▼スペシャルインタビュー▼
「”不動心”がもたらす経営マインド」
〜株式会社eパートナーズ代表取締役 出口彰浩〜
剣道教士七段保有者でありながら、中小・ベンチャー企業向け経営コンサルティング事業を展開する出口氏。
昇段の秘訣から、剣道で鍛えた精神力をどう経営に活かすかをお伺い致しました。
(以下 KENDO PARK=KP 出口彰浩氏=出口)
出口彰浩(いでぐちあきひろ)
同志社大学大学院総合政策科学研究科修了
英国ロンドンビジネススクール修了
学位:MBA
株式会社三和総合研究所にてマーケティング戦略、新規事業立案、人事戦略立案等のコンサルティングを経た後、戦略コンサルティングファーム ローランド・ベルガーにおいて営業改革、新規事業戦略立案等のコンサルティングを実施。
グロービス・キャピタル・パートナーズのプリンシパルとしてベンチャー投資・育成を行う。IT、サービス分野を専門領域とし、社外取締役として複数のベンチャー企業の経営に参画した。
現在は株式会社eパートナーズ 代表取締役。
中小企業やベンチャーの成長支援コンサルティングや自治体へのイノベーション支援の政策提言等を行っている。出典:グロービス経営大学院公式HP
剣道教士七段(2018年12月現在)
|海外剣道から学ぶ
KP:
出口社長の剣道歴を教えてください。
出口:
小学校3年生の時に剣道を始め、高校まで続けましたが、大学進学とともに一度辞めてしまいました。
その後大学院生時代に、たまたま通りかかった地元の道場で再開してから、今日まで続けてきました。
とはいえ、当時は完全に学生剣道の延長でしたので、段位は二段のままで、昇段審査すら何年も受けていない状態でした。
KP:
その後、海外で剣道指導をなさいました。
出口:
大学院では会計政策を学び、卒業後は株式会社三和総合研究所(現株式会社三菱UFJリサーチアンドコンサルティング)に入社いたしました。
会社には6年半在籍したのですが、在籍期間中にロンドンへ留学する機会がありました。
現地で稽古を始めたのですが、次第にアドバイスを求められるようになりました。
当時は五段だったのですが、まだロンドンでも指導者や道場が少ない時代でしたので、いつの間にか「先生」のような扱いを受けるようになりました。
そこで気が付いたのが、日本では当たり前のことが、現地では誤って指導を受けている人がたくさんいるということでした。
例えば足さばきから掛け声に至るまで、基本的な部分で誤っているところも多数見受けられました。
一方で、外国人剣士の方々の学ぼうとする姿勢や熱心さに触れ、大変刺激を受けました。
日本で当たり前のことが、世界ではどれだけ価値があるかを知り、自分の中で初めて「剣道観が変わった」ように感じました。
KP:
その後の経歴を教えてください。
出口:
東京に戻ってから、外資系経営コンサル会社のローランドベルガーに転籍いたしました。
そこに半年ほど在籍したのち、外資系投資会社のエイパックスとグロービスの合弁会社であるエイパックスグロービスパートナーズ(現グロービス・キャピタル・パートナーズ)に移りました。
こちらには12年在籍いたしましたが、MBAでベンチャー企業の経営について学んだ私にとっては、大変やりがいのある仕事でしたが、一方で平日は深夜まで業務があり、時間的にも体力的にも稽古時間を確保するのが大変でした。
その中でも、土日には必ず稽古をするように心がけました。
|発想の転換が成功につながる
KP:
激務の中で、どのように昇段なさっていったのですか?
出口:
会社勤務時代は、後藤昌男先生(教士八段)をはじめとして、東京都目黒区の先生方から指導を受けていました。
あまり昇段のことは考えていなかったのですが、先生方からは「これからは段位取得を目指しなさい」とアドバイスいただき、それから少しずつ稽古を重ねました。
実は五段審査までは全て1回の受審で受かっていたのですが、六段審査で初めて段審査に落ちたことが、自分の剣道を見直すきっかけとなりました。
それまで学生剣道の延長でやっていたのですが、そうした「当てっこ剣道」からは脱却しなければならないと考え、発想を変えて稽古に取り組むようになりました。
具体的には、
・いくら体が動くからといって、変に動かないようにする
・「五段の人たちに稽古をつけるには、どうすれば良いだろう」と考える
(六段を取得するためには五段の方々に稽古をつけられる技量が求められるため)
・どこに行っても、「先生」と呼ばれるにふさわしい剣道を身につける
というように、剣道への考え方と取り組み方を転換いたしました。
先生方の熱心なご指導もあり、受け初めて約1年、3回目の受審で六段に昇段致しました。
KP:
時期を同じくして、ご本業では独立をなさいました。
出口:
投資会社に在籍することで、株主として会社の経営に参画することはできますが、どうしても現場感覚が薄れがちになります。
投資業務を始めて時間が経つにつれ、より経営者や現場に近い立場でお役に立つ仕事ができないかと考えるようになりました。
そんな中、2011年の東日本大震災を目の当たりにし、今後は現場経営に携わりたいという想いと、故郷である大阪を拠点として働きたいという想いから、自ら起業して経営コンサル事業を立ち上げることに致しました。
幸いにも、それまでの仕事上での付き合いや、グロービス経営大学院の講師をしていたつながりで、独立時点でも数社からコンサル案件を頂いておりました。
それらを足掛かりに、中小企業やベンチャー企業を中心にコンサルティングを手がけるようになりました。
KP:
中小企業相手への「経営コンサルティング」の需要開拓は、簡単ではないように感じます。
出口:
大阪は製造業が中心であるため、もともと「無形のものにお金を払う」という文化が薄いエリアです。
一方で、現代では単純な「ものづくり」は国際競争力を失いつつありますが、高い技術力を持つ会社は数多く、その技術力を土台にビジネスモデルを刷新したり、新分野にチャレンジしてみることで可能性を広げることは十分可能だと感じています。
そういった方々に私の知識と経験をお伝えし、ビジネス力向上に寄与できれば良いと考えています。
|「不動心経営」
KP:
事業を経営しながら、剣道では七段を取得なさいました。
その秘訣を教えてください。
出口:
先生方のご指導のおかげで、結果として1回目の受審で七段に合格致しました。
「上手くいかないから常に工夫する」という部分では、考え方は剣道も経営も一緒です。
そこを常に意識できたことが、昇段につながったと思います。
具体的には、審査員が「オッ」と思う技が必要と考え、自分の得意技でもある出ばな面を磨きました。
出ばな面は、審査員に対してもアピールになると共に、もし立会いの序盤で打つことができれば、その後の立合いでも有利に進めることができると考えたからです。
具体的に意識したのは、以下のポイントです。
・あえて攻め過ぎない(=相手に出させる)
・(感覚的に)左足に体重の大部分を乗せ、いつでも跳べる状態をつくる
・相手の手元が上がった時には、面に到達しているくらいのイメージ
とはいえ出ばな面は、いなされる確率や返される可能性も高い技です。
もしそうなれば、自分の実力が足りなかっただけだと割り切って審査を受けました。
審査直前の模擬審査で、この「出ばな技」を評価いただいたき、腹が座ったことで恐れずに打ち込めたと思います。
KP:
剣道の経験は、経営にどう活きていますか?
出口:
まず、仕事と剣道では脳の使い方が違うので、剣道の稽古をすることは良いリフレッシュになっていると思います。
一方で、「上手くいかないことばかりだから、常に工夫する」というところは、経営も剣道でも共通していると思います。
そこで意識しているのが、「不動心」です。
経営では、日々色々な課題にぶつかります。
そこで心が動いてしまうと、目指すべきところがぶれて、悪い方向へ引きずられてしまいます。
剣道において、相手に対し「打っていくのが怖い」と思うことはよくあると思います。
しかし「怖い」と思っていても、何も生まれません。
経営でも同じで、経営者は事業の全責任を自分が負うことになるので、「怖い」思い、たじろいでしまいそうになる場面は数多くあります。
そのような時でも、現状と打開するためには、「今、自分が考えるべきことは何なのか」と自問することが大切だと考えています。
もちろん心が動かなくなるのが理想ですが、私レベルでは現実的にそれは無理ですので、できるだけ早く心をあるべき状態に戻すように心がけています。
剣道で培った「不動心」が、そういった場面で活かされていると思います。。
反省することは必要だと思いますが、後悔することや相手を攻撃することは会社の業績に何のプラス効果も与えません。経営者としてここで考えるべきことは、
出典:株式会社eパートナーズ公式HP内コラム「経営における不動心とは」
「なぜそのようなことが起こったか」
「同じことが再度起こるということはないか」
「対策を施すとすれば何をするべきか」
を考えることです。
一瞬は動揺したとしても、経営者として考えるべき事項、あるいは会社として答えるべき問(これをイシューと呼ぶこともあります)に対して可及的速やかに取り組むというのが、優れた経営者が実践するべきことです。
上記の意味から考えると、経営における不動心とは
「一つの事象に心を囚われ続けることなく、その事態を打開するために自社として答えるべき問に速やかに対応できるマインドセット」
と言えると思います。
|開かれた剣道文化を
KP:
偉そうなこと言える立場ではないですが、、、。
剣道は、日本人が思っている以上に世界的に見ると相当価値の高いコンテンツです。
また剣道をやっているだけで、どこの国へ行ってもすぐに友達をつくることができます。
実際、私は剣道をしているおかげですぐにイギリスでも友達ができました。
将来、海外で活躍してみたいと思う人たちには、ぜひ剣道を薦めたいです。
絶対に剣道に助けられます。
昨今では欧米の考え方がグローバルスタンダードで、日本もそれに合わせるべきだとの風潮が強いと思いますが、日本人が持つ武士道的な考え方や文化に高い価値を感じてくれる外国人は日本人が創造する以上にたくさんいます。
日本人はいたずらに欧米の真似をするのではなく、剣道を通じて学ぶことができる精神や考え方に自信を持って良いと思っています。
一方で、剣道界で時々ある「よくわからない慣習」は無くしていくべきだと思います。
例えば、「段位本位制」的な考え方です。
剣道技能や指導技術に関して段位は最適な指標ですが、剣道以外に関しても段位によって「意見が言いにくい」雰囲気は、閉鎖性を高めていると思います。
私も七段を取得することができましたが、この点については自分がそうならないように人間性を磨きたいと思っています。
もっと世界的に剣道の価値を高め、将来的には世界のどこへ行っても「剣道やっているのか。それは素晴らしい」と言われるようになれば良いと思います。