全剣連完全監修!【竹刀・剣道具(防具)の規定ルール改正を徹底解説】全日本剣道連盟 藤原崇郎

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2019年4月1日より「試合・審判規則」が一部改正され、竹刀や剣道具(防具)のルール規定が改正となりました。
本記事では、全日本剣道連盟常任理事でいらっしゃる藤原崇郎氏(範士八段)のインタビューも交えながら、新ルールについてわかりやすく解説いたします。

|はじめに

「剣道用具に関してのルール改正があったらしい」ということを、ご存知の方も多いかもしれません。

2019年4月1日より、「全日本剣道連盟剣道試合・審判規則」が改正され、公式戦での使用用具に関して規則の変更と注意事項の明文化がなされました。
試合・審判規則は、あくまで「公式戦」における規定ですので、現段階では普段の稽古までの拘束力はありませんが、剣道界全体の方向性を示した形となりますので、今後これに沿った形での用具提供となっていくでしょう。

本件に関しては、メーカー側だけでなくユーザー側の意識や知識レベルの向上も必要となります。
安全かつ公平に剣道を楽しむためにも、しっかりと内容を理解しましょう。

※以下、全日本剣道連盟常任理事藤原範士へのインタビューを交えて、解説していきます。
(KENDO PARK=KP    藤原崇郎=藤原)


-藤原崇郎-
1946年生 長崎県出身
五島高校(@長崎県五島市)から国士舘大学へ進学。
4年時に全日本学生優勝大会優勝、全日本学生選手権準優勝。
第2回世界剣道選手権(1973年@アメリカ)にて、日本代表として団体優勝。
第15回世界剣道選手権(2012年@イタリア)年にて、日本代表監督を務める。
全日本剣道連盟常任理事、および試合・審判委員会委員長。
剣道範士八段。


今回インタビューにお答えいただいた、全日本剣道連盟常任理事 藤原崇郎範士。
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|改正までの経緯

KP:
規則改正に至るまでの経緯を教えてください。


藤原:
2017年に全日本剣道連盟の試合・審判委員会委員長に就任したのですが、その際に引き継ぎ懸念事項として、いわゆる「スーパーバランス竹刀」の存在がありました。

スーパーバランス竹刀とは、過度に先端を細くし、手元部分に大幅に重心を置いた竹刀です。竹刀規定に対しては、付属品(先革等)によって公式戦規格をクリアしており、2014年前後から散見されるようになりました。さらに、大会中に破損する竹刀も多くみられるようになりました。

そして、同時期に剣道具(防具)においても、過度に面垂や小手筒が短いものや、布団が薄く軽量なものが流行し始めていました。

このまま行くと、剣道用具の安全性および公平性が損なわれていく可能性があることから、竹刀と剣道具(防具)を併せて、専門の研究委員会を設置することとなりました。

当初、試合・審判委員会の管轄において進める予定でしたが、公式戦のみならず医学、科学的見地も必要であったことから、医・科学委員会や総務委員会等から人員を厳選し、「竹刀及び剣道具安全性検討特別小委員会」を新設したのです。

全日本剣道連盟公式HPにて、改正事項を大きく掲載。
画像出典:全日本剣道連盟
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|竹刀についての改正

竹刀に関しては、全体の形状や形状加工(=削り)について明文化がされたことと、いわゆる「ちくとう」の先端測定についての規格が制定されました。

これにより、竹刀検量の手法にも変更がなされました。

※ちくとう:契り(竹を組み合わせる金属片)等によって組み合わされた状態の4枚のピースをいう。竹刀における付属品を除いた、いわゆる「竹のみ」のこと。
※対辺直径:竹刀の4ピースを組み合わせた両辺同士の直径のこと。
※対角直径:竹刀の4ピースを組み合わせた対角同士の直径のこと。

対辺直径と対角直径
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改正条項

細則 第2条 規則第3条(竹刀)は、次のとおりとする。

1. 竹刀の構造は四つ割りのものとし、中に異物(先革内部の芯、柄頭のちぎり以外のもの)を入れてはならない。ピース(四つ割りの竹)の合わせに大きな隙間のあるものや安全性を著しく損なう加工、形状変更をしたものを使用してはならない。各部の名称は第2図のとおりとする。

2.竹刀の基準は、表1および表2のとおりとする。ただし、長さは付属品を含む全長であり、重さはつば(鍔)を含まない。太さは先革先端部最小直径(対辺直径)およびちくとう部直径(竹刀先端より8.0センチメートルのちくとう対角最小直径)とする。また、竹刀は先端部をちくとうの最も細い部分とし、先端から物打に向かってちくとうが太くなるものとする。

全日本剣道連盟「剣道試合・審判規則の改正について」
画像出典:全日本剣道連盟「剣道試合・審判規則の改正について」
画像出典:全日本剣道連盟「剣道試合・審判規則の改正について」
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解説

KP:
竹刀規定の改正について教えてください。


藤原:
最大の変更は、「ちくとう」先端部の計測で、これまでなかった竹そのものの検査を目視を含めて明文化したこととなります。
従来は、先革を含めた対辺直径値と先革の長さのみの計測でしたが、これに加え「ちくとう」部の対角直径値を計測するのです。


これは、従来の計測では、先端の太さを満たしていれば検量を通過しておりましたが、先端以外の部分を過度に削っていたり、4枚の竹のピースの組み合わせが悪く隙間が生まれているものが散見されたためです。

しかし、完成品竹刀を検量の都度バラして検査することは不可能なため、今回の改正においては、「竹刀先端より8cmの位置」を計測位置として取り決めました。

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KP:
数値の根拠を教えてください。


藤原:
そもそもは、物見貫入防止のためにちくとう先端直径値が22mm(男子高校生・一般)という「規格」があります。
例えば、規則における先革の太さの根拠もここにあるのです。
今回は、この規格をちくとうの対角直径値にも適用したものです。

そして、実証実験として、2018年の女子都道府県大会、全日本女子選手権、全日本選手権の3大会において、「竹刀先端から6.5cm部の対角直径22mm以上(女子は21mm)」という規定で竹刀検量を行いました。

結果としては、上記各大会では竹刀の破損や交換、竹刀トラブルによる中断は1件も無かった一方、20~30%の竹刀が検査で不合格となりました。
緊急対応として、大会現地で竹刀販売を行なったり、地元剣道連盟経由で竹刀の貸与を行いました。

そのままの規定だと、新品の竹刀においても相当数の不合格品が出る上、規格を厳守しようとするとメーカーの製造ラインも大幅な変更が必要なことから、メーカー側とユーザー側双方のバランスが取れた数値設定が必要で、今回の規定となりました。

ただ、この直径値については暫定値として、連盟として検証を引き続き行うこととしております。


KP:
最終的に、「先端から8cm部の対角直径」にて計測となりました。
その経緯を教えてください。


藤原:
先端から6.5cm部での竹刀検量を行なった結果、数値以上にオペレーション上の課題がありました。
例えば、6.5cmの位置には弦の結び目が来ることがあり、計測の邪魔となるケースが主たるものです。

そこで、ほぼ同等の測定効果を維持できる位置として、「先端から8cm」という位置を策定致しました。

科学的裏付けを行うため、全日本武道具協同組合より、2018年12月時点で流通・製造している約1000本の竹刀の直径値測定データの提供を受け、統計分析を行いました。
これにより、「先端から6.5cm」の計測位置を「先端から8cm」に変更しても、ほぼ同等の検査効果が得られることを確認いたしました。

これらのデータについては、全日本武道具協同組合とも共有し、メーカー側でも当基準で全面協力をいただき、竹刀製造を行なっていただくことを確認しております。

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出典: (一財)全日本剣道連盟 竹刀及び剣道具安全性検討特別小委員会資料

考察:

大会では竹刀の破損や交換、竹刀トラブルによる中断は1件も無かった一方で、「竹刀先端から6.5cm部の対角直径22mm以上」の規定では、最大で30%弱の竹刀が検査不合格となった。

出典: (一財)全日本剣道連盟 竹刀及び剣道具安全性検討特別小委員会資料

考察:

「ちくとう」(=竹のみ)における先端から6.5cmの位置と8cmの位置では、対辺直径値と対角直径値にそれぞれ正の相関関係(=6.5cmと8cm同士、対辺と対角同士で太くなれば太くなる、細くなると細くなるという関係性)がある。

一方で、先端の対辺直径値とそれぞれの対角直径値と比較すると相関関係が極端に弱くなる(=先端対辺直径値と、6.5cmや8cmの位置の対角直径値において、太くなるとと太くなるという関係性がとても弱いということ)。

これはつまり、これまでの試合での竹刀検査にはとおるものの、先端から物打ちにかけて、先を軽くするための極端な削り込みが行われている可能性を示している。

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今後の課題

今回の改正によって、竹刀の安全性について一定の効果を発揮するとは考えられますが、まだ課題も残っていると藤原先生に回答いただきました。

全日本剣道連盟ではこの竹刀の直径値などによる安全性については、引き続き検討課題として検証していくとのことです。

以下、竹刀に関する今後の課題をKENDO PARKが考察致しました。

課題 1)製造現場の監督

現在、竹刀の90%は海外(インドネシア、中国等)で製造されています。
製造段階で検査条項や数値を共有していれば、不正竹刀の流通は防げますが、海外に工場があるため監督できる人員がいないのが実情です。
その中で、いかにメーカー側と協力体制を築くかが課題となります。

課題 2)植物特性への対応

竹刀の原料は、言うまでもなく竹です。
竹は植物ですので、気候や環境によって検量数値が変わる可能性が多分にあります。
それに対し、メーカー側が統一規格を遵守して継続的に竹刀製造できるかは大きな課題です。

※参考記事:【世界最大の竹刀工場を歩く】宏達(信武商事)

課題 3)立面削りの測定

国産真竹の竹刀や手削り竹刀等の良質な竹刀においては、竹材料自体の密度が高く肉厚なため、通常よりも「細く厚く」削った立面削りのものが多く存在まします。
この場合、対辺の凹凸が大きい分、対角直径が小さくなる可能性があります。
一方で竹刀自体の安全性に関しては、安価なものよりも耐久性が高いと考えられます。
しかし結果としては、そういった竹刀が検量不合格となる可能性があります。

課題 4)過去データとの比較

今回の取り組みで、初めて竹刀の詳細データを取り始めたため、本改正により過去からどのような変化があったかを検証することができません。
過去データがない中で、「本当に安全性が高まったのか」をいかに立証していくかを熟考する必要があります。

立面削りは、対辺が立体的で対角が小さくなる。
※写真は山口吉昭竹刀製作所製「比叡」。
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|剣道具(防具)についての改正

昨今、ユーザーからのニーズもあり、「軽くて布団が短い」剣道具(防具)が大変人気です。
剣道具(防具)はスポーツギアでもあるので、その流れは一定の理解はできるものの、本来の目的である「自分の体を打突から守る」ことから逸脱した製品も見られるようになりました。

今回の改正では、メーカー側の自浄作用を促すため、明確な数値規定は行わずに「目安目標」のみ提示する形でのリリースとなりました。

改正条項

細則 第3条 規則第4条(剣道具)は、第3図のとおりとする。
面部のポリカーボーネート積層板装着面は、全日本剣道連盟が認めたものとする。
面ぶとんは、肩関節を保護する長さがあり、十分な打突の衝撃緩衝能力があるものとする。
小手は、前腕(肘から手首の最長部)の2分の1以上を保護し、小手頭部および小手ぶとん部は十分な打突の衝撃緩衝能力があるものとする。
小手ぶとん部のえぐり(クリ)の深さについては、小手ぶとん最長部と最短部の長さの差が2.5センチメートル以内とする。
細則 第3条の2 剣道着の袖は、肘関節を保護する長さを確保したものとする。
細則 第15条 規則第17条第1号の不正用具とは、規則第3条に規定する竹刀(細則第2条で定める規格を満たしているものに限る)および同第4条に規定する剣道具(第3図に図示する面、小手、胴、垂)以外のものをいう。なお、細則第3条第2号から第4号および同第3条の2の基準に合致しない剣道具または剣道着は不正用具としない。この場合、試合終了後に審判員から注意を与える。

全日本剣道連盟「剣道試合・審判規則の改正について」
画像出典:全日本剣道連盟「剣道試合・審判規則の改正について」
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解説

KP:
剣道具(防具)規定の改正についても教えてください。


藤原:
身体の可動性を重視するあまり面垂が極端に短いものや、打突部位を小さくすることを目的に小手布団部(=小手筒)が短いものが見られるようになりました。

剣道具業界においても、かねてから懸念事項として協議されておりましたが、ユーザー側が「軽くて短い」ものに慣れてしまっていることや、一部業者が業界の規格などの総意を無視して用具製造を行なっているケースがありました。

そこで、メーカー側のみならず使用するユーザー側にも、明確なメッセージを出す必要があると考え、今回の条項改正となりました。

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KP:
具体的なところを教えてください。


藤原:
具体的には、面布団による肩関節、小手の頭や布団によるこぶし及び前腕部、剣道着の袖による肘関節を保護する機能を高め、安全性を担保することと、試合における公平性を担保することが目的です。

一方で、体格や骨格には個人差があるため、画一的な数値規定は大変難しいのが実情です。
そこで、面垂に関しては「肩関節を守る長さ」とし、小手部は「前腕の1/2以上を保護する長さ」といたしました。
道衣の袖部に関しても、「肘関節を保護する長さ」と目安を取り決めました。

また手首の可動性を高めるため、小手の「えぐり」(=小手布団の表側に対し、裏側が短い形状のこと)がとても大きい製品も流通しています。
これに対し、「小手ぶとん最長部と最短部の長さの差が2.5cm以内」と数値規定を示し、公平性を担保をしました。

ただ、これらの用具規定は「あくまで目安」とし、公式戦では審判員の目視による確認としております。
これは、竹刀と違って試合当日に代替用具を用意することが困難であり、また体格によって適正サイズも異なるため、「不正用具」としての認定はしないことといたしました。(=試合には出場できる)
該当用具を着用している場合は、試合後に審判員から注意を与えるように取り決めました。

これらの規定は、あくまでコンセプトを理解いただいた上で、「メーカーとユーザー双方の自浄作用」を見込んでの改正となっております。
依然としてモラルハザードが起こる場合は、罰則規定等の望まない協議を行わざるを得ない可能性もあります。

私たちとしては、連盟とともに、メーカー、ユーザーの剣道界全体が一体となって用具の安全性と公平性に意識を向けていただければ幸いです。

今回の改正は、「試合・審判規則」の内容が中心。
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今後の課題

以下、剣道具(防具)に関する今後の課題をKENDO PARKが考察致しました。

課題 1)自浄作用効果の懸念

剣道具(防具)については、ユーザーとメーカーの自浄作用によって安全性を担保する方向となりました。
つまりは各人の裁量と意識に頼る形式ですので、仮に自浄作用が働かない場合や海外スポーツメーカー等が参入した場合に、どこまで拘束力を発揮できるかが課題です。

課題 2)製造現場との連携

現在流通している剣道具(防具)の90%は、海外性といわれています。(中国、韓国、フィリピン、ベトナム、ラオス等)
仮に明確な規定を設けるとしても、竹刀以上に部品や工程が多い上、世界各国に工場が散らばっているため、連携が難しいのが実情です。

メーカー側との連携は不可欠。
※写真は世界最大の竹刀製造メーカー「宏逹」の工場内部。
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|剣道具の未来を考える

KP:
最後に、この記事を見る剣道家達にメッセージをお願いします。


藤原:
今回、用具に関して様々な規定やオピニオンをリリース致しましたが、個人的にも全日本剣道連盟の総意としても、「武道精神を重視し、規定から離れたところで、試合を行いたい」というところは変わっておりません。

参考:剣道用具に関する試合審判規則等の改正についての委員会声明

改正事項に関しても、「全日本剣道連盟試合・審判規則」をメインとしており、あくまで試合の公平性を担保するためのものです。

その証拠に、現段階では稽古での使用用具には規定を設けておりませんし、罰則規定もありません。

このように全日本剣道連盟としては、あくまで「剣道の理念」を重視し、明文化によるルール規定は本望ではございません。
その中で剣道が公平かつ公正に発展していくためにも、剣道を嗜む皆様には、技の修練のみならず用具への理解も深めていただきたいと考えております。

私どもとしても、引き続き用具の安全性と公平性に関する研究と検証は行なってまいります。
是非とも一緒に、剣道の未来を作っていきましょう。

剣道の理念
剣道は剣の理法の修錬による
人間形成の道である


剣道修錬の心構え
剣道を正しく真剣に学び
心身を錬磨して旺盛なる気力を養い
剣道の特性を通じて礼節をとうとび
信義を重んじ誠を尽して
常に自己の修養に努め
以って国家社会を愛して
広く人類の平和繁栄に
寄与せんとするものである


昭和50年3月20日制定 全日本剣道連盟

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