胴打ちは、剣道の中でも基本とされている面、小手、胴のうちの一つです。
面や小手に比べ少し難易度は上がりますが、剣道の試合や稽古などでは必要不可欠な技なので、しっかりとマスターしましょう。
|胴打ちの基本的な考え方
胴打ちは、面、小手に比べると大胆な技です。
打つ時に自分にできる隙が大きいので、打つ機会をしっかりと見極めなければいけません。
また、胴打ちの時に重要なのは、「正しい刃筋と十分な打突力」です。
胴を打つ際に弦(つる)が回っていたり、十分な打突力がなく音が鳴らないと一本になりません。
胴打ちでは「機会」「刃筋」「打突力」の3つを意識して稽古しましょう。
|胴打ちの基本
まず、胴打ちの基礎的部分について説明していきます。
相手と構え合った状態から、右斜め前の相手の左足の方に右足を出しながら自分の左拳が額かそれよりも少し上にくるぐらいしっかりと振りかぶります。
この時の剣先は床と天井を垂直に考えた時の45度になるようにします。
そこから、左足を引き付ける時に相手の左胴をめがけてこれも斜め45度の角度で打ち下ろします。
この時、刃筋も斜め45度になるように注意します。
ここで気を付けなければならないのは、相手の胴に対して水平に打ってしまわないようにすることです。
水平に打ってしまうと手首がきかず、強い打突をすることができません。
胴を外してしまうという方は、打つ瞬間に相手の胴を見るようにすると精度が上がります。
しかし、打つ前から胴を見ていると相手に気づかれてしまうので、見るのは打つ瞬間だけにしましょう。
次に胴を打たせる時の打たせ方ですが、打つ人と同じように振りかぶり、自分の胴を空けて打たせます。
この時、外されるのを怖がって脇をしめてしまったり、体を動かしてしまわないようにしましょう。逆に相手が打ちづらくなってしまい、外れる可能性が高くなります。
|胴を打つ場面
先ほど、胴を打つ際は「機会」が大切だと述べました。
では、稽古や試合で胴を打つ機会はどのような場面なのかについて説明していきます。
胴打ちの機会の基本的な考え方は「相手が面を避けたところ」と「相手が面を打ってきたところ」の二つでOKです。
まず前者の機会ですが、飛び込み胴や小手胴がこの機会に出す胴技に当てはまります。
飛び込み胴は相手に対して「面に行くぞ」という気持ちで攻め、相手に面を避けさせたところを胴に打ち込みます。
小手胴は、小手を打つことで相手に面にわたってくると思わせ、面を避けるところを胴に変わります。
どちらも非常に有効な技ですが、一本にならなかった場合は後打ちを打たれてしまう危険性が高いので注意しましょう。
後者の機会は応用的なものになるので、次の章で紹介します
|応用技
返し胴
返し胴は、先ほど紹介した後者の「相手が面を打ってきたところ」の機会です。相手が面を打ってきたところをすかさず竹刀で避け、胴に返して打ちます。返し胴の際は、自分の面を避けるという動作が振りかぶりになります。
そのため、面を避ける時に右足を右斜め前に出しておくことで打ちやすくなります。返し胴を打つ時に気を付けるポイントは、「面の避け方」「胴に返すスピード」「相手より先に仕掛けること」の3つです。
まず面の避け方ですが、水平に面を避けてしまうと避けてから胴に返すまで時間がかかってしまい、避けが甘すぎると面を打たれてしまいます。
また、面を避ける時に竹刀を自分の面に近づけてすぎてしまっても、上から面を打たれてしまいます。
斜めに、手を前に出して避けることを意識しましょう。
次に胴に返すスピードです。ここが遅いと相手に胴を打ってくることを気づかれ、手を下げられて胴を避けられてしまいます。
よく返し胴の教えで言われる言葉に、「避けてから打つのではなく避けながら打つ」という言葉があります。
「避ける」「打つ」の動作を分けて考えるのではなく、「避けながら打つ」という一連の動作だとイメージすることで、避けてから返すまでが無駄のないスムーズな動きになります。
最後に相手より先に仕掛けることです。
これは返し胴に限らず全ての応じ技に通じるキーワードです。
相手が面にくるのを待って、面に来たところを返してやろうという気持ちでいると、気後れして動作が遅れ、逆に打たれてしまったり、相手に返し胴を狙っていることを気づかれ、面を打ってこなくなる、または避けることを見透かされ小手を打たれてしまったりします。
先に仕掛けることをもう少し嚙み砕いて説明すると、「相手に面を打たせる」ということです。剣道ではこれを「引き出す」や「誘う」ともいいます。
相手に対してこちらから仕掛けることで、相手に出頭の面を打たせるイメージです。
そうすることで、気後れすることなく良い機会で返し胴を打つことができます。
返し胴の稽古では、この3点を主に意識しましょう。
抜き胴
抜き胴は、返し胴と同じく相手の面に対しての応じ技です。
最も違うのは、胴を打つ前に面を避けないということです。
そのため、返し胴よりも早く胴を打つことができますが、相手が面に出てくる機会をより確実に見極めなければならないため、返し胴よりも難易度が高いです。
また、返し胴は機会を間違えても面を避ける動作で止まれますが、抜き胴は機会を間違えても胴に行くまで止まれないので、隙ができて打たれてしまうリスクが高いです。
そのため、最近の試合ではあまり見られない技でもあります。
抜き胴を打つ時に特に意識しなければならないのは、途中まで面を打つかのように思わせることです。
そうすることで相手が面に合わせてきやすくなり、抜き胴が決まります。
引き胴
引き胴は、鍔迫り合いからの引き技で打つ胴です。
後打ちを打たれるリスクは高いですが、そのインパクトからよく旗が上がります。
最近は引き面をしっかり(水平以上)と避ける選手が多いので、引き胴が打てることで相手が警戒して面の避けが甘くなります。
そのため、引き胴は見せ技としても有効です。
引き胴も基本的には前に出て打つ胴打ちと同じく、大きく上まで振りかぶって打ちます。ただ、引き胴は鍔迫り合いから打つ技なので、足は動かさずその場で打つか、半歩ほど引いて間合いを作って打ちます。
実際の試合では素直に引き胴を打つことはほとんどありません。
様々な種類の引き胴がありますが、最もよく見られる引き胴は押して引き胴や崩して引き胴です。
押して引き胴は相手を鍔迫り合いから押して、相手が面を避けるところに引きながら胴を打ちます。
崩して引き胴は表(相手の竹刀を中心に右側)と裏(相手の竹刀を中心に左側)がありますが、表から崩す引き胴が主流です。
相手の首元の上から斜めに押すように崩して打ちます。
この時、竹刀で崩そうとするのではなく、自分の拳からつば元までを使って崩すと、力が伝わって相手が崩れます。
また、相手の首から下の重心を崩すことを意識するのがポイントです。
首のみを崩そうとしても相手は崩れず、首狩りとなって大変危険ですので、絶対にやめましょう。
引き胴を打つ時に特に大事なのは引くスピードと打ちの強さです。
引き胴はスピードが遅いと後打ちを打たれてしまうし、打ちが強くなければ音が鳴らないので一本になりません。
引き技でも胴は非常に有効なので、打てるようになると稽古や試合の時に有利に進められます。
逆胴
逆胴は、ここまで紹介した胴打ちの機会とは少し違います。
試合では「三所隠し」と言われる面、小手、左胴の三つの打突部位を防ぐ避け方が目立っています。
そうした相手に対しては逆胴、つまり相手の右胴が有効です。
逆胴の打ち方は様々ありますが、主に途中まで真っすぐ振りかぶり、そこから剣先が弧を描くように胴を打つ打ち方と、ダイナミックに自分の竹刀を右肩に担ぐように振りかぶり、そのまま振り抜く打ち方の2種類がよく見られます。
さらに、逆胴は打った後に隙ができるため打ち終わりの体の捌きが重要になります。
これも主に2種類あり、打った後にそのまま相手に体を寄せる捌き方と、打った後に素早く引いて間合いをとる捌き方があります。
逆胴には様々な打ち方、捌き方があるので、色々試して自分に合ったものを見つけるとよいでしょう。
また、逆胴には応じ技の抜き逆胴、引き技の引き逆胴もあります。
少し難易度が高いので詳しくは割愛しますが、これらが打てると技のバリエーションも増えて様々な相手に対応できるようになります。
|胴は剣道の「醍醐味」
胴は相手が頭を避けたところ、相手が自分を打ってくるところにすかさず腹を切るように打つ、いわば剣道の「醍醐味」です。
胴打ちをマスターして、稽古や試合で切れ味抜群の一本を打てるようになりましょう。