▼スペシャルインタビュー▼
「レベルに合わせて強くなる」
〜三井住友海上火災保険株式会社剣道部副主将 井口亮(1)〜
「限られた時間で効果を出したい」という、実業団剣士の稽古メソッドをお聞きいたしました。
(以下 KENDO PARK=KP 井口亮=井口 三井住友海上火災保険株式会社=三井住友海上)
-井口亮-
1987年生 埼玉県出身
長瀞修身館(@埼玉県)で剣道を始め、小学生で全国道連大会個人3位。
熊谷高校時代には国体優勝。
その後慶應義塾大学へ進学し、3年時に関東学生優勝大会準優勝。4年時主将に就任。
卒業後は三井住友海上火災保険(株)に入社し、関東実業団大会優勝2回、全日本実業団大会3位1回。
現在三井住友海上火災保険(株)剣道部副主将。
|短時間で成果を出す意識
KP:
井口さんは名門三井住友海上で、レギュラーとして活躍なさっていらっしゃいますよね。
学生時代から輝かしい実績をお持ちです。
井口:
慶應義塾大学を経て、2010年に今の会社へ入社いたしました。
かれこれ社会人8年目になり、今年30歳を迎えます。
三井住友海上剣道部では副主将を務めており、こちらも任せていただいてから今年で5年目になります。
KP:
社会人になって、自身の剣道の変化は感じますか?
井口:
やはり、体力が落ちてきているのを感じますね。特にここ2年くらいでしょうか。
もちろん稽古量は、学生時代より格段に減りました。
最低週1回をベースに、2回できれば良いほうです。
通常業務もかなり忙しいので、”時間を見つける”というよりは”時間を作って”稽古している感じです。
KP:
今の稽古内容はどのような感じですか?
井口:
稽古時間は1時間半ですし、道場も広くはないので、メニュー自体は本当にシンプルです。
基本打ち→自由に技練習→地稽古→想定稽古 というところです。
想定稽古というのは、試合ラスト30秒想定で一方が一本を取りに行き、もう一方が守りきるといったシュミレーション練習です。
KP:
稽古で意識していることは何ですか?
井口:
忙しい合間を縫って稽古しているので、とにかく”短時間で成果を出すこと”を、最優先に考えています。
そのために、基立ちの意識が圧倒的に違いますね。
当部では基本打ちの段階から、基立ちがガンガンプレッシャーをかけてきます。
これは部内の共通認識としてありますね。
KP:
それは素晴らしいと思いますが、年齢や剣道のレベルによっては難しそうですね。
井口:
いいえ、そんなことはありません。
課題は、それぞれのレベルに合わせて取り組むべきことだと思うからです。
例えば、初心者が八段の先生のアドバイスを聞いてもわからないことが多いですよね。
仕事に置き換えれば、新入社員がいきなり課長のアドバイスを聞いてもわからないことと同じです。
実は三井住友海上剣道部には、いわゆる”リバ剣”の方や50代60代の方まで幅広くいらっしゃいます。
色々なレベルの方がいらっしゃるのが、逆にチームとしての強みになっているかもしれません。
|社会人剣士上達のポイント
KP:
具体的には、どのようにするのが良いのでしょうか?
井口:
ポイントは2つあって、「課題を言語化」することと
「自分より少し上の人を目標とする」ことだと思います。
剣道は”攻め”だとか”気迫”だとか、言語化するのが難しいことがたくさんあります。
これらをあえて”ここをこうしよう”と言語化することで、やることが明確になります。
あとは自分より少し実力が上の人を見つけて、その人に目標設定することです。
その方に稽古をお願いする以外にも、積極的にアドバイスを求めるのも有効です。
おそらく同じ道を通ってきているはずなので、すごくわかりやすいアドバイスが得られると思います。
KP:
社会人剣道家の方々が上手くなるために、具体的な練習方法はありますか?
井口:
具体的メニューではないですが、2つあります。
1つは「30の技練」です。
これは私の出身道場である、埼玉県の長瀞修心館で行っていた練習です。
長瀞修心館では小学生のうちから、基本打ちに始まって、フェイント・引き技・応じ技・突き技まで30種類を1パックとして練習します。
もちろん自分で開発してもOKです。
できてもできなくても”まず一通りやってみる”ことで、自分が得意な技、好きな技がどれかがわかります。
雑誌などを見ると画一的なことが書いてありますが、特に社会人はそれぞれ体の動きや年齢も異なりますので、その人にあったスタイルを模索すべきだと思います。
KP:
それで生まれたのが、井口さんの得意技である”引き面”と”小手”ですね。
井口:
そうですね。
この2つはとにかく自分が得意な技なので、相手に読まれても打ちに行きます。
とはいえ、さすがに部内では難しくなってきました。
KP:
もう1点を教えてください。
井口:
一足一刀の間合いで”我慢”することですね。
特に先生にかかる際は、どうしてもプレッシャーに負けて自分から”打たされてしまう”のですが、あえてそこを我慢します。
もちろん先生には突かれたり、少し怒られることもあるかもしれませんが、闇雲に打っていっても意味がないので、そこは気をつけています。
KP:
我慢するとそのまま打たれてしまって、何もできなかったといったことはないですか?
井口:
もちろんあります。
そこで、特に社会人で剣道を再開なさった方には「迷ったら半歩前へ」を実践いただくと良いと思います。
ここで注意すべき点は、前に出るからといって闇雲に打たないことです。
むしろ打たずに半歩前に行くことで、景色が変わります。”機会”というやつでしょうか。
これは三井住友海上でも、全員が実践している方法です。
運営から:
「各々のレベルに合わせて稽古をする」という考えと、「やるべきことを徹底的に言語化する」という姿勢が印象的でした。
”リバ剣”の方々にもオススメの技や、30歳を迎える上での今後の課題についても語っていただきましたので、次回掲載いたします。