野球にも早慶戦があるように、剣道にも早慶戦があります。
この早慶戦をはじめとし、大学剣道では数多くの定期戦や対抗戦が存在します。
現在では全国各地で様々な大学同士が行っており、その数は数十にものぼると言われています。
試合によってルールも様々で、互いに大学の名をかけた熱い戦いが行われます。今回は、関東を中心にいくつかの有名な定期戦や、名勝負などについて紹介していきます。
|早慶対抗剣道試合
早慶対抗剣道試合(以下早慶戦)は、早稲田大学と慶応義塾大学による言わずと知れた大学スポーツ界において欠かすことのできない定期戦です。
野球やサッカーなど数多くのスポーツで早慶戦は行われていますが、剣道においても早慶戦は今年で84回目を数え、最も古くからある定期戦であるとされています。
故に早慶戦は「伝統の一戦」と称され、試合前後には校歌斉唱やエール交換も行われます。
互いのプライドをかけた他の定期戦とは段違いの熱い戦いが繰り広げられます。
早稲田、慶応ともに「早慶戦優勝」を目標に掲げるほどで、秋の早慶戦優勝を目指し一年間厳しい稽古に励みます。男子早慶戦は20人制で行われ、1年おきに対勝負と抜き勝負のルール変更が行われます。
試合は5分3本勝負、勝敗が決しない場合は勝負がつくまで延長戦が行われます。
20人制のため、対勝負の年は両校優勝(引き分け)になることもあります。
昨年の男子早慶戦は両校優勝に終わりましたが、これは83回の歴史の中でたった3回しかない非常に珍しい決着です。
女子早慶戦は7人制で行われ、毎年対勝負で行われます。
試合は4分3本勝負、男子同様勝敗が決しない場合は勝負がつくまで延長戦が行われます。
男女ともに早慶戦は見に来た人が圧倒されるほどの「異様な雰囲気」の独特な試合です。
その理由としては、通常の大会では制限される応援・声援が全面的に許可されているので試合中の両校の盛り上がりがすごいこと、互いにこの早慶戦にかける想いが他大学の定期戦とは段違いなことなどが挙げられます。
是非皆さんも一度、早慶戦に足を運ばれてはいかがでしょうか。
他の試合とはひと味もふた味も違った雰囲気の試合を見ることができます。
|日・中・明三大学定期戦
日中明定期戦は、日本大学、中央大学、明治大学の3校によって行われる試合です。
毎年1年生が入学してすぐの4月に行われ、実力のある3校が白熱の試合を見せます。
試合は女子7人、男子30人の37人制と非常に大人数で、最大の特徴は1本勝負で行われるということです。
普段の3本勝負とは違い、一瞬で勝負がつく可能性もあるため、緊張感溢れる試合を見ることができます。
勢いのある1年生の試合や、全国で活躍する名選手同士の緊迫したレベルの高い試合を見ることもできるので、見ていて非常に面白いです。
大学剣道のイメージがわかない高校生の方や、大学の新入生で体育会に入ろうか迷っている方などにおすすめです。
元気があって盛り上がる学生剣道の醍醐味を味わうことができます。
|世田谷六大学定期戦
世田谷六大学定期戦は、東京都の世田谷区にキャンパスを持つ大学によって行われる定期戦です。
主に男子は国士舘大学、日本体育大学、國學院大学、駒澤大学、東京農業大学、東京都市大学の6校、女子は国士舘大学、日本体育大学、國學院大學、駒澤大学、東京農業大学、東京都市大学、日本女子体育大学、東京女子体育大学の8校(ともに2018年度の参加校)によって行われます。
世田谷六大学は、春と秋にそれぞれ開催されます。
春に行われるのは新人戦で、1,2年生のみでチームを組んで戦います。
秋は4年生までを含めた全ての学生でチームを組みます。
試合は各大学の総当たりリーグ戦です。
男子は7人制、女子は5人制で行われ、4分3本勝負の引き分けありで行われます。
大将戦が終わった時点で同点の場合は代表戦を行い、必ず勝敗を決します。
最終的に勝数の最も多い学校が優勝です。
春、秋ともに国士舘や日体大をはじめ、強豪校が一堂に会し、見ごたえのある試合を展開します。
本格派の剣道を見たい方におすすめです。
|その他の定期戦
立明戦
立明戦は、立教大学、明治大学による定期戦です。
女子10人、男子25人の35人制で、引き分けありで行われます。
ともに東京六大学同士の熱戦は非常に見ごたえがあります。
専東戦
専東戦は、専修大学、東洋大学による定期戦です。
女子5~6人(年によって変動あり)、男子25人の引き分けありで行われます。
専修、東洋ともに近年関東や全日本の大会で好成績を残しており、勢いのある2校の迫力ある試合を見ることができます。
法中戦
法中戦は、法政大学、中央大学による定期戦です。
女子7人、男子30人の37人制で、引き分けなしの無制限1本勝負で行われます。
こちらも日中明同様1本勝負なので、早い展開で試合が進み面白いです。
関東や全日本の大会でも毎回のように上位に入賞する両校のぶつかり合いは迫力十分です。
|早慶戦の名勝負
早慶戦は、先ほど紹介したように他の定期戦とは段違いの熱気と雰囲気に包まれています。
互いの早慶戦優勝に懸ける想いの強さから数々の名勝負が生まれました。
今回はその中から3試合の名勝負を紹介します。
1時間44分「伝説の大将戦」
早慶戦は、試合時間5分で勝負が決しない場合勝負が決するまで試合を行います。
平成21年度の第74回、当時4年生の早稲田大将雨谷水紀選手、慶應大将井口亮選手による大将戦となりました。
この年は抜き勝負であったため、早大雨谷選手が相手の副将を抜き返しての一戦でした。
互いに小手が得意技で、小手の打ち合いが続き、1時間40分を越えても試合は決まらず、超長丁場の試合となりました。
「少しでもパターンを変えたら打たれると双方が考えていたと思う」と言っていた雨谷選手が試合開始1時間44分を過ぎたころ、得意技の小手を打ち込み、ついに決着しました。
この勝利により、早稲田の8連覇となりました。
試合後、雨谷選手は疲労のあまり脱水症状をおこし、井口選手も肉離れを起こしていたとのことで、今でも語り継がれる伝説の名勝負です。
参考記事:
【伝説の”試合時間1時間44分”の激闘】いばらき少年剣友会監督 雨谷水紀(2)
【レベルに合わせて強くなる】三井住友海上剣道部副主将 井口亮(1)
「永遠のライバル」との一戦
平成28年度、第81回の大将戦。
対勝負のこの年、副将までで早大10(本数10)対9(本数11)と早大リードではあるものの、引き分けがないため敗れると本数差で慶應が逆転優勝になります。
互いに小学校時代から永遠のライバルである2人。
対戦成績は廣田選手優勢で、「廣田にはことごとくやられてきた」と言うほど、小林選手にとっては常にたちはだかってきた大きな壁です。
そんな因縁の対決になった試合は、序盤から廣田選手が得意の小手を狙いますが、小林選手も返し面で応戦します。
両者拮抗したまま、試合は延長戦へもつれ込みました。
試合時間15分を経過した頃、廣田選手が再び小手に行くところに小林選手が渾身の返し面一閃にて、一本を奪取しました。
小林選手が学生最後の試合で因縁の相手を打ち破り、早稲田の優勝となりました。
早慶戦は因縁の対決が数多く見られますが、早慶戦史上最も縁の深い者同士の一戦と呼べるしょう。
下馬評を覆した一撃
平成29年度、第82回の早慶戦。
当時3連覇中の早大には当時4年生の久田松、勇大地両選手や、3年の安井選手をはじめ盤石のメンバーが揃っており、下馬評では早稲田の4連覇の可能性が高いとされていました。
対する慶應は、当時主将の遠藤太郎選手を中心に「打倒早稲田」を掲げ猛稽古に励み、万全を期して早慶戦に臨みました。
この年は抜き勝負。
試合が始まると、慶大先鋒の森田選手が早大先鋒藤田選手を破ったことを皮切りに、下馬評を覆す慶應の快進撃が始まります。
先に大将を引っ張り出されたのは早稲田大学でしたが、早大大将久田松選手も踏ん張り、副将の伊藤選手を抜いて大将戦になりました。
慶應の大将は主将の遠藤太郎選手ですが、遠藤選手は高校・大学の実績では明らかに久田松選手の方が上でした。
しかし、遠藤選手は全く恐れることなく打ち込んでいきます。
試合中盤、久田松選手が逆胴に打ち込んだ後をすかさず引き面。遠藤選手が一本先取します。
取り返そうと焦る久田松選手に対し、遠藤選手は非常に冷静でした。
久田松選手が面に飛び込むところに、会心の出小手を打ち込みました。
最後は世代屈指のスター選手を2本勝ちで下し、慶應が4年ぶりの優勝に輝きました。
この年の早慶戦は、努力や最後まで諦めない気持ちがあれば、どんなに強い相手にも立ち向かい、勝つことができることを教えてくれました。
恐らく後世に語り継がれるであろう、感動の名勝負といえるでしょう。
参考記事:【新時代の学生剣道】 慶應義塾體育會剣道部(2017年度主将 遠藤太郎)
|プライドのぶつかり合い
定期戦・対抗戦は、学生剣道において重要な試合の一つです。
「あの大学には負けられない」
大学同士のプライドをかけた熱い戦いが、どの定期戦でも見られます。
学生剣道をより深く味わいたい方は是非一度、大学の定期戦を観に行ってみると良いかもしれません。