▼チームインタビュー▼
「高校剣道”イノベーション 2.0”」
〜慶應義塾高校 剣道部監督 土岐俊祐〜
卒業生や付属大学を含めた、「社中全体」での指導に転換した慶應義塾高校。
時代の最先端を行く、「慶應義塾」ならではの取り組みをお伺いいたしました。
※一般略称:慶応高校・塾高
(以下 KENDO PARK=KP 土岐俊祐氏=土岐)
※記事の最後に「推薦入試」制度のご案内がございます。
※一般の「剣道推薦」とは大きく異なりますので、ご注意ください。
-土岐俊祐-
1982年生
1998年 慶應義塾中等部剣道部卒
2001年 慶應義塾高校剣道部卒
2005年 慶應義塾大学剣道部卒
2014年 慶應義塾高校剣道部助監督就任
2017年 慶應義塾高校剣道部監督就任
慶應義塾大学卒業後は一般企業に勤務(2019年現在)
-野口翔-
1988年生
2007年 慶應義塾高校剣道部卒
2011年 慶應義塾大学剣道部卒
2017年 慶應義塾高校剣道部助監督就任
実績に関東学生優勝大会ベスト8、全日本学生優勝大会ベスト8 ほか。
慶應義塾大学卒業後は一般企業に勤務(2019年現在)
|外部指導員としての役割
KP:
土岐監督は教員ではなく会社員でありながら、慶應高校の指導にあたっていらっしゃいます。
監督就任までの経緯を教えてください。
土岐:
もともとは、慶應義塾の寒稽古に毎年参加していたのがきっかけでした。
当時監督でいらっしゃった剣道部の顧問の先生(慶應義塾高校教員)から、「高校の稽古に来てみないか」と誘っていただきました。
当初1年くらいは、週末に不定期で稽古に参加するのみで、特に指導等は行なっていませんでした。
そのうちに、春合宿等にも参加するようになり、少しずつ高校生達を見る時間が増えていきました。
そんな中、顧問の先生より助監督就任の依頼を受け、2014年に助監督として高校生の指導にあたることとなりました。
KP:
一般企業に勤めるOBと言う立場で、どのように高校生指導を行なったのですか?
土岐:
私は教員でもなく、指導経験もありませんでした。
もちろん平日は会社員として勤務しており、週末しか高校生の指導にあたることができません。
そこで、まず顧問の先生の指導をサポートしながら、どのように高校生を指導しているかを学びました。
また練習試合や遠征のたびに、他校の先生のご指導方法をよく観察しました。
さらに言えば、私が高校生の時と比べ、現在の高校剣道は若干ルールも異なります。
現在の高校剣道を理解するため、他校の試合もよく観察・研究しました。
もちろんこれは、今も継続しています。
|民間OBの登用
KP:
その後、教員である顧問の先生から監督を引き継がれました。
なぜ監督を引き受けられたのですか?
土岐:
これは、慶應義塾独自の精神にも関係しています。
前任より以前の監督は、いずれも私のような一般企業に勤めるOBの先輩方が務められていました。
慶應義塾高校では、剣道部をはじめいくつかの部活動が、一般企業に勤めるOBの方が監督をされています。
慶應義塾の中では「社中協力(しゃちゅうきょうりょく)」という理念があり、付属小学校から大学、OBOG、その他慶應義塾に深く関わる全員が助け合う精神が存在します。
それが、一般企業に勤めるOB監督が多いところに表れていると思います。
このようなことが根底にあり、慶應義塾高校のOBである私に監督就任の依頼をいただきました。
KP:
活動頻度や試合数も多い高校剣道部を率いるのは、本当に大変だと思います。
土岐:
もちろん大変ですが、それ以上に自分への責任とチャンスを感じ、監督就任をお受けすることにしました。
その決断にあたっては、先人の先輩方が築き上げて来られたカルチャーを継承する責任を感じたと共に、自分にとっても貴重な経験になるのではないかと考えました。
監督と言うのは、なりたくともなれるものではありません。
そういう中で高校剣道の指導に携わることは、自分の成長機会を得ると共に、慶應義塾や自分を育ててくれた剣道部に対して恩返しすることに繋がると思います。
|驚異の「三位一体」体制
KP:
現在、土岐監督を筆頭に、野口助監督、顧問の先生の3名体制で指導にあたっていらっしゃいます。
土岐:
現在の体制は、バランスが取れていると感じています。
選手としての経験も豊富な若手OBの野口君に助監督に就任いただき、生徒と近い立場での指導をお願いしています。
これにより、私が全体の意思決定と指導を行ない、細かい技術指導などを野口助監督が行なうような体制になっています。
それに加えて、平日の指導や学校生活面を顧問の先生にお願いし、全方位的なカバーができるようになっています。
これは決して「分業」ではなく、その時の状況に応じて3人でカバーしていくという体制です。
このような体制ができるのも、私と野口助監督、そして顧問の先生の間で「指導の方針や共通認識」を短期スパンでしっかりと共有しているからこそだと思います。
そのため誰がどのタイミングで指導に入っても、学生に対して一貫した指導となっているので、高校生側に混乱を生むこともありません。
KP:
高校生とはどのようなコミュニケーションを取っているのですか?
土岐:
私は剣道のプロではないのですし、生徒との接点は主に週末となってしまいます。
そこで、高校生と他愛のない話からまじめな剣道の話まで積極的に話かけるようにして、高校生が今何を感じているかを彼らの口から聞くことを心がけています。
時には、彼らの意見を取り入れることもあります。
会話の中で高校生の意見や悩み等の情報を回収できるよう、オンオフの切り替えをしっかりしながら、「何でも話せる」関係性の構築を意識しています。
「お友達関係」でも「主従関係」でもいけないので、高校生との距離感を調整しながらコミュニケーションを取っています。
形態としては、大学の部活動に近いかもしれません。
例えば、毎年学年が変わるたびに高校生に「今年は何をしたいか?」のテーマ設定をさせています。
自分達で目標を設定し、目標までのプロセスを考えさせるようにするためです。
とは言っても、高校生だけで答えを見つけることはできないこともあるので、そこにヒントを与えるのが我々指導陣の役割だと考えています。
KP:
昔の高校生と今の高校生の違いを教えてください。
土岐:
私が高校生の時と比べると、今の高校生の方が「視座」が圧倒的に高いと思います。
当時は目標設定を早慶戦(=早慶高校対抗高校剣道試合)に置いていました。
もちろん「インターハイに行きたい」等も思っていましたが、現実的には難しいなとも思っていました。
一方で現在の高校生は、関東大会出場やインターハイ出場を明確に目標設定していて、それに向けて本気で取り組んでいます。
またインターネットですぐに強豪校の剣道を見られる時代ですので、技術習得や稽古内容のブラッシュアップもとても早いです。
たまに長めの稽古を行なっても、全員が黙々と取り組みますし、稽古メニューも自分たちでアレンジしながら行なっています。
これらのことは、我々の頃には、なかなかできなかったことです。
結果として、近年では関東大会に出場できるようになりましたし、2015年と2017年には激戦区神奈川県を勝ち抜き、インターハイ個人戦の出場も果たしました。
特に2017年のインターハイでは、個人戦ベスト8まで進出いたしました。
|「独立自尊」を地で行く
KP:
慶應義塾高校剣道部の最大の魅力を教えてください。
土岐:
何と言っても、「視野が広がる」ことではないでしょうか。
慶應義塾高校剣道部には、色々な経歴の高校生が所属しています。
と言いますのも、入学経路は内部から進学した者、一般受験で入学した者、推薦入試で受験した者の大きく3つに分かれます。
彼らの中には、「勉強が得意な者」「剣道初心者」「剣道の全国制覇経験者」等、バラバラなバックグラウンドを持つ高校生がおり、互いをリスペクトしながら稽古に励んでいます。
剣道部以外に目を向けても、慶應義塾高校には「勉学に秀でた者」「オリンピック候補選手」「エンジニア」「起業家」等、本当に様々な高校生がいます。
彼らと触れ合うことで、価値観が磨かれ、視野が広がります。
また、大学剣道部とシームレスに稽古できるのも魅力です。
大学剣道部とは同じ道場(※稽古時間は異なる)で稽古を行なっているため、希望すれば自ら大学の稽古に参加できますし、大学生も高校の地稽古に参加してくれます。
さらに高校の試合前には、大学生が試合相手をしてくれます。
慶應義塾高校出身の者も多いため、高校大学と一貫した指導が受けられるとともに、稽古時間外でも大学生とコミュニケーションを日常的に取れることも魅力の一つです。
このような環境は、他ではなかなか無いのではないでしょうか。
KP:
指導を通して、どのような人材を育てたいですか?
土岐:
慶應義塾の目的に、以下のようなものがあります。
“気品の泉源、智徳の模範
出典:慶應義塾の目的
・・・以て全社会の先導者たらんことを欲するものなり”
つまり将来社会の様々な分野でリーダーとなることを求められています。
そのために、「自分で考え、自分で行動し、自分で責任を持てる」人財になれるような指導を心がけています。
変化の激しい現代では、このような「自律型人財」がより大切になってきているのではないでしょうか。
KP:
最後に「推薦入試制度」について教えてください。
土岐:
慶應義塾高校には「推薦入試制度」が存在します。
推薦入試といっても、他の高校であるような推薦とは異なり、剣道部としての入学枠のようなものがあるわけではありません。
中学3年次の学業の成績要件と併せて、「運動・文化芸術活動などにおいて顕著な活動がある者。」という要件を設定しており、スポーツに限ったものではありません。
様々な分野で秀でた人と一緒に入学試験を行ない、その中で合格を目指していただくことになります。
その中で、剣道部では毎年1~2名の推薦入試を経て入学してくる者がいますが、年によってはゼロという学年もあります。
剣道部における進学経路別のおよその比率でいうと
・内部進学者:40%
・一般受験入学者:50%
・推薦入学者: 10%
というところでしょうか。
中学校の成績要件の部分は自助努力であり、入学を確約できるわけではございませんが、剣道部としては多くの剣道部学生を受け入れたいと考えております。
慶應義塾で剣道をしたいという皆様のチャレンジを、心よりお待ちしております。
ご参考:慶應義塾高等学校 推薦入試出願資格(2019年度版)
1.2019 年 3 月 31 日までに学校教育における 9 年間の課程を修了または修了見込みの者。
※上記は2019年入学時の募集要項です。実際の受験にあたっては、当該年の慶應義塾高校の入試要項をご確認ください。
2.2004 年 4 月 1 日までに出生した者。
3.本校の過年度の入学試験において出願資格を有したことがない者。
4.国内の高等学校に在籍したことがない者。
5.本校が第一志望である者。
6.出願時において、1. を満たすために最後に在籍している学校の校長の推薦を受けた者。
7.6. の学校が日本の中学校もしくはこれに準ずる学校や中等教育学校である場合は、出願時におい
て中学 3 年次の 9 教科の成績合計が 5 段階評価で 38 以上である者。
8.運動・文化芸術活動などにおいて顕著な活動がある者
出典:2019年度 慶應義塾高等学校推薦入試概要
推薦入試制度に関するお問合せ:info@kendopark.jp