▼武道具店インタビュー▼
「世界最大の竹刀工場を歩く」
〜宏達(信武商事)〜
※後半に林信宏社長のインタビューを掲載しております。
台湾の竹刀製造企業「宏達竹剣股份有限公司」が所有する、世界最大の竹刀工場(@インドネシア)に訪問いたしました。
その内部をご紹介いたします。
少しでも竹刀に対する理解が深まっていただければ、幸いです。
宏達竹剣股份有限公司(HON DAR BAMBOO SWORDS CO, LTD.)
1966年創業。
工場ラインは、ISO(国際標準化機構)による品質マネジメントシステム「ISO 9001」認証取得。
製造竹刀は、一般財団法人製品安全協会制定の「SGマーク」取得。
現在世界最大の竹刀生産企業にして、世界最大の竹刀販売シェアを誇る。
(2017年12月現在)
インドネシア工場は2013年より生産開始。
|規格認証は高品質の証
1) ISO認証
工場のゲートを入ると、7.5万平米もの広大な敷地が見えてくる。
比較的新しい工場だけあり、白い工場建屋が美しい。
ここでは約400人もの従業員が、日々竹刀作り(一部剣道衣類等を製造)に励んでいる。
そのほとんどが現地雇用とのこと。
生産ラインごとにチームに分かれており、各チームには統括役のリーダーがいる。
リーダーの中には、中国蘇州工場から移ってきた方もいらっしゃるそう。
大所帯ながら、全ての工程の生産データが事細かに記録されており、「どの工程で誰がどれだけ担当したか」が全て一瞬にしてわかるようになっている。
これにより、生産ラインでのトラブルや担当者ベースでの品質のばらつきを未然に防いでいる。
この生産管理システムが認められ、当生産ラインはISO(国際標準化機構)による品質マネジメントシステム「ISO 9001」の認証を取得している。
※ISO 9001とは?
ISO 9001は品質マネジメントシステムに関する国際規格です。
最も普及しているマネジメントシステム規格であり、全世界で170ヵ国以上、100万以上の組織が利用しています。
出典:一般財団法人 日本品質保証機構(略称 JQA)公式HP
2) SG規格
竹刀の側面によく貼ってある「SGマーク」シール。
これは世界でも宏達の工場が製造した竹刀のみに、認証が認められている。
このシールを貼るために、宏達では最終製品までに最低でも7回の検査を行っている。
検査項目1 「材料検査」
特殊な恒温、恒湿機を使用し、無作為に竹材料の変形テストを行う。
あわせて恒温槽、断力機を使用し、せん断応力を検査する。
検査項目2 「仕分け検査」
宏達では、竹業者から入ってきた竹素材を、全てそのまま検品にかける。
竹の外側に傷や斑などがあるかをチェックするほか、「この竹はどの長さに向いているか」「どのタイプに向いているか」を仕分ける。
全て目視で行うが、年間で竹部品を数百万本扱うため、作業にはとてつもない労力と集中力が必要である。
検査項目3 「矯め検査」
竹をまっすぐに伸ばす「矯め(ため)」の作業時に、竹表面の傷や割れ等をチェックし、少しでも基準に合わないものは製造ラインから外して廃棄する。
検査項目4 「半製品検査」
半製品の状態で、2度にわたり内側にヒビがあるか、竹の色、寸法、幅などを確認する。
検査事項は全て記録し、担当者のIDと承認印鑑を押印する。
検査項目5 「製品検査」
4本の竹を完全に組み合わせた状態で、再度外側と内側の破損やヒビを検査する。
また柄の太さや巻きつけた糸の緩み等、製品としての全体的なチェックを行う。
検査項目6 「強度検査」 (宏達オリジナル)
宏達オリジナルの圧縮検査機を用い、無作為で剣先と刀身の圧縮検査を行う。
これにより製品品質における、竹刀強度を担保している。
この “強度”という面は、SG規格において大変重要な要素である。
検査項目7 「革検査」(完成品向け)
製作した先革や柄革等は、専用の機材で伸縮率と厚みを計測して検品を行う。
検査項目8 「仕組み検査」(完成品向け)
仕組んだ竹刀は、弦の緩みや中結いの位置等、製品として適切な組み立てがされているか検査する。
※SGマークとは?
SGマークは、1973年10月にその年に施行された「消費生活用製品安全法」に基づき通商産業省の特別認可法人として設立された製品安全協会が、安全を保証するマークとして産み出したものです。
3) 圧倒的な生産力
インドネシアのジャワ島中央上部に位置する、スマランという都市に工場は存在する。
スマランは人口2億人以上を誇るインドネシアにおいて、5大都市に数えられる地方都市という位置付けとのこと。
特徴はその圧倒的な規模と生産力である。これは他の追随を許さない。
- 敷地面積7.5万平方メートル(東京ドームシティ総面積の1.6倍)
- 400名以上の従業員
- 年間100万本近くを生産
- 在庫は常時約250万本を保有
- 年間1500~1600トンもの竹材料を仕入れ(台湾宏達)
生産規模も巨大であるが、その恩恵に一番預かっているのが紛れもなく日本のユーザーである。
- 生産竹刀全体の約85%を日本へ出荷
- 日本における竹刀消費量の過半数のシェアを占める(日本の年間竹刀使用量は約140万本)
- 日本も含め、世界16カ国に出荷
※いずれも2016年度末データ
以下に長きにわたって竹刀生産に携わる、林信宏社長へのインタビューを掲載いたします。
(以下 KENDO PARK=KP 林信宏社長=林)
|林社長1問1答インタビュー
KP:
宏達設立の経緯を教えてください。
林:
宏達は創業から50年を迎えます。
父が剣道範士の三浦先生から剣道を教わったことがきっかけで、竹刀製作に携わるようになりました。
それまで機械化や大規模化がなされていなかったので、それを機械化しようとしたのが始まりです。
KP:
インドネシア工場設立の経緯を教えてください。
林:
もともと中国蘇州で竹刀生産を行っていたのですが、生産コスト上昇や拡大余地が限られてきていたため移転先を探していました。
ベトナムやミャンマー等にも視察に行きましたが、なかなか条件に合う土地が見つかりませんでした。
そんな折に知り合いの紹介で、ここインドネシアのスマランの土地を購入できることとなりこちらに移転いたしました。
まだまだ工場を拡大できる余地があるので、竹刀以外の剣道具生産も始めています。
KP:
ものすごく厳しい検査基準で、竹刀製造を行っていらっしゃいまね。
林:
とにかく品質には自信を持っています。
やはり相手の体部位を“叩く”ものなので、通常のスポーツギアよりも安全性に気をつけて当然だと思います。
そのために製造竹刀はSGマークの認証を取得していますし、商品だけではなく生産ラインも整備してISO9001認証も取得しています。
特に後者は、生産過程をSOP(標準作業手続き)によって細かく記録する必要がありますし、その分労務管理も複雑になりますのでかなりコストはかけていると思います。
KP:
検査基準が厳しい分、廃材の量も物凄いですね。
林:
そもそも竹刀は、切り出した竹のうち先端50%程度しか使用しません。
それは竹刀の規格として含まれる節の数が決まっており、竹の中心部は節の間隔が大きすぎるためです。
そこから7~9回の検査を通っていきますので、最終的には仕入れた竹材の約50%は生産ラインから外れているイメージでしょうか。
ラインから外れた竹材は、細く加工して竹細工製品向けに出荷しています。
KP:
竹材の材質について教えてください。
林:
宏達では、製品のほとんどを台湾産桂竹で賄っています。
一部の高級品には、日本産の真竹を使用しています。
いろいろと試しましが、竹は地域の気候に大きく左右されるため、現在は台湾桂竹が一番丈夫だと思います。
日本の真竹も肉厚で丈夫ですが、温暖化の影響か最近では台湾桂竹のほうが強度は高いように思います。
逆に中国産の竹は、地域の気候の関係もあって脆い物が多いです。
その分価格も安いですが、竹刀への使用には向かない物が多いのでほとんど使用していません。
※台湾桂竹は台湾北部の中央山脈産が多い。
※中国産の竹には、石膏竹・孟宗竹・寿竹という種類の物が含まれる。
KP:
製造ラインはどのように構築なさったのですか?
林:
実は工場にある機械のほとんどは、私が設計いたしました。
宏達の最大の強みはそこにあると思います。
例えば竹材をまっすぐに伸ばす“矯め(ため)”という工程を行う機械では、竹材を熱するところからベルトコンベアで送り、ローラーでゆっくりと伸ばしていきます
この時、大量生産しようと思えば速く伸ばしてしまえば良いのですが、速く伸ばすことで竹が弱くなってしまうため、あえて複雑にローラーを配置してゆっくり伸ばすように機械を設計しています。
これだけ大きい施設となると、外注した場合のメンテナンスも大変なので、すべて内制化してしまっています。
施設内には専門の機械開発チームの工房もあり、常にメンテナンスができる態勢にしています。
KP:
これだけの施設をインドネシアに構築するのに、どれくらい時間がかかったのですか?
林:
工場建設に3年くらいかかりました。
さらに生産ラインを中国蘇州の工場から持ってきたため、とてつもない量力が必要でした。
大型コンテナで200個以上の分量であったと思います
KP:
それに加えて、人員の採用や教育も必要だと思うのですが、どのようになさったのですか?
林:
ほとんど現地採用ですが、人口が多いのでそこは問題ありませんでした。
それよりも、ちゃんとした製品ができるまでに、従業員教育が大変でしたね。
生産過程別にチームに分かれているのですが、各セクションのリーダーには以前から中国蘇州で働いていた方も相当数いらっしゃいます。
彼らのノウハウを伝播しながら教育を行いましたが、それでも生産ラインが整うまで1年くらいはかかりました。
工場の建設と合わせると、4年にもわたる大型プロジェクトだったと思います。
当然事業投資額もかなり大きくなりました。
KP:
これだけコストをかけて品質を高めているにもかかわらず、日本では竹刀の安売りが散見されます。
林:
竹刀は見た目には違いが出にくい製品なので、なかなか付加価値がつけにくいことは確かです。
結果として、使ってみるとすぐ折れてしまうような粗悪品が出回っているのが現状です。
弊社としては、見えないところにこだわりを持って生産にあたっている分、消費者にも情報を伝えなければいけないと考えています。
以前はあまり情報を公開していませんでしたが、最近では剣道日本の雑誌取材を受けたりしています。
ちなみに、Amazonや楽天で「10本10000円!」等で売っているものは、基本的に弊社の商品ではないです。
日本の剣道家の皆様には、是非「SGマーク」のシールが貼ってある竹刀を使って欲しいです。
KP:
日本の剣道家の皆様にメッセージをお願いします。
林:
いつも宏達の竹刀を使っていただき、ありがとうございます。
生産者側としては、こだわりと覚悟を持って竹刀を生産しています。
今後は我々からも情報発信を行っていきたいと思いますので、日頃稽古に励みながら、時に竹刀を作っている我々のことも思い浮かべていただけると幸いです。
運営から:
今回宏達の世界最大の竹刀工場に訪問し、一番の感想としては「誰にも真似できない」ということでした。
それは投資金額・工場規模・生産ラインすべてが、宏達自前で構築した物であるためです。
日頃何気なく使っている竹刀ですが、「生産者のことを知る」こと、「竹刀について知る」ことも大切なことだと感じました。
宏達で製造された竹刀は、KENDO PARK内「信武商事」から購入可能です。
以下よりお買い求めください。