剣道には、相手と構え合ったところで打つ技だけでなく、引き技や鍔迫り合いから打つ技があります。
特に試合では、鍔迫り合いでの攻防が重要な鍵を握ることが多く、引き技や鍔迫り合いからの技が打てると試合を優位に運ぶことができます。
今回は、そんな実戦で使える引き技や鍔迫り合いからの技を紹介していきます。
|引き技一覧
今回は、引き技と鍔迫り合いからの技に焦点を当てて特集していきます。
まずは引き技から紹介していきます。
基本的な技から実戦的な技まで、細かく取り上げていきます。
引き面
引き面は引き技の中でも最もスタンダードな技であり、技のバリエーションもとても多彩です。
ここでは実戦でよく使われる6種類の引き面を紹介します。
ここから先、竹刀を中心にして相手の右側を「表」、左側を「裏」と呼びます。
1.表から引き面
表からの引き面は、相手に対して真っすぐに打つ引き面です。
最もオーソドックスな引き面ですが、ゆえに奥が深いです。
基本としては左手をしっかり振りかぶって打ちますが、実戦で使われる際には、左手を振りかぶらずにその場で右手を使い、おろすように打つことが多いです。
また、その際に左足を前にした状態で、後ろの右足で踏み込んで引く引き面もあります。
これは左足を前にすることで間合いが生まれ、その場で素早く打てること、さらに、左足で蹴る際に体をひねるように打つことで遠心力によりスピードが増すという利点があります。
2.裏から引き面
続いて、裏から引き面です。
崩し方は様々ありますが、最も一般的な裏引き面は、相手の拳を上から押さえて、離した時に相手が表から引き面だと錯覚して表を避けるところを裏から回して打ちます。
他には、自分の左拳を裏から相手の拳をすくうように跳ね上げて打つ引き面や、表から面をさわって避けさせて裏から打つ引き面などもあります。
3.別れ際の引き面
別れ際の引き面は、最近試合でとても多くみられる引き面です。
この引き面は表と裏があります。
表からの引き面は相手の呼吸を読み、別れようとして竹刀が肩の方におりてくる瞬間を狙って打ちます。
この時、少し相手の竹刀を押さえるようにするとなお打ちやすいです。
裏からの引き面は、表の時と同じように打つ引き面と、別れる際に相手の竹刀を少し引っ掛けるようにして打つ引き面があります。
この時、少し斜めからはたくようにして打つと威力が生まれます。
ただし、引っ掛けをしすぎると正当な鍔迫り合いをしていないとみなされ、反則を取られますのでご注意ください。
もう一つ、裏からの引き面には表に回す引き面があります。
裏から打つと見せかけることで相手は竹刀を自分の裏側に引っ掛けて避けようとしてきます。
そうすると、相手の竹刀がおりてきて面が空くので、相手の竹刀を越えるように手首を使って回して表から打ちます。
この引き面はスピードが重要になるため、回す際の手首の柔らかさが必要です。
また、表でも裏でも上手な人は完全に自分と相手の竹刀が相手の喉元までおりた状態からでも打てます。
これは腕の長さや身長なども関係しますが、最も大事なのは「間」の取り方と前で踏み込むことです。
「間」の取り方というのは、簡単にいうと打つタイミングのことです。
相手の一瞬の気の緩みを逃さない、かつ一瞬時が止まったような「間」を取ってから打つと審判も揺さぶられます。
4.押して引き面・崩して引き面
まずはシンプルに押して引き面です。
押して引き面は、鍔迫り合いからそのまま相手を押すことで間合いを作って打ちます。
この時、押してから左手を振りかぶってしまったり、足を引いてしまったりすると遅くなり、押した意味がなくなってしまいます。
つまり、押した竹刀をその場でそのままおろすように打つことがコツです。
最初に紹介した左足を前にして打つ引き面も、人によっては少し相手を押すことで間合いを作って打ちます。
続いて、崩して引き面です。崩して引き面にも表裏ありますが、表から崩す引き面が主流です。
相手の首元の上から斜めに押すように崩して打ちます。
この時、竹刀で崩そうとするのではなく、自分の拳からつば元までを使って崩すと、力が伝わって相手が崩れます。
また、相手の首から下の重心を崩すことを意識するのがポイントです。首のみを崩そうとしても相手は崩れず、首狩りとなって大変危険ですので、絶対にやめましょう。
裏から崩す引き面は、先ほど紹介した拳をすくうように崩す引き面の応用で、相手の拳を上から巻き込んでおろすように打つ引き面があります。
裏から相手の右拳を巻き込むようにして、そのままの流れで面を打ちます。
巻き込んだ拳をおろす際に一緒に面を打つイメージです。
5.相引き面
相引き面は、相手の引き面に対して先に打つ引き面です。
相引き面は必ずしも狙って打つものではないですが、狙うのであれば自分から仕掛けることが大切です。
先ほど紹介した、押して引き面を例にすると、少し押すことで誘いになり、相手が合わせてきてくれれば自分が先に動いているので先に打てます。
また、相手の押しや崩しに対する反応が速いと、相手より先に打てることがあります。
しかし、少し押されたぐらいだとほぼ先に打たれてしまうので、相手が大きく自分を崩してきたところが狙い目です。
いずれにしても、常に相手の仕掛けに対して反応できる集中力や瞬発力が必要です。
6.フェイント引き面
フェイントの引き面は2種類ほどあります。
一つは担いで引き面です。
担いで引き面は、自分の肩に竹刀を担ぐことがフェイントになります。
この時、左足を半歩引きながら担ぐことで、間合いが丁度良くなりスムーズに打てます。
担ぎの大きさは人それぞれですが、担ぎ技は自分にも隙を作って打つ技なので、大きすぎると逆に打たれてしまいます。
また、小さすぎても相手が反応してくれないことがあるので、自分で担ぎの大きさを見極めることが必要です。
もう一つは引き小手、引き胴を見せての引き面です。
引き小手を見せての引き面はほぼ担ぎ面と同じなので省略します。
引き胴を見せての引き面は、実際に胴を打つ方法と、実際には打たずに見せるだけの方法があります。
確実性をとるなら前者、スピードをとるなら後者をおすすめします。
後者は本当に途中まで引き胴を打つつもりでないと相手は反応してくれないので、目線や体の動きなどでいかに相手に引き胴だと思わせることができるかが重要になります。
引き小手
引き小手は引き面、引き胴に比べて試合で見ることは少ないですが、打てると非常に有効な技です。
基本的に引き小手は引き胴に比べて面の避けが甘い相手に有効です。
また、引き胴に比べて引き小手は後打ちを打たれるリスクが低いので、あまり恐れずに打つことができます。
ストレートに打つ引き小手もありますが、間合いの取り方や腕の折りたたみ方などがとても難しいので、今回はそれ以外の2種類ほどの引き小手を紹介します。
1.押して引き小手
押して引き小手は先ほど紹介した、押して引き面の応用です。
押して引き面を打つと見せかけて、相手が面を避けたところに引き小手を打ちます。
押したことで間合いが生まれるので、その場で打つことができます。
押した時に足を止めて避けてくれる相手には非常に有効です。
2.フェイント引き小手
フェイントの引き小手は主に2種類あります。
まずは引き面を見せて引き小手ですが、基本的な論理は先ほどの押して引き小手と同様です。
引き面を見せることで相手の手元を上げさせて打ちます。
ここでポイントになるのが、間合いです。
引き面の間合いで引き小手を打たなければならないので、腕を折りたたんで打たなければなりません。
足で自分が打てる間合いを作ることが大切です。
次に、回して引き面を見せて引き小手です。
これも先ほどの別れ際の引き面の時に、裏から表に回して打つ引き面の応用です。
裏から回して引き面も相手が読んでいた場合、相手は竹刀を回した時に引っ掛けにくるのではなく、その後の面を避ける体勢に入ります。
そこで裏から回して面を打つと見せかけて引き小手を打ちます。
難易度は高いですが、全国大会などでは九州学院の選手をはじめとした九州の選手がよく打っています。
引き胴
引き胴は引き面の次によく見られる引き技です。
後打ちを打たれるリスクは高いですが、そのインパクトからよく旗が上がります。
最近は引き面をしっかり(水平以上)と避ける選手が多いので、引き胴が打てることで相手が警戒して面の避けが甘くなります。
そのため、引き胴は見せ技としても有効です。
ここではよく試合でみられる引き胴を3種類ほど紹介します。
1.押して引き胴、崩して引き胴
押して引き胴や崩して引き胴は最もよく使われる引き胴です。
押し方や崩し方は先ほどから紹介している通りですが、引き胴を打つ時に特に大事なのは引くスピードと打ちの強さです。
もちろん引き面、引き小手も引くスピードと打ちの強さは大切ですが、特に引き胴はスピードが遅いと後打ちを打たれてしまうし、打ちが強くなければ音が鳴らないので一本になりません。
引き胴は他の引き技よりも完成度が問われるということです。
2.フェイント引き胴
フェイントの引き胴も、基本論理はフェイント引き小手と同様です。
引き面を見せて引き胴、裏から回して面を見せて引き胴は全く引き小手と同じです。
フェイント引き胴でもう一つよく見られるのが、「引き胴を見せて引き面を見せて引き胴」の2段階フェイントです。
素直に引き胴を打つよりもより相手に引き面だと錯覚させることができます。
また、2段階のフェイントで相手を考えさせることで、相手の足を止めて棒立ちにすることができ、引き胴が打ちやすくなります。
3.引き逆胴
引き逆胴は非常にリスクの高い技ですが、鍔迫り合いで足を止めて三所隠しをする相手には有効です。
引き逆胴も主に2種類あります。
一つは裏から回して逆胴です。
裏から回して引き面と同様に、手首を使って表に回してそのまま逆胴を打ちます。
逆胴は相手の右胴にあるので、先ほどの二つの裏から回して面を見せる引き技とは違い、回してそのまま打つだけで面のフェイントになります。
裏から回した時に三所隠しをする相手に対して狙ってみるとよいでしょう。
もう一つは裏から相手の拳をすくうように跳ね上げて逆胴です。
最初に紹介した裏から引き面の応用ですが、これは引き面よりも水平に相手の拳を持つように運ぶことで、その後の逆胴の動作に移りやすくなります。
この逆胴は相手の虚をつけるので、ここぞという時の一発に有効です。
|鍔迫り合いからの技(中間間からの技)
最後に鍔迫り合いからの技です。
鍔迫り合いからの技は主に崩して間合いを作って前に出て打つ技と、中間間からの技がありますが、今回は試合で見られることが多い中間間からの技を中心に紹介していきます。
中間間からの面
中間間からの面は、鍔迫り合いを解消する寸前、相手が気を抜いているところを逃さず打つ面です。
高校生の試合では10秒ルールが適用されていますので、この技は打つと反則を取られてしまうのでご注意ください。
中間間からの面は主に真っすぐ、裏、巻いて面の3種類がありますが、決まりやすいのは裏と巻いて面です。
裏面は相手に真っすぐ面に行くと思わせることで竹刀を押さえさせ、その裏を回して打ちます。
巻いて面は裏から巻きおとして打つ面が主流です。
表から巻くのは難易度が高いですが、修得すれば相手の竹刀を飛ばして相手を無防備にすることも可能です。
裏面も巻いて面も、中間間で相手が気を抜いていれば抜いているほど無防備になり、当たりやすくなります。
中間間からの引き技
中間間の引き技は、どちらかというと鍔迫り合いになる前の技です。
引き面、引き小手、引き胴とそれぞれありますが、鍔迫り合いになる前の中途半端な間合いで打ちます。
引き面は主に裏面が多用されます。引き小手や引き胴は手元を上げて間合いを詰めてくる相手に有効です。
もう一つ大事なのは「間」の取り方です。
先ほども触れましたが、中間間の引き技においては、特に一呼吸の「溜め」が大切です。
流れの中で打ってもどうしても一本になりづらいので、一呼吸おいてから打つことを心掛けましょう。
ここまで多くの引き技や中間間からの技を見てきましたが、やはり剣道はイメージをもってそれをいかに体現できるかが大切です。
以下にLET’S KENDOさんがまとめている引き技の一本集を掲載しますので、実際に試合の場面で打つ引き技のイメージをつかんでみてください。
|引き技で意識すること
ここまでの紹介でお気づきの方もいると思いますが、引き技のバリエーションは既存のアイデアの組み合わせです。
ですから、多彩な引き技を打ちたい方は発想力が重要です。
様々な視点から考えることで、新しい引き技はいくらでも生み出せます。
また、引き技を打つ時に意識することはまず「タイミング」、「間」の取り方です。
引き技は鍔迫り合いの流れの中でなんとなく打っても旗は上がりづらいです。
一瞬流れを落ち着かせて、ピタッと静まったその瞬間の一本に審判は目を奪われます。
さらに意識することは、引くときの初速、打ちの強さです。
引き技は打つ瞬間から打って2.3歩引くところぐらいまでが勝負です。
ここをいかに早く、強く、インパクトを残せるかで一本になるかならないかに大きく差が出ます。
引き技で試合の主導権をつかむこともできます。皆さんも引き技をマスターして試合を有利に運べるようになりましょう!