▼チームインタビュー▼
「勝ちたいのその先へ」
〜日本体育大学荏原高校監督 貝塚泰紀〜
全日本学生選手権準優勝の経歴を持ち、現在高校剣道部の指導者である貝塚氏にインタビューを行いました。
「勝つためだけの剣道」ではなく、長期視点に立った選手育成についてお伺い致しました。
(以下 KENDO PARK=KP 貝塚泰紀=貝塚)
-貝塚泰紀(かいづか たいき)-
1995年生 神奈川県出身
獅心館道場で剣道を始め、中学卒業後に鎌倉学園高校(@神奈川県)へ進学。
3年時に選抜出場し、ベスト8に進出および大会優秀選手に選出。
同年インターハイ個人戦にも出場。
高校卒業後、日本体育大学へ進学。
3年時に全日本学生選手権大会準優勝、4年時3位入賞。
4年時には同大学主将を務める。
大学卒業後は、日本体育大学荏原高校(@東京都大田区)へ奉職。
現在、日本体育大学荏原高校剣道部監督。
|非強豪校のメンタリティ
KP:
貝塚先生は、大学時代に輝かしい実績をお持ちでいらっしゃいます。
貝塚:
大学こそ強豪校で剣道を学びましたが、それまでは全くそんなことはありませんでした。
私の母校である鎌倉学園高校は、全国的には全く強豪校ではなく、「全国大会へ行くのが目標」でした。
当時、神奈川県では桐蔭学園が強豪として君臨しており、彼らを倒して何とか神奈川県で優勝することを常に目指していました。
一方で、私には双子の兄弟(貝塚恒紀=鎌倉学園→法政大)がいるのですが、高校まではずっと同じチームで剣道をしていました。
互いに相当な負けず嫌いであったため、そこで切磋琢磨できたことも成長につながったと思います。
結果として、団体戦では選抜に出場し、個人戦ではインターハイに出場して大会優秀選手にも選出いただきました。
KP:
大学は名門の日本体育大学へ進学なさいました。
貝塚:
日体大に進んでからは、まず目線が変わりました。
それまでは「全国大会に出ることが目標」であったのですが、「全国制覇することが目標」に変わりました。
また2学年上に村瀬諒先輩(日体大→日体大桜華中高監督)がいらっしゃり、個人で全国優勝なさったばかりか、チームとしても関東学生優勝大会で優勝を飾り、全国の頂点を極めるような選手が身近にいる環境でした。
私は2年時に団体戦の選手に選んでいただいたのですが、いわゆる「補欠2番手」という立ち位置で、結局試合では起用していただけませんでした。
もちろん悔しい思いが大きかったですが、それ以上に目の前の先輩方の活躍を見て、なんとか追いつき、追い越したいと考えていました。
参考記事:【剣道家が実践すべき2つのポイント】日体大桜華中高監督 村瀬諒
KP:
大学3年時に、全日本学生選手権で準優勝に輝きました。
貝塚:
当時の私は、優勝候補でも何でもなかったのですが、トーナメントの勝ち上がりの中で自分の成長を感じていました。
トーナメントではかなり厳しいブロックに入っていたので、3回戦で宮本選手(国士舘大→警視庁)と対戦したのを皮切りに、持原選手(鹿体大→福岡県警)、梅ヶ谷選手(中央大→富士ゼロックス)と強豪選手との対戦が続きました。
彼らとの試合の中で、「やれる自信」がついていったように思います。
最終的に準優勝という結果でしたが、自分も周囲も驚きの結果でした。
KP:
そこから周囲の見る目も変わったのではないでしょうか?
貝塚:
そこからは、かなり苦しかったですね。
勝つべき選手として認識された反面、それまで「勝たなくてはいけない」と考えていたのが、「負けてはいけない」という思考が湧いてくるようになりました。
一方で、「たまたま勝っただけだろう」という周囲の目を払拭したいという想いもあり、その狭間で思うような剣道ができなくなりました。
当然試合でも勝てなくなり、かなりもどかしかったのを覚えています。
KP:
どのように乗り越えたのですか?
貝塚:
とにかく稽古量では誰にも負けないよう、取り組みました。
4年生になり主将に任命されたのですが、周囲についてきてもらうには、自分が一番稽古するしかないと考えていました。
監督にも「率先垂範」を言われていたこともあり、そこからは誰よりも稽古したと思います。
結果として生まれたことは、「誰よりも稽古したという自信」でした。
4年時の全日本学生選手権では、「会場全てが自分を応援してくれている」という気持ちで臨むことができました。
結果は3位でしたが、自分の中では1年間でメンタル面を大きくアップデートできたと感じた大会でした。
|「勝つためだけの剣道」ではいけない
KP:
現在は日体大荏原高校(@東京都大田区)にて、高校生の指導にあたっていらっしゃいます。
貝塚:
もともと教員志望であったのですが、その折に日体大荏原高校から声をかけていただき、こちらで指導を行うようになりました。
指導においては、大学で主将をやっていた経験が活きていると思います。
もともと前に立つようなタイプではないのですが、大学時代には人前で話すことも多かったので、話すことに多少慣れていたのはよかったと思います。
KP:
指導の中で、大切にしていることを教えてください。
貝塚:
「勝つためだけの剣道はさせない」といいうことです。
こちらで指導するようになってから、高校生と稽古するようになったのですが、いつも通りやっているはずなのに以前より「噛み合わない」ことが多くなりました。
また最近では、高段位の先生方がおっしゃることも、少しずつわかるようになってきました。
これは、知らず知らずのうちに自分の剣道がアップデートされたからだと思います。
それと同時に、単に「今勝つだけの剣道」ではなく、将来を見据えたしっかりとした剣道を伝えなければならないと感じています。
KP:
具体的に教えてください。
貝塚:
「しっかりとした構えを作ること」をしつこく指導しています。
具体的には、
・半身にならない
・竹刀を上から握る
・自分の体の自然な位置に腕を下ろして構える
の3点です。
構えの時点で半身な子も多いですが、この場合基本的には、打つことばかりに意識がいっていることが多いです。
私は、構えにおいては左手、左腰、左足が体の軸となると考えているので、そこは注意しています。
「竹刀を上から握る」ということは一般的よく知られていることですが、本質的に理解することも大切です。
上から竹刀を握ることで、脇が締まりますので、理論上はそのまま前に出れば強い打突ができます。
構えたまま剣先を壁につけて、潰れてしまうようでは正しい構えとは言えません。
普段私は、構えの確認作業として、以下を行なっています。
1. 両腕を頭の上に上げる
2. 竹刀を握るように右手を前、左手を後ろに置きがら、そのまま腕を下ろす
3. 自然に腕を下ろして、それ以上下りないところに手を置く
これにより、自分の体にとって常に自然な位置に手と腕があるように意識しています。
このような軸があることで、仮に不調に陥ったとしても原点に戻ることができます。
人体として不自然な構えにならないよう、学生には繰り返し指導しています。
KP:
学生とのコミュニケーション面はいかがですか?
貝塚:
今の学生全般に言えることですが、優しい性格の子が多いので、怒られて萎縮してしまわないよう、なるべく学生に近い形でコミュニケーションを取るようにしています。
自分自身、元来小柄であったこともあり、常に「どうやって体の大きい相手を打ち崩すか」を考えてきました。
そのために、先生のみならず先輩、同期、後輩に至るまで、必要であればとにかく「人に聞く」ことで技術を磨いてきました。
彼らにも「人に聞いて学ぶ」ことを実践して欲しいので、なるべく聞きやすい関係性を構築できるよう、意識しています。
KP:
指導の中で難しいと感じることは何でしょうか?
貝塚:
指導者としては駆け出しですので、課題はたくさんありますが、男女の差異には少し戸惑いました。
男子は、比較的短時間に一気に力を発揮する傾向にあるので、短時間で負荷をかけていくことで鍛錬することができます。
一方で女子に比べて、パフォーマンスに持久性がないことが顕著です。
女子はパフォーマンスが比較的安定していて、持久性が高い一方、ある程度稽古をこなせてしまうので、男子よりも粘り強く指導する必要があります。
日体大荏原では稽古時間が2~3時間程度と、決して長くはなく、さらに男女一緒に稽古をしているので、その中で男女差異を踏まえながら指導することの難しさを感じています。
KP:
学生に求めることは何ですか?
貝塚:
どんな相手とやっても、「自分の方が稽古してきた」という自信をつけて欲しいと思います。
私の経験からも、強豪校とやるときはどうしても「名前負け」をしてしまいます。
それに対し、稽古することで自信をつけ、最終的には乗り越えることができました。
彼らにもそのような体験をしてもらえれば、非常に嬉しいです。
|未来の高校生に向けて
KP:
最後に、高校剣道を目指している小中学生たちにメッセージをお願いします。
貝塚:
日体大荏原高校では、まずは「東京都制覇」を目指し、日々稽古に取り組んでいます。
一方で、単に「勝つためだけの剣道」ではなく、将来的目線と剣道理念に則った指導を行なっています。
もし少しでも興味をお持ちでしたら、是非一度稽古にいらしてください。
皆さんのチャレンジを心からお待ちしております。
<取材・文 永松謙使>