▼完全保存版 スペシャルインタビュー▼
「’97 世界剣道選手権の回顧録」
〜前全日本剣道連盟副会長 福本修二〜
本年韓国仁川での世界剣道選手権を控える中、日本代表の監督経験がある福本修二先生に、世界で戦ったご経験をお伺いいたしました。
(以下 KENDO PARK=KP 福本修二氏=福本)
-福本修二-
生年月日:昭和13年(1938年)1月8日生まれ
剣道段位: 範士八段
職業:一般財団法人全日本剣道連盟副会長
剣道歴:全日本東西対抗剣道大会出場8回(優勝・東軍大将)
全日本都道府県対抗剣道優勝大会出場7回(準優勝・大将)
明治村剣道大会出場5回(3位)
国民体育大会剣道大会出場(優勝・大将)
全国教職員剣道大会出場12回(優秀選手)
所属・役職:国際剣道連盟日本代表理事、日本武道協議会常任理事、日本オリンピック委員会評議員及び強化委員
|選手強化を組織化
KP:
福本先生は、京都で行われた第10回世界剣道選手権の監督を務められました。
福本:
もともと全日本剣道連盟の業務に関わっていたのと、八段を取得したのもあいまって監督を拝命いたしました。
第10回大会は京都での開催であったのですが、海外チームとの力の差が縮まっているのもあり、選手強化に関して何らかの改革が必要なタイミングであったと思います。
KP:
具体的にどのような施策を行ったのですか?
福本:
第9回大会まではある程度個々の地力の差で勝っていたのですが、第9回大会の後から強化委員会を設置し、本格的な強化に乗り出しました。
強化委員会と言っても前例がなかったので、監督である私とコーチ(当時の警視庁特練師範)の2名で全てを決めるような体制でした。
まず警察・教職員・学生・実業団の各カテゴリから、先導的立場にある選手を幅広く集め、各カテゴリでどのような剣道を学んでいるかを把握しました。
そこから強化合宿を行い、振り落としていく方式を採用いたしました。
この方式は、現在の選手選考方式の元になったスタイルです。
|”勝負できる選手”を選ぶ
KP:
合宿に呼ぶ選手のピックアップはどのように行ったのですか?
福本:
本当は選手の招集から携わりたかったのですが、先述の通り強化に割ける人材が私とコーチしかいなかったため、選手のピックアップは各カテゴリからの推薦という形をとりました。
逆に言うと、指導陣は強化合宿で初めて選手の剣道を見ることになるので、個々の選手の特徴を瞬時に判断しながら強化につなげていく作業が必要でした。
KP:
実質お二方で全ての強化を行うのは、本当に大変ですね。
福本:
稽古に関しても指導者が我々しかいなかったため、選手同士の互いの稽古と出稽古が中心でした。
一方で少人数での指導体制はメリットもあり、意思決定が早いこととコンセプトの統一が容易でした。
結果として、選手にはこちらの意図が伝わりやすく、チームの一体感も生まれたと思います。
KP:
強化の過程での苦労を教えてください。
福本:
”振り落とし方式”を採用したため、副作用として”引き分け狙い”で勝負をしない選手が増えてしまいました。
そこで、「勝負をできない選手は選ばない」とアナウンスし、実質的に”引き分け狙い禁止令”を出して対処いたしました。
前提として”大舞台で勝負できる選手”という条件のもと、そこから選手の特性を見極めるようにいたしました。
KP:
最終的には豪華なラインナップとなりました。
【第10回世界剣道選手権男子日本代表】
・石田利也(現全日本男子監督・大阪府警)→個人・団体
・宮崎正裕(現全日本女子監督・神奈川県警)→個人・団体
・高橋英明(現京都府警)→団体
・岡本和明(現警視庁)→団体
・平尾泰(現警視庁)→団体
・栄花直樹(現北海道警)→団体
・宮崎史裕(現神奈川県警)→個人
・江藤善久(現大阪府警)→個人
・鍋山隆弘(現筑波大学剣道部男子監督)→個人
※ご参考:鍋山隆弘氏インタビュー記事「意識の高さが強さに繋がる」
福本:実は当時出場した男子全選手が、現在八段の段位を取得しています。(2018年2月現在)
それくらい力のあるメンバーでした。
ラインナップは割とすんなり決まったのですが、団体と個人で選手をどう振り分けるかが問題でした。
その中で、大会の2ヶ月前に京都へ出稽古に行った際に、何となくチームの雰囲気にまとまりがないのを感じました。
というのも、選手全員が本音では団体戦に出たいと思っていたようなのですが、自分が個人に出るのか団体に出るのかはっきりしていなかったため、剣道にも迷いがみえていました。
そこでその晩に、選手を焼肉とカラオケへ連れて行きました。
すると最後には、「みんなでやろうぜ」という雰囲気になり、そこからチームがまとまっていきました。
今思えば、あれが一つのターニングポイントだったかもしれません。
|決勝で栄花直輝選手を外す
KP:
最終的にはどのように振り分けを行ったのですか?
福本:
基本的に試合をじっくり行う選手を個人戦、試合巧者でミスが少なく、ゲームコントロールができる選手を団体戦に出場させるように考えていました。
強化合宿の中でポジションを変えながら試合数を重ね、傾向とタイプを見極めました。
だんだんと練習試合でもオーダーが固まっていったので、選手の中でも「ここのポジションで出るんだろうな」という意識が少しずつ芽生えたと思います。
チーム編成としては、石田・宮崎(正)は別格であったため、団体の後ろ二人に配置することは決めていました。
最終的に石田と宮崎(正)を個人戦にもダブルエントリーさせると共に、試合をじっくりやるタイプの鍋山、宮崎(史)、江藤を個人戦に配置しました。
団体戦には攻撃的な栄花、試合のうまい平尾、岡本、前回大会の経験がある高橋を配置しました。
KP:
決勝の韓国戦では、大接戦となりました。
福本:
決勝では、攻撃的で勝敗の読みにくい栄花ではなく、試合巧者の平尾を先鋒に起用しました。
オーダーは先鋒から平尾、岡本、高橋、宮崎(正)、石田で臨みました。
試合展開としては、先鋒次鋒が引き分け、中堅が韓国のエースであるキムキョンナム選手に2本負けを喫しました。
この時点で副将の宮崎(正)に関しては、実力的に勝利することに確信はあったものの、1本勝ちなら多少不安、2本勝ちであれば、チームの勝利はほぼ間違いないと思っていました。
結果としては宮崎(正)が2本勝ちを収め、同スコアで大将の石田につなげてくれました。
大将戦では、石田が跳び込み面と引き面を決めて2本勝ちを収め、チームの勝利が決定いたしました。
石田は試合後に、「2本取ったが、その記憶がない」と言っていました。
それくらいプレッシャーがかかった場面で、まさに”無心の技”が出た瞬間であったと思います。
チーム一体となって、精神的にも肉体的にも鍛え上げてきた賜物でありました。
|2018年仁川大会に向けて
KP:
現在仁川での世界剣道選手権に向けて、選手選考の真っ只中だと思いますが、選手にはどのようなことを求めますか?
福本:
日の丸を背負う者として、自覚とプライドを持ってほしいです。
さらに言うと、プレッシャーに強い選手になって欲しいと思っています。
剣道の勝負では、精神的に相手の上に立てる人間が強いので、プライドが高い方が良いですし、それが剣道宗主国日本を背負う自覚になってくれれば良いと思います。
また今回は韓国での開催ということで、相当なプレッシャーの中で戦うことになります。
選手達には「冷静に試合を組み立てる力」「自分に打ち克つ強さ」「環境に左右されない集中力」が必要となると思います。
強化の過程の中で、自分のポジションを意識しながらこのような力を身につけてほしいと思います。
KP:
指導陣としての心構えはありますか?
福本:
私が監督をしていた時は、勝ち負けを意識するとどうしても弱さが出てしまうので、あえて勝敗を意識しないことで腹をくくるようにしていました。
もし負けた場合は、「監督である自分が責任を取れば良い」くらいの感覚でいたと思います。
逆に言うと、剣道日本代表を率いるということは、それくらいの精神的強さが必要だともいえると思います。
※参考:【剣道×フェンシング】福本氏と太田氏による歴史的会談