近年剣道具(防具)の主流は「ミシン刺」ですが、職人技の光る「手刺」も根強い人気を博しています。
ミシンによる均一的な縫い目では再現できない、耐久性と高級感が特徴です。
今回は、そんな手刺防具の特徴をまとめてました。
|「刺」とは何かを理解しよう
「刺」という言葉について、実はよく知らないという方もいるのではないでしょうか。そんな方のために、まずは「刺」について簡単におさらいしていきます。
「刺」の考え方
剣道具(防具)の「刺」について考える場合、基本的には「刺し方」と「刺し幅」が大切となります。
「刺し方」とは糸の通し方の種類を指します。
例えば「グノメ刺」と呼ばれるものであれば、刺し方を部分ごとに変えていき、刺し目がだんだんと細かくなっていくようなものをいいます。
こうすることで、打突部分の布団に厚みを持たせたまま、非打突部分の曲線部やヘリを薄く仕上げることができます。
布団全体をまっすぐ均一的に縫う「延べ刺」や、布団に対して斜めに角度をつけて糸を通す「ナナメ刺」等も、刺し方の種類の一つです。
次に「刺し幅」ですが、一般的には刺し幅が広がるにつれ剣道具(防具)の布団全体は柔らかくなるとされ、逆に刺し幅が小さくなると、比較的薄い硬い剣道具(防具)となるといわれています。
※実際には、素材や仕様によって異なります。
ミシン刺と手刺
剣道具(防具)には、大きく分けて「ミシン刺」と「手刺」の2種類があり、両者ではその縫い方が異なります。
ミシン刺が2本の糸を交互に縫い合わせていくのに対し、手刺は1本の糸を内側に隠すように縫いあげ、刺し目が点のようになるのが基本です。(=点刺)
これにより、手刺は丈夫さと重厚感を両立させることができますが、こうした技術には手間と時間が必要なため、比較的高価になります。
|手刺防具とは
自分の身を守ってくれる剣道具(防具)の選定は慎重に行いたいところですが、そのためには剣道具(防具)の特徴を是非とも知っておきたいところです。
基本となる「刺」について知った後は「手刺防具」とはどういうものなのかについて、その特徴を見ていきます。
手刺防具の特徴
手刺防具とは、その名の通り職人の手により一針ずつ手作業で縫い込まれた剣道具(防具)のことです。
※現在は「手刺と同様の刺し方」ができるミシンも開発されており、手刺防具と謳っている全てが手作業というわけではありません。
本記事では、そのようなものを「手刺風」防具と定義します。(後述)
刺し方については先述したように、一本の糸を使って縫い込んでいく刺し方です。
これにより凸凹がつき、布団全体にしなやかさ(=コシ)が生まれます。また、刺し幅についての表記は、ミシン刺の場合は「〜ミリ刺」と表記される一方、手刺の場合は「〜分刺し」、と記載されることが多いです。
1分=約3ミリであり、一般に1~1.5分程度は硬めな布団の仕上がりとなります。
逆に2分や2.5分(=2分5厘)となると、比較的柔軟な仕上がりとなります。
一般には、2分や2.5分の刺し幅の剣道具(防具)の方が、柔らかいため体に馴染み易く、好んで使う方が多いようです。
刺の回数も比較的少ないため、1分や1.5分刺のものよりも安価であることが多いです。
逆に1分や1.5分刺などの細かい目になると、薄く硬い仕上がりになるので、一般に玄人好みの剣道具(防具)と言えます。
一方で目が細かい分、見た目に重厚さや高級感があります。
また刺の回数が多く、技術と時間を要するため、比較的高価であることが多いです。
このような点からしても、高段者や用具への趣向が強い方向けと言えます。
手刺防具のメリット・デメリット
ここまでの内容を踏まえ、手刺防具のメリット、デメリットをまとめます。
▼メリット
・しなやかで、衝撃にも強い。
・高い耐久性を備える。
・高級感があり、見栄えが良い。
▼デメリット
・発注から完成まで、時間がかかる。
・比較的高価である。
|オススメ手刺防具
【靖龍】手刺防具セット from 松川武道具
・手刺特化の剣道具職人
・オリジナル型の「靖龍」
・刺幅選択制(1.2~2.5分)
・上質素材
創業約60年を誇り、手刺に特化した剣道具職人が製作する一品です。
全国剣道具職人会の会員でもあります。
全国の名人から集めた型をアレンジし、オリジナルの型を作り上げました。
これに沿って製作されるのが、「靖龍」です。
刺幅は1.2分 / 1.5分 / 2分 / 2.5分 の中からお選び頂けます。
独自の仕立てを行っているため、細かい刺幅でもコシがある仕上がりです。
武州正藍染織刺生地、武州正藍染10,000番紺反、最高級小唐の紺革、本絹飾り糸を使用しています。
【空】手刺防具セット from 大和武道具製作所
・大和武道具製作所
・戦時中から続く超老舗
・2分5厘刺(約7.5mm)
・打突耐久性よりも美しさを重視
・紺革飾り縫い
・選べる胴台
創業約70年、戦時中から続く超老舗武道具店です。
2分5厘刺(約7.5mm)
柔らかさとフィット感を重視した2分5厘刺を採用しています。
打突への耐性は厚さや凹凸ではなく、縫い方や成形技術によって補完されています。あくまで上級者向けの仕様であり、身につけた際の美しさを重視しています。
【仁】手刺総紺革 セット from 栄光武道具 / 眞仁
・眞仁シリーズ
・手刺布団
・刺幅1.5分or2分
・総紺革仕立て
・高密度低反発布団
埼玉県にある栄光武道具設立した新ブランドです。
かつて日本の技術者が設立した剣道具工場「新進」を継承して制作しています。
手刺布団により、低反発かつコシのある布団に仕上がっています。
刺幅は1.5分 / 2分よりお選び頂けます。
通常よりも密度の高い芯材を使用しているため、低反発でありながら柔軟な布団に仕立てています。
【彌一号】セット
・東京渋谷の老舗「松興堂」
・手刺にして高使用感
・柔軟性な1.5分刺
・爪刺
東京渋谷に古くから店を構える、老舗武道具店です。
戦後剣道黎明期から、用具提供を行っています。
手刺ながら使用感にもこだわった一品
手刺防具ながら重厚になりすぎず、重量と弾力性のバランスをとった使いやすいモデルです。
1.5分刺を採用し、ある程度の凹凸と柔軟性を生むことで使用感を高めています。
指の爪で刺すポイントを押さえて締め込む、爪刺を採用しています。これにより布団の中に糸を締め込みますので、糸の磨耗が少なく弾力性が長きにわたって維持されます。
ミツボシ【旭峰】セット
・ミツボシ社製安心品質
・日本製高級ライン「峰」シリーズ
・人気の6mmピッチ刺「旭峰」
・独自の縫製法でふっくら
・手刺防具にも負けない高級感
・IBBセーフティーガード取付可能
・完全受注生産
ミツボシ社の技術とブランドが保証する高品質商品です。
またミツボシ社製品の中でも、高級シリーズとして有名な「峰」シリーズです。
ミシン刺でありながら「ピッチ刺」と呼ばれる特別な縫合を施しているため、まるで手刺のような柔らかくコシのある仕上がりになっています。
国産の紺鹿革、紺反生地の使用により見た目にも高級感漂う仕上がりとなりました。
【仁】手刺織刺 セット
・眞仁シリーズ
・総織刺手刺2分
・高密度低反発布団
・顎・ヘリ紺革仕立て
埼玉県にある栄光武道具設立した新ブランドです。
かつて日本の技術者が設立した剣道具工場「新進」を継承して制作しています。
2分手刺布団を使用し、表面を織刺(=綿道衣素材)にて仕立てています。
芯材に密度の高いフェルトを使用しているため、低反発かつ高耐久な布団に仕立てています。
|「手刺風」防具とは?
技術の発展目覚ましい剣道具界において、近年注目を集めているのが「手刺風」防具です。
ミシン刺のような低い値段設定で、手刺のような重厚感を実現したのがこの「手刺風」防具です。
「手刺風」防具の特徴
近年、手刺のように1本の糸で点のような刺し目に仕上げることができるミシンが登場しました。
これに用い、細かい刺し幅を実現することで、外観から仕様まで手刺防具に限りなく近い剣道具(防具)の製造が可能となりました。
従来のミシン刺防具よりも、丈夫でコシのある仕上がりとなり、また通常の手刺防具よりも安価で手に取りやすいのが特徴です。
このような特徴により、現在年配の方から学生層まで、広い範囲くユーザーを増やしています。
一方で、全体的に手刺防具に寄せてはいるものの、仕立てはあくまでミシン刺ですので、刺幅が画一的である点と、凹凸がつきにくい点は手刺防具とは異なります。
結果として、耐久性やコシなどの点においては、本物の手刺防具がするれていると言われています。
購入の際は、仕様や目的、予算などをしっかりと検討した上で決定すると良いでしょう。
|自分だけの1台を見つけよう
ここまで手刺防具ついての特徴をまとめましたが、やはり剣道具(防具)を購入する際に一番重要なのは自分に合った防具を選ぶことです。
例えば、成長期の少年剣士が高価な手刺防具を購入しても、すぐにサイズは合わなくなってしまいます。
また面や垂だけ手刺の物を購入し、小手だけミシン刺を使用しても、全体として締まった見栄えにはなりません。
なにより剣道具(防具)は、自分の身を守り、自身の剣道ライフを高めるためのものです。
自分の身体に合ったものを選ぶのはもちろんのこと、予算や好みも加味して、「身につけて稽古がしたくなる」ような一品を選びましょう。