方々からの疑問なのですが、”先生”にはどうやってかかっていったらよいでしょうか?
ともすれば一方的に打たされるか、打たれるばかりになってしまい、なかなか楽しめないことが多いと聞きます。
鷹見:
先生方は打つことで私たちの隙を教えてくれているので、原則は打ちにいくしかないと思います。
しかし毎回同じように打っていっても意味がないので、
→まず一回打ってみる
→次はパターンを変える
→反応を見る
というようにパターンを変えて仕掛けていくと良いと思います。
|世界王者・女性剣士・高段者としての未来
KP:
日本代表選手や海外の選手と戦ってみて、その違いや特徴を教えてください。
鷹見:
日本代表選手は、全員がそれぞれ得意技を持っていますね。
わかっていても打たれるような、必殺技に近いものです。
逆に外国の選手の場合は、駆け引きや拍子、スピードも全く違うので、得意技は使えなかったです。
基礎となる攻めや打突力といった部分で、勝負していく必要がありました。
世界選手権前には、対策として初心者や男子選手等も含め、色々なタイプの方と稽古をするようにしていました。
KP:
学生に教える際に、気をつけていることは何ですか?
鷹見:
表現や言葉選びですね。
同じことを教えても、学生によって解釈が違ったりするので、逐一学生にどう理解したか聞くようにしています。
これは毎回勉強になりますね。
また順天堂大学では、監督の意向としてこちらから選択肢を提示して、学生に選ばせるようにしています。
ベースとなる基礎や技術を一通り話し、その中から自分で選んで身につけるようにさせています。
大学生なので、既にある程度ベースとなるものを持っているのと、それに伴ってそれぞれ癖なども異なるので、選手個人の裁量を大きくしています。
KP:
海外選手が上達するために、アドバイスをお願いします。
鷹見:
まず外国人選手の剣道に対する熱心さは、本当に素晴らしいと思います。
今はインターネットで動画が見られると思うので、打ちや技などはよく研究なさっているなと思います。
一方で、剣道のベースとなる部分の反復練習が少し足りていないように見受けられました。
手足のタイミングがバラバラだったりするのは、反復練習で克服するしかないので、道場以外でも基礎的なところは反復練習するのが良いと思います。
すり足や構え、簡単な打ち込み等、家でもできると思うので繰り返しやるだけでかなり違うと思います。
ベースとなるものがないと、やはり多彩な技は出せないので、そこを取り組んでいただけるとすぐに上達すると思います。
KP:
剣道具 / 防具選びについて教えてください。
鷹見:
もともとあまりこだわりはないのですが、防具は2015年の世界選手権から自分でフルオーダーしたものを使用しています。
使ってみて、やはりフィット感と見栄えは大事だなと感じています。
竹刀も以前はあまりこだわりがなかったのですが、最近は手元重心のものを使用しています。
私は打つ時に左手が浮きすぎてしまっていたので、竹刀を手元重心のものに変えたところ改善しました。
ゴルフクラブなんかもそうですが、個々人のフォームや打ち方によって、竹刀を変えるのは良いと思います。
KP:
剣道業界に対して、感じている課題等はありますか?
鷹見:
あまりないですが、もう少し発信をしても良いのかなとは思います。
剣道の授業を受け持っているのですが、ほとんどの生徒が「剣道の名前は知っているが、見たことはない」という反応なので、もう少しメディア等に出て発信しても良いと思います。
私もよく雑誌等の取材を受けていますが、それは取材を受けることで剣道の普及や発展に繋がれば良いなという想いからです。
KP:
個人としての今後の目標や課題を教えてください。
鷹見:
明確な目標としては七段取得です。
これに関しては、打つまでの過程を磨き上げることで、成し遂げたいと考えています。
もう一つは、指導者として剣道を勉強することです。
色々なタイプの子に対して、どのように指導すれば良いかという部分はまだまだ勉強中です。
運営から:
世界の頂点に2度も立たれていらっしゃいながら、依然として剣の道を突き詰める姿に、本当に感銘を受けました。
また”女性目線での剣道”を分かりやすくお話いただき、女性の剣道普及に対しても、大変貴重なお話を頂きました。
性別、年齢関係なく探求できることこそ、剣道の最大の魅力だと改めて感じました。
同じ年の同じ生まれで、剣道してた事に感動します。