▼スペシャルインタビュー▼
「伝説の職人」
〜大和武道具製作所 伊藤毅〜
戦後の剣道再興期から約70年もの歴史を誇り、流行にも左右されない「圧倒的安全性」にこだわった剣道具製作を行う大和武道具製作所。
「伝説の職人」とも呼ばれる伊藤毅氏に、その想いをお伺いしました。
(以下 KENDO PARK=KP 伊藤毅=伊藤)
※伊藤氏は、2018年末に惜しまれながらご逝去されております。
※伊藤喜一郎氏(兄)インタビュー記事
【伝説と伝統を守り抜く】大和武道具製作所 伊藤喜一郎
|ルーツは戦時中から
KP :
剣道再興期から、剣道具製作に携わっていらっしゃっるそうですね。
伊藤:
そうですね。
大和武道具製作所として防具を作り始めたのは、昭和27~28年頃、戦時中の剣道禁止期間が解除直後でした。
まだ全日本剣道連盟も組織が小さく、先代を中心とした職人グループで試作品を製作したところからのスタートでした。
KP:
販路はどこだったんですか?
伊藤:
戦後に他の商売をやっていた剣道具の小売店が戻ってきてくれて、当時はそういった小売店に卸していました。
今ほど種類もなかったので、ある程度独占していたと思います。
KP:
そこから海外産製品が登場して、時代が変化しました。
伊藤:
昭和40年代くらいに海外産製品が登場し、そこから昭和50年代になるにつれて剣道具販売の新規参入が増えましたね。
理由はやはり「仕入値段が安くなった」ことが大きかったです。
しかし今ほど海外工場の技術も発達していなかったので、芯材にダンボールを使っているなど、今では考えられないような粗悪品もありました。
KP:
それでも「トレーディングビジネス」には移行しなかったのはなぜですか?
伊藤:
「ものづくり」を失いたくなかったからです。
別に変なプライドがあったというわけではなく、単純に「剣道具製作が好き」なのと「トレーディングでやっていく自信がなかった」のだと思います。
KP:
現在のメイン顧客はどういう方々でしょうか?
伊藤:
今は完全に個人向けなので、小学校から高段者まで幅広くお買い求め頂いています。
全て口コミや紹介ですね。最近は海外からの問い合わせも多いです。
|積み重ねた研究が財産
KP:
営業活動はなさっていらっしゃらないのですか?
伊藤:
全く営業活動はしておりません。その分、製作に集中できるので大変助かっております。
我々の防具のファンになって頂いた方が、わざわざお客さんを複数紹介くださるケースも数多くあります。
やはり、一人で製作から集客まで全て行うのは難しいので、本当にありがたい限りです。
KP:
長年やられている中で、お客さんの変化は感じますか?
伊藤:
比較的華美にしたい(飾りを増やす等)というお客様と、とにかく安いものがほしいというお客様に二分されているように感じます。
逆に安全なものが欲しいというお客様は少ないので、そこは少し残念なところです。
これは、情報発信をできていない武道具店側にも責任があると思います。
KP:
大和武道具の防具といえば、刺し幅が広い・凹凸が大きい・固めの圧倒的な耐久性が特徴ですよね。
伊藤:
当初は単純に芯材と詰め物を多めにして、衝撃吸収性を担保していたのですが、その方法では限界がある事に気づきました。
そこで独自に研究を重ね、今から20年くらい前に今のスタイルにたどり着きました。
2015年の世界選手権にも出展してからは、お客さんよりももちろんですが、他の武道具さんからの反響が大きかったです。
最近では、他社の職人さんが学びに来ることも増えました。
|「圧倒的安全性」というブランド
KP:
今の悩み、ボトルネックはなんですか?
伊藤:
“大和武道具ブランド”の確立ですね。
「大和武道具の防具を身に付けた誇りや喜び」のようなものを確立したいです。
正直手法に関しては、わからない面が多いので、色々な方に協力頂きたいと思っています。
KP:
武道具業界としての、傾向や問題点を教えてください。
伊藤:
お客様のニーズの変化とともに、”軽い” ”短い” ”柔らかい”という製品が多くなってきたことですね。
やはり安全性の面からすると、かなり無理がきていると思います。
”軽くて痛くないもの”を目指すのはもちろんですが、キチッとお客様に対して情報発信することが必要だと思います。
”安全性”は、私の中でも最大のテーマです。
KP:
御社の強み、イチオシはなんですか?
伊藤:
商品としては、圧倒的な耐久性と安全性ですね。
我々が製作した製品で、打たれて痛いというのは聞いたことがありません。
思い切りフルスイングしない限りは、耐久性には自信を持っております。
あとは”職人としての想い”を込めて、一つ一つ作り上げているので、
そこを感じていただけたら、大変嬉しいです。
|業界としての課題は山積
KP:
今後取り組んでいきたいことはなんですか?
伊藤:
何十年も剣道具を作り続けてきましたが、
今でも、”もっと良い仕事ができる”と毎日思っております。
そうはいっても一人ではできることが限られるので、色々な人の知恵を借りていきたいと思っています。
KP:
最後に大変お聞きしにくいのですが、”後継者問題”について教えてください。
伊藤:
正直今から技術伝承というのは、かかる年月や負担も考えると難しいです。
今考えているのは、過去に教えた弟子が何人かいるので、彼らに伝承できれば理想的ですね。
もしそうでなくとも、最低限”商品の良し悪し”の判断さえ身につけれくれれば、十分です。
近年は”弟子入り”の申し込みが来ても、実際問題として生計を立てるのが簡単ではないので断っていました。
そう考えると、やはり海外製と比べても圧倒的に違うものを製作することが必要ではないかと思います。
そのためにも”大和製作所ブランド”の確立が必要なのです。
※伊藤喜一郎氏(兄)インタビュー記事
【伝説と伝統を守り抜く】大和武道具製作所 伊藤喜一郎