面金製作において、シェアNo.1を誇る高井武道具に、面金の種類と製作工程について解説いただきました。
ジュラルミン、チタン、IBB等、様々な種類がある面金ですが、実際何が違うのかはあまり知られていません。
皆さんの頭部を守る大切な部位ですので、今一度理解を深めましょう。
(以下 KENDO PARK=KP 高井信昭社長=高井)
|面金製作の変遷
KP:
面金製作について教えてください。
高井:
高井武道具は、70年前から面金製作に携わってきました。
面金製作というのは、他の部位のように「刺」や「藍染」といったものが関係しないため、どちらかといえば「金属加工」の側面が強いです。
金属加工の技術進歩とともに、様々な素材や種類が出てきた歴史があります。
長年研究開発を行いながら、現在年間約10万個の面金を製作しています。
KP:
具体的に教えてください。
高井:
約45年前までは、重い鉄製の面金でした。
高級品には洋銀が使われていました。
前者はいわゆる「軟鉄」であり、後者も比較的柔らかい金属であったことから、打突を受けるうちに「垂れる」(=緩やかに曲がる)傾向がありました。
このことから、鉄製の面金は効果的に衝撃を吸収していたことがわかります。
そこから軽量化の流れを受け、チタンやジュラルミン素材が登場いたしました。
チタンもジュラルミンも強い金属ですが、柔軟性がなく突然折れることが稀にあります。
そこから進化し、約15年前に鉄の衝撃吸収性とジュラルミンやチタンの軽量性を兼ね備えた「IBB面金」「IBB-SDW面金」を開発いたしました。
IBBとは「アイデアル・ベスト・バランス」の略称で、面金の部品それぞれの素材や位置を再配置することで、面の重心を最適な位置へと持ってくるように設計したものです。
主な特徴としては、
・打突を受ける面金上部の横金数本に、軟鉄素材を使用
・頭部にかかる衝撃を吸収(金属音を押さえる)
・面の重心と頭部の重心を一致
というところです。
結果として、IBB面金にすることで、強度を高め打突時の衝撃を吸収することに成功いたしました。
面金というものは、ただ軽くすれば良いとは限りません。
剣道の打突は、顔の正面から後方へと衝撃が伝わるため、軽くすればするほど、打突による衝撃力が強く感じられます。
一方で、重い面金にすればするほど、装着時に頚椎部にかかる負担が大きくなります。
これらのバランスを取りつつ、さらに金属素材の性質を理解しながら設計することが大切だと考えています。
KP:
昨今では、口元にくる部分を抗菌加工したものを開発なさっています。
高井:
長年使用するにつれ、口から出る湿度によってカビが発生し、黒ずむという課題がありました。
それに対して、口元にくる部分を抗菌加工したタイプも提供しています。
|タイプ別解説
ここからは、タイプ別に面金の種類を解説していきます。
面金材料の基礎
面金材料の縦金と枠部分には圧延した材料を、横金には材質2017を使用しています。
圧延とは、複数のローラーを回転させ、その間に金属を通すことにより板などの形状に加工する方法で、金属の密度が増し、強度が出ます。
ジュラルミン
ジュラルミンを化学研磨し、表面にアルマイト加工※を施したものです。
この加工により、表面が白っぽい色合いなのが特徴です。
比較的軽量で、ある程度強度もありますが、一方で柔軟性に欠けるため、衝撃吸収力が弱く、経年の打突により折れやすくなります。
-重量-
子供用:210~250g
大人用:280~300g
※アルマイト加工とは?
アルミニウム専用の加工処理のことで、膜厚がアルミ素地に入り込むことで剥がれ難く、表面の高度を高め、摩耗耐久性と腐食防止を施します。
チタン
チタン素材を、バフ研磨※により鏡面仕上げにした面金素材です。
この加工により、表面に鏡のような輝きがあるのが特徴です。
比較的軽量で、ある程度強度もありますが、ジュラルミンよりは重い素材です。
ジュラルミンと同様に柔軟性に欠けるため、衝撃吸収力が弱く、 経年の打突により折れやすくなります。
-重量-
子供用:380~400g
大人用:410~430g
※バフ研磨とは?
金属の表面を研磨する手法の一つです。仕上げるために行う研磨方法の一
布素材で作られた「バフ」を使用して研磨することで、鏡面のような輝きを出すことができます。
※口元の抗菌コートを施したタイプもあります。
IBB PRO・IBBチタン・IBBジュラルミン
IBBとは「アイデアル・ベスト・バランス」の略称で、面金の部品それぞれの素材や位置を再配置することで、面の重心を最適な位置へと持ってくるように設計したものです。
主な特徴としては、
・打突を受ける面金上部の横金数本に、軟鉄素材を使用
・頭部にかかる衝撃を吸収(金属音を押さえる)
・面の重心と頭部の重心を一致
というところです。
具体的には、重心位置を上方に17mm、後方に7mmずらし、面の重心と頭部の重心を一致させることで、面との一体感を増しています。
さらに横金の設置角度を変えることで、物見部分を従来比1mm拡大しています。
横金上部数本の素材を変えることで、ジュラルミン面金で11.5kg、チタン面金で25.3kgも強度を増加させており、耐衝撃力による力積値の減少に寄与しています。
「IBBジュラルミン」は面金のメイン部分(=横金の頭頂部以外)をジュラルミンに、「IBBチタン」は面金のメイン部分をチタンで作っているものです。
ジュラルミンのアルマイト加工とチタンのバフ加工は、そのまま施しています。
-重量-
IBBジュラルミン
子供用:280~300g
大人用:310~340g
IBBチタン
子供用:410~450g
大人用:460~490g
※口元の抗菌コートを施したタイプもあります。
IBB-SDW(IBB-SD)
従来のIBB面金に、さらに衝撃吸収力を高めたタイプです。
面金の天地(=枠の上部と下部)を分割することで、衝撃に対する可動性を高めています。
また、横金の頭頂部(=上部)数本を柔軟性のある特殊衝撃吸収材料を用いることで、打突に対する衝撃吸収力を強化しています。
IBBからの変更ポイント
・面金を3分割にし、組み合わせる
・面金の天(=上部)を分割して合わせる
・頭頂部(=上部)数本に特殊衝撃吸収材料を使用
-重量-
子供用:310~335g
大人用:340~380g
※口元の抗菌コートを施したタイプもあります。
新型面金SWV面金
SWEとは「Safety Wide View」の略で、物見幅はそのままに、その上下幅を面金の規格内で少し広げられています。
視界が広がることにより、相手・竹刀の動きを見えやすく、同時に周りの状況にも気づきやすくなることで、より安全性を高めています。
※口元の抗菌コートを施したタイプもあります。
|製作工程
「剣道家の皆さんに、是非面金製作の現場を知ってほしい」という願いから、製造現場を特別に公開いただきました。
本邦初公開となります。
1) 枠部分の成形
面金の台輪(=枠部分)を作るため、部品の両端を曲げていきます。
2) 接合部の成形
枠部分の接合部分に、段差を付けます。
3) 枠の成形
枠部分(=台 / 台輪)を、顔の形になるように湾曲させていきます。
4) 枠全体への穴開け
縦横金をはめ込むため、枠全体(=台 / 台輪)に穴を開けていく。
5) 枠の接合
枠(=台 / 台輪)における天地(=上下部分)を接合していきます。
これにより面金全体に可動性を持たせ、衝撃吸収力を高めています。
6) 横金の加工
面金の横金部品を、裁断して成形していきます。
7) 縦横金の組み立て
縦金に横金を通して、組み立てていきます。
8) 枠への取り付け
枠(=台 / 台輪)に縦横金をはめていき、全体を組み立てていきます。
縦金を面金の中心に固定しつつ、穴の位置に合わせて横金をはめていきます。
9) 接合部の固定
接合部を裏から潰し、縦横金を固定していきます。
潰す位置は、目視と手動コントロールで行います。
衝撃を逃がすため、接合には溶接を使用しません。
10) 検品
ベテランの職人が、部品の配置や角度、接合等をチェックします。
11) 軟鉄素材組み入れ(一部商品のみ)
IBBチタン、IBBジュラルミン、IBB-SDWは、面金の上部数本のみ手動で特殊軟鉄素材を入れていきます。
これにより被打突部分の柔軟性を持たせ、衝撃吸収性を高めています。
12) 裏側染色
面金の裏側を、赤色に染色します。
これにより光の反射を防ぎ、可視性を高めます。
|面金の未来
KP:
今後のビジョンを教えてください。
高井:
先述の通り、面金製作は金属加工の側面が強いものです。
現在息子たちが仕事を手伝ってくれていますが、彼らは様々な技術を学んでいるので、私が思いつかないようなアイデアを持っています。
制作側としては、常に最新の技術や素材にアンテナを張り、商品の改善と開発に邁進していきたいと思います。
私たちは、人間にとって最も大切な頭部の安全を担っています。
剣道家の安全をより一層高めるべく、剣道具メーカーやユーザーの皆さんと一緒に理想の剣道具の製作に向かっていきたいと思います。
是非、面金にも注目していただければ嬉しいです。