【剣道の真髄を追求する】伊田テクノス剣道部 橋本桂一

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橋本桂一,剣道,七段戦,井田テクノス,埼玉

「剣道の真髄を追求する」

〜伊田テクノス剣道部 橋本桂一〜

全日本七段選手権優勝者であり、強豪実業団チーム伊田テクノス(株)でも活躍なさっている橋本桂一先生にインタビューを行いました。
あくまでプレーヤーとして剣道を追求しながら、ビジネスマンとしての時間活用やトレーニングまで、存分に語っていただきました。

以下(KENDO PARK=KP    橋本桂一氏=橋本)


1980年生 埼玉県出身
実家である剣誠館橋本道場(@埼玉県)にて剣道を始め、京北中・高校(@東京都)へ進学。
高校卒業後は帝京大学へ進学し、3年時に全日本学生剣道選手権大会第3位、4年時に関東学生剣道選手権大会ベスト8
大学卒業後は、実業団の強豪伊田テクノス(株)(@埼玉県)へ就職。
以後、2004年に国民体育大会優勝。
2006年に全日本都道府県対抗剣道優勝大会第3位。
2007年と2010年に関東実業団剣道大会優勝。
2012年には、全日本剣道選手権大会においてベスト8に進出。
2015年に全日本実業団剣道大会準優勝
2016年に全日本都道府県対抗剣道優勝大会で優勝&優秀選手賞
2018年には全日本選抜剣道七段選手権大会優勝。
全日本東西対抗大会出場、ほか多数。
現在、教士七段。(2019年5月現在)


|”非”剣道エリートからのスタート

KP:
剣道を始めたきっかけから教えてください。


橋本:
祖父の代から、実家が剣道道場を運営していた関係で、5歳の頃に剣道を始めました。

とはいえ、決して熱心に稽古していたわけではなく、小学校高校学年になり中学校受験が近づくと、月1回程度しか稽古しないようなレベルでした。


KP:
中学からは、都内の私立に進学なさいました。


橋本:
進学した京北の中高は、決して全国的な強豪チーム等ではなく、剣道目的ではなく通常の受験で進学いたしました。

中学でも剣道部に所属したのですが、家に帰れば父が待ち構えていて、自宅の道場で稽古をする日々でしたので、学校の部活はサボリがちだったと思います。

父の稽古は、基本に忠実かつ内容も厳しいものでした。
今考えると、この時の稽古が現在の私の剣道の基礎になっているかもしれません。
結果として、中学2年時に東京都で3位に入賞いたしました。


KP:
高校時代はいかがでしたか?


橋本:
高校でも剣道部に所属し、1年生から試合には出させて頂いていたのですが、サボり癖は相変わらずで、先輩方に裏門で見張られていたほどでした。
当然ながら、3年間1度もタイトルは取れず、関東大会すら出場することができませんでした。

この頃に自宅の道場も解体されてしまったので、剣道との繋がりはかなり薄れていた頃だったと思います。


KP:
いわゆる「剣道エリート」と言われる方々とは全く異なる経歴ですね。


橋本:
そうですね。
帝京大学にも、剣道推薦ではなく一般生として入学致しました。

しかし、1年生の春に関東学生選手権を見て、「自分なら勝てる。ベスト4以上には入れる。」と感じました。
もちろん一切根拠はなかったのですが、強豪校の選手と違い剣道に真剣に向き合ってこなかった分、「剣道的な感覚」を持っていなかったため、「一競技」として剣道を見ていたのかもしれません。

「稽古さえすれば勝てる」と本気で考えていたので、大会後からは毎日一番早くに道場へ行って掃除をし、毎日先生に稽古をお願いしました。
全体稽古後も居残り稽古を行い、稽古の無い日には中央大学や埼玉県警などにも出稽古に行きました。
正に「猛稽古」を地で行くような生活だったと思います。

結果として、3年時に全日本学生選手権にて第3位に入賞し、4年時には関東学生選手権でベスト8に入りました。

橋本桂一,剣道,七段戦,井田テクノス,埼玉
必ずしも「剣道エリート」と言われるような経歴ではなかったとのこと。

|代表合宿が転機に

KP:
そこから、日本を代表するような選手としのぎを削るようになります。


橋本:
転機となったのは、大学時代から参加させていただいた全日本強化合宿ですね。

日本代表の選手達が、普段の立ち振る舞いから気を遣っている姿に大変驚かされました。
例えば、「道場入る際には、必ず上着脱いで鞄を下ろす」といったことや「面の持ち方」、 立礼・座礼の角度や意味合い、剣道着袴の本来のたたみ方に至るまで、基本的な礼儀の部分から体の使い方まで、学生の私とはそれこそ「全て」が異なりました。

一方で、彼らの仕草や動きを見て、「これをやれば、絶対に強くなる」と感じました。
そこで代表選手の日常の仕草から、動きや技まで何でも真似した結果、実際に戦績が向上していきました。

これは、剣道家としてメンタル面がアップデートされ、どんな場面でも動じなくなったことと、剣道に対する理解度が深まったことが挙げられます。
特に後者に関しては、今まで何となくやっていた素振りや切り返し等の稽古に、実際にどんな意味があるかを理解できたことで、稽古内容がより充実していったからだと思います。


KP:
その後数々のタイトルを獲得され、全日本選手権ではベスト8まで進出なさいます。


橋本:
強豪校出身でもなく、警察官や教員でもない私が、日本代表する選手達と互角以上に戦えたことは本当に自信になりました。

20代中盤から30歳くらいまでは、「いかに相手を打つか」にフォーカスしていたように思います。
今思えば、剣道の道においては必要なプロセスであったと感じています。

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実業団剣士ながら、2012年の全日本剣道選手権でベスト8に進出。
画像出典:全日本剣道連盟

|今が一番強く、楽しい

KP:
2018年には、全日本選抜剣道七段選手権大会(=通称”横浜七段戦”)にて優勝なさいました。
自身の剣道の変化について教えてください。


橋本:
実は今の自分の方が、剣道のレベルは高いと思いますし、より楽しいと感じています。

35歳くらいからだと思いますが、「相手の気持ちをいかに読むか」や「相手をどう動かすか」に着目するようになりました。
結果として、竹刀を振り回す必要がなくなり、「技前」について深く考えるようになりました。

先述のように20代の頃は「相手を打ってなんぼ」と考えていたので、無駄なフェイントや打突も多かったように思います。
全日本選手権に出始めた頃も、今思えば質としては低い剣道であったと感じています。

とはいえ勘違いして頂きたくないのは、それらも全て「今に至るまでに必要なプロセス」であったということです。


KP:
現在の剣道観について、具体的に教えてください。


橋本:
剣道の攻め合いは、「言語コミュニケーションと同じ」という捉え方です。

例えば初対面の人に挨拶する時や仕事で営業先に行く時は、「こんにちは!」と明るく挨拶すると思います。
怒った感じで挨拶したり、暗く挨拶する人は少ないと思います。

これは相手の警戒感を解き、「あなたを受け入れる意思がありますよ、あなたと仲良くなりたいんですよ」という意思表示をするためです。
「相手と握手する気持ち」という表現が、最もイメージに近いと思います。

剣道もこれと一緒で、「いかに相手の警戒心を解いて、打てる間合いに持っていくか」が大切だと考えています。

例えば、自分が攻め気を見せて相手の手元が浮いたとします。
若い頃であれば、「よしチャンスを作れた!」と考えたと思いますが、現在は「攻めが強すぎて、相手が警戒してしまっているな」と考えます。
そこで、攻めを少し弱めたり手前に置いたりして、相手が打てる間合いまで入ってこられるように調整します。

剣道で言うところのいわゆる「合気」とは、このことを言っているのではないかと思います。

しかし「合気」を作っただけでは、打突に移れません。
そこで、「 剣先を外さずに剣先の力だけ抜く」と言うことを意識しています。

例えば剣先を動かしたりして力を込めると、相手が防御態勢に入ったり下がったりしてしまいます。
これでは、私としては打ち込むことができません。

そこで、先述のように攻め気を調整して相手の動きを引き出します。
それにより、相手に何らかの生体反応が出たところを、一気に捉えに行きます。

この時注意すべきは、あくまで「反応を捉える」ことが大切で、必ずしも打突をしにいくわけではないということです。
逆に言うと、「捉えた」と感じて打突に移った際は、どういう体勢であっても打ち切ります。
先生方がよく仰る「打たれても打ち切れ」というのは、こういうところから来ているのだと思います。

平たく言うと「出ばな」ですが、「合気を作る」ところからのプロセスが含まれますので、難易度は遥かに高いと思います。

現在の私の感覚では、「相手を居付かせて、飛び込み面」では意味がありません。
もちろん肉体のスペックによって、当てることはできるでしょうが、それよりも「相手をいかに使ったか」「いかに相手の呼吸に自分をアジャストさせたか」を重視しているので、そこを研ぎ澄ますことをテーマとしています。


KP:
すごい世界ですね。
一方で、試合となるとそれだけでは上手くいかないように思います。


橋本:
仰る通り、そこが剣道の難しいところです。
そればかりやっていると、いわゆる「おじさん剣道」になりがちです。
実際に試合に出てみると、肉体スペックで上回る選手に簡単に打たれてしまいます。

そこで、先述のような「合気を作る」剣道と、打突を重視した「試合剣道」の両方をミックスする必要があります。
例えば、相手の生体反応を感じて「捉えた」と思っても、相手より出遅れたり自分の体勢が悪かったりすることもあります。
そういったケースには、小手に変化したり返し技に切り替えたりという判断が必要になります。
(基本は出ばな面を狙っている)

2018年に、全日本選抜剣道七段選手権大会で優勝させて頂きましたが、有名選手の中で勝ち上がれたのは、そういった「理合」を求める剣道と、「試合」に求められる剣道の両方を、しっかりと稽古できた結果だと考えています。

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2018年の全日本選抜剣道七段選手権大会で、優勝を果たす。
画像出典:日本剣道振興協会

|トレーニングの考え方

KP:
試合で勝つには、肉体的鍛錬も必要となりそうですね。


橋本:
そうですね。
私個人としては、打突の局面や試合の局面を考えると、一定の筋力トレーニングは必要だと考えています。
打突機会と捉えるためにも、肉体スペックが高いことに越したことはないと思います。

一方で、必要となる筋肉は、それぞれのプレースタイルによってもバラバラだと思います。
それを確認する方法としては、例えば大会で何試合もこなした翌日に、普段とは異なる箇所が筋肉痛を起こすことがあると思います。
これは、本来必要にも関わらず、そこの筋力が足りていないことを意味します。
そこで、当該箇所をトレーニングすれば、プレーの向上には寄与すると考えられます。

私が現在行なっているトレーニングとしては、「朝稽古」「通常稽古」「筋力トレーニング」「自宅練習」に大きく分けられます。

私はあくまで会社員ですので、仕事をしている日中の時間は、稽古に充てることが出来ません。
そこで、仲間と一緒に朝5時半から朝稽古を行なっています。
基本打ちから始まり、地稽古、追い込み等も行なっています。
稽古の後に仕事に行くのはかなり辛いですが、これも慣れてくるとこなせるようになってきます。
それこそが、「強くなった証」だと考えています。

仕事を終えると、所属先の伊田テクノスで稽古を行ったり、稽古がない日には埼玉県警に出稽古に行ったりして、数多くの相手と剣を交えるようにしています。

通常稽古後は、そのままジムに行ったり、自宅で素振りやランニングを行ったりします。
これは体のコンディションや、筋肉の状態を見ながらメニューを使い分けています。

ジムでは、ベンチプレスから始まり、上半身下半身共に箇所に分けて鍛えます。
自宅で行う素振りでは、900gの素振り用木刀を使用し、正面打ちから左右面、早素振り、腰割り素振り(=股割り素振り)、小さく振る素振り等、1,000本程度を振り込みます。
いずれも筋力負荷が高いため、怪我をしないように鍛える箇所を変えながら行うようにしています。

橋本桂一,剣道,七段戦,井田テクノス,埼玉
現在でも、かなりの稽古量をこなす。

|剣道の真髄を追求する

KP:
今後のビジョンを教えてください。


橋本:
とにかく剣道が楽しくて仕方ないので、指導というよりもプレーすることを継続していきたいと考えています。
プレーヤーとしての目標は、年齢を重ねても全日本選手権に出場することと、八段に昇段することです。

とはいえ、あくまでこれらは具体的な目安となるもので、個人的な想いとしては剣道の真髄を追求したいという気持ちが強いです。

先述の通り、「合気を作る」ことや「相手の気持ちを読む」といったことを考え始めてから、「剣道は対人競技である」という本当に意味がわかってきた気がします。
試合や稽古を見ていただいた先生方にも、「橋本は攻めの意味をわかって剣道しているね」という言葉を頂くようになり、これが大きなモチベーションにもなっています。

一方で、先日ある師範の先生から、「橋本は、”仕掛けて相手が起こる”ところを打っている。それは素晴らしい。ただその先に行くには、”相手の技の初動”で打つのではなく、”相手の技が起こり切ったところ”を打つんだよ。」と言われました。

最初は意味がわかりませんでしたが、稽古をするうちに少しわかるようになったと感じています。
今はまだ「”相手が動いてくる、打ってくる”というこちらの確信」に基づいて技を出していますが、範士の先生方の世界観では「”相手が打ってくる”という確証」を得て技を出しているのだと思います。

このように、年齢を重ねても剣道の奥深さに触れることができ、改めて剣道の魅力を感じているところです。
最近では小中学生を相手に元に立つこともありますが、誰が相手であっても毎日発見があり、日々の稽古でマンネリを感じることは一切ありません。

上記のような奥深い剣道観は、数々の八段の先生方が長い年月をかけて醸成してきたものだと思います。
私もいずれ肉体が追いつかなくなる時が来るとは思いますが、先生方から教わった剣道の奥深さや真髄を、後進の人たちに正しく伝えられるようになりたいと考えています。

そうなるためにも、今は自分の剣道をひたすら磨いていきたいと思います。

剣道具専門通販セレクトショップ【KENDO PARK】

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