▼スペシャルコラム▼
「剣道の経済圏を構築する」
〜派生サービス立ち上げ編〜
KENDO PARK代表 永松謙使(後編)
「剣道の経済圏を構築する」のビジョンのもと、KENDO PARKリリース後に様々な派生サービスをリリース致しました。
インバウンド(=武道ツーリズム)、YouTuber、オンラインサロン等、それまで剣道界には一切存在していなかった先進的なものばかりでした。
剣道界では今まで避けられ続けてきた「ビジネス」を通して、業界を変える取り組みと、見据えるビジョンを記載いたします。
-永松謙使(ながまつけんし)-
1987年生 東京都出身
5歳より東競武道館(@東京都大田区)にて剣道を始める。
その後、慶應義塾中等部剣道部、慶應義塾高校剣道部、慶應義塾大学體育會剣道部に所属。
大学卒業後に野村證券(株)へ就職し、同社剣道部に所属。
2016年に野村證券(株)を退職し、(株)パークフォーアスを設立。
2016年末に「剣道具専門通販セレクトショップKENDO PARK」のサービスを開始。
2017年に「外国人向け剣道体験ツアーSAMURAI TRIP」のサービスを開始。
2019年に剣道YouTuber「剣道三段五段」チャンネルの運営を開始。
2020年に剣道専門オンラインサロン「剣道イノベーション研究所」を共同設立。
▼主な受賞歴
・第7回スポーツ振興賞「観光庁長官賞」
・スポーツ文化ツーリズムアワード2019「スポーツ文化ツーリズム賞」
▼主な過去戦績
・神奈川県高校剣道大会団体準優勝
・関東学生剣道新人戦大会ベスト8
・全日本実業団剣道大会ベスト16
|”訪日外国人”という市場の開拓
KENDO PARKをリリースし、徐々にアクセスは増えていたものの、あくまで「特定の剣道家と剣道具メーカー」の役にしか立っていないのでは無いかという課題を感じていました。
そこで、「剣道を知らない人を剣道に引き込む」部分で、ビジネスを生み出せないかと考えました。
そんな折に、テレビを見ている際に「訪日外国人向けに忍者体験が人気」というニュースが目に入ってきました。
知られている通り、2015年頃から訪日外国人(=いわゆるインバウンド需要)が激増しており、それに伴い「NINJA」や「SAMURAI」といったワードが大変人気ということでした。
ふと「剣道にも同じようなものがあるのかな」と感じ、早速調べてみると、不定期で開催された実績はあるものの、体系立って催行している団体はありませんでした。
一方でこの「忍者体験」を調べてみると、「健康で体型の整った男性」をアルバイト募集し、彼らに簡単な研修しただけで「NINJA」として売り出しているようでした。
関連キーワード「SAMURAI」のキーワードでも調べてみると、「居合」「剣舞」「試し斬り」「コスプレ撮影」等、様々なコンテンツがあり、中には本質や歴史背景からかけ離れたものや、全くの未経験者の方が運営しているものも数多くありました。
このような状況を剣道に照らし合わせてみると、全く剣道を知らない人が「これが剣道だ」と言ってしまえば、それが正解になる危険性があるのではと感じました。
そこで2017年に生まれたのが、外国人向け剣道体験ツアー「SAMURAI TRIP」です。
とはいえ、本質は「観光業」であり「インバウンドマーケティング」であるため、それまでと全く違う知識やノウハウが必要でした。
また「ただの流行りモノ」にしないために、全日本剣道連盟やスポーツ庁にもコンテンツの報告に行き、「剣道を正しく広く伝える」ことを重視しました。
結果として、年間約2,000名のゲストにいらして頂けるようになり、第7回スポーツ振興賞では「観光庁長官賞」、スポーツ文化ツーリズムアワード2019では「スポーツ文化ツーリズム賞」を受賞いたしました。
参考記事:徹底解説!【武道ツーリズム最前線|剣道の事例】
|剣道YouTuberの誕生
KENDO PARKのアクセス解析を行うと、「中高年以上の男性」に比較的偏っていました。
これは月刊の剣道雑誌の購読層とかなりの部分をリンクしており、それ以外の顧客層へのリーチが課題でした。
そこで目をつけたのが、YouTubeでした。
2017年末当時は、芸能人の方がYouTubeに探り探り参入し始めた頃で、まだまだ「素人クリエーター」の主戦場のような雰囲気でした。
剣道で検索すると「試合動画」「How to動画」がメインで、特に後者は中途半端な内容が多いように感じていました。
これらを踏まえ、
・確かな剣道のバックグラウンドを持った人
・剣道の形を崩さない
・可能な限りエンタメに振り切る
という形を構想しました。
そこで、剣道漫才コンビとして活動していた「剣道三段五段」の2人に行き着きました。
ちょうどその頃、剣道関連YouTubeアカウントの共同運営のお話もいただき、「剣道三段五段チャンネル」として2018年3月にスタートを切りました。
実際にやってみると、特に編集は本当に大変で、最初の動画は5分の動画を編集するのに10時間以上もかかりました。
さらに芸能人の本格参入等もあり、剣道云々以前にプラットフォーム内での競争も激化していきました。
現在ではチームを編成し、戦略立案、チャンネル運営、編集作業の出演以外の全部分を体系立てて行なっています。
テレビ出演等のお話も頂くようになり、少しずつ認知が広がってきたのを感じています。
今でも試行錯誤の連続ですが、より多くの剣道家の方々にお楽しみ頂けると嬉しいです。
参考記事:【剣道YouTuber&剣道芸人「剣道三段五段」とは?】
|道場のあり方を変える
2020年3月には、世界初の剣道オンラインサロン「剣道イノベーション研究所」を、岡田守正先生(教士八段 @東京都)と共同設立致しました。
本格的に剣道を学びたい「コアな剣道家」向けに、新しい学びの形を提案するサービスです。
元々私は、道場のあり方に課題を感じていました。
例えば、
・段位によって質問や発言をしにくい雰囲気
・情報が無いことによる道場選びの難しさ
・道場間(=先生間)のしがらみ
・指導者のレベルの違い
・地域による稽古環境の選択肢の差
・「社会人初心者」の道場へのハードルの高さ 等々
多かれ少なかれ、上記のような不満を抱えているユーザーは多いと思います。
そこで、従来の一方向の指導スタイルから脱却するとともに、現代のITツールによって、地域に縛られない道場の形を作れないかと考えていました。
そんな時に目にしたのが、流行し始めていた「オンラインサロン」という形です。
オンラインサロンとは、月額会費制によりオンライン上で展開される、会員制コミュニティの総称です。
2016年頃から本格的に登場し始め、オンラインとオフラインを組み合わせながら、サロン会員の間で相互学習や交流等を行うことができます。
堀江貴文氏(実業家)や西野亮廣氏(キングコング)等のサロンが火付け役となり、2019年頃から広く定着し始めていました。
これを剣道に転用できないかと考え、徹底的に勉強致しました。
すぐに構想をまとめ、岡田守正先生に提案いたしました。
岡田先生も、将来の道場のあり方を課題をお持ちでいらっしゃり、オンラインサロンを設立する運びとなりました。
その折に、コロナウイルスの感染拡大が始まり、全国各地で稽古ができなくなっていました。
世間的にもテレワーク等が浸透きてきたこともあり、急遽リリースを前倒して、2020年3月にオンラインサロン「剣道イノベーション研究所」を設立いたしました。
わかりやすく「オンライン道場のようなもの」と言っておりますが、決して「オンライン化」が目的ではありません。
オンラインとオフライン(=実践稽古)を組み合わせながら、「双方向学習」によって、段位やレベルに関わらず剣道観を高めていくことを目的としています。
実際にサロン内のコンテンツも、技術論だけではなく、歴史論や指導論、日本剣道形に至るまで、剣道に関する幅広いテーマを取り扱っています。
結果として、20歳から70歳台まで、また初心者から七段の方まで、男女問わずサロンに入会頂いています。
今後も会員を拡大していき、将来的には「剣道イノベーション研究所」から稽古法発案や剣道具開発、大会企画等、サロン内で自走できるようなフェーズへ引き上げたいと考えています。
参考記事:【剣道オンラインサロン開設の想い】「剣道イノベーション研究所」教士八段 岡田守正
|剣道の経済圏構築への道
剣道は、長らく「お金について語ってはいけない」という価値観が染み付いてきました。
マネタイズから逃げ続けてきた結果、時代の変化と共に各所に歪みが生まれてきています。
今こそ、価値観をアップデートすべき時が来ていると感じています。
一方で、私が描いている目標からすると、まだ5%程度しか実現できていません。
色々なサービスを運営しているものの、「まだ何も成し遂げられていない」「まだ何も役に立てていない」と思い悩む毎日です。
とはいえ、私1人ではできることは限られています。
徐々にですが、取り組みを手伝って頂ける方や、応援いただける方も増えてきました。
多くの剣道家の皆様と一緒に、剣道の新しい価値を生み出す取り組みをしていければ幸いです。