▼スペシャルインタビュー▼
剣道漫画「裸すぎる獣たち」
〜漫画家 廣岡慎也(ひろおかしんや)〜
2019年に、剣道漫画「裸すぎる獣たち」で連載デビューを果たした廣岡氏。
少年マガジンR連載スタートにあたり、漫画に込められた想いをお伺い致しました。
(以下 KENDO PARK=KP 廣岡慎也=廣岡)
-廣岡慎也-
山口県出身。
早鞆高校卒業。
小学校と高校時代に剣道を経験。
少年マガジンR 2019年1月号にて、「裸すぎる獣たち」で連載デビュー。
|いち剣道家でしかなかった
KP:
廣岡さんの剣道歴を教えてください。
廣岡:
小学生の時に剣道を始めたのですが、小学校卒業とともに一度辞めてしまいました。
その後、早鞆高校(@山口県下関市)に進学したのですが、そこで一緒に進学した親友から誘われる形で剣道部に入部いたしました。
剣道部といっても、当時は剣道未経験の先生と男子10名女子1名程度の部活で、他の高校と比べてもかなりゆったりした部活であったと思います。
KP:
高校時代は、部長として剣道部を全うなさったそうですね。
何がモチベーションだったのでしょう?
廣岡:
チーム自体は強くなかったですが、シンプルに「部員をやめさせない」というところが一つの目標でした。
また高校自体が県内で古豪ではあったため、「あっさり負けてはいけない」というようなぼんやりとしたプライドはあったと思います。
当時目にしたのが、栄花直輝さん(現・北海道警)のドキュメント番組、「にんげんドキュメント ただ一撃にかける 」(NHK)でした。
勝敗を超えた「最高の一本」を追い求める内面性に、とても感銘を受けました。
今回の作品にも、少なからず影響を受けていると思います。
|根底にあるいじめ体験
KP:
廣岡さんの漫画のルーツを教えてください。
廣岡:
私が描いている漫画のベースは、中学校時代いじめに遭った経験が大きく関係しています。
当時、自分の居場所はなかったですし、抗うこともできなかったですが、そこで必死にもがき苦しんだからこそ何とか今まで生きてこられたと感じています。
そういった「生きようとする力」を、人間の内面から描きたいです。
KP:
剣道漫画執筆までの経緯を教えてください。
廣岡:
高校卒業後、漫画専門学校に通っていたのですが、その時は青春モノやSF、恋愛モノなどを描いていました。
いずれも、テーマそのものよりも人間の内面的なものを描いていたと思います。
昔に比べて、今は電子書籍やSNSが発達していてリリース媒体も多いですが、それでも自分の作品が世に出る人は一握りでしょうか。
私は賞レース入賞を目指していたので、それに対して色々とテーマを変えながら執筆を行っていました。
とはいっても、それぞれジャンルによって描き方も異なるため、スポーツ漫画はほとんど手つかずでした。
そこで今回はスポーツ漫画を書こうと考え、剣道をテーマに選びました。
KP:
なぜ題材に剣道を選んだのですか?
廣岡:
もちろん自分が剣道経験者ということもありますし、他に目立った剣道漫画がないので、ヒットのチャンスがあると考えたことも理由の一つです。
しかし一番の理由は、スポーツの中でも人間の内面性を描きやすいと思ったからです。
先ほど申し上げた「生きようとする力」に加え、「目の前の相手に対する恐怖心や闘争本能」を描き出したいと考えた時に、いわゆる「メジャースポーツのスポ根」ではなく、武士の斬り合いをベースとした剣道がテーマに最適だと思いました。
描くにあたっては、剣道をやっていた時の感覚や空気感を思い出すとともに、中学でいじめられた時に感じた恐怖心や闘争心を、主人公の「桜五月」というキャラクターに込めました。
漫画内の台詞には、実際に当時の私が心の中で思っていたものも数多くあります。
|勝つか負けるか、生きるか死ぬか
KP:
この漫画を通して、伝えたいことは何でしょうか?
廣岡:
大前提として、この作品は「剣道を知らない人が楽しめる」ことを原則としています。
その中で、「生きづらい主人公が、恐ろしいと思う相手にどのように打ち勝つか」ということを最大のテーマとしています。
KP:
剣道家に対して伝えたい価値観は何ですか?
廣岡:
シンプルに「勝つか負けるか、生きるか死ぬか」の部分を伝えたいと思っています。
剣道は精神世界や武士道精神と深く結びついているため、時としてとても複雑な解釈が必要になることがあります。
結果として、今ある剣道の考え方や価値観は、結局は試合で勝ち残って来た人や高段者の方など、いわゆる「勝者」が解釈して作り上げたものだと感じています。
私は強豪選手でも何でもなかったので、そういった価値観に対する違和感をずっと感じて来ました。
例えば、「強い人ほど人として優しくあれ」「正しい技で勝つのが美徳」等、こういった価値観は素晴らしいとは思いますが、元々いじめられっ子で「弱者」であった私にとっては、単純に「生きるか死ぬか」というシンプルでむき出しの感情がメインで、そういったことを考える余裕などありませんでした。
もちろん色々な捉え方がありますが、私はシンプルに「武士の生きるか死ぬかの勝負」の部分が武士道であると考えています。
このように、ある意味で「弱者」視点での、むき出しの価値観を伝えることができたら嬉しいです。
KP:
最後に読者にメッセージをお願いします。
廣岡:
月並みですが、この作品を通して読者の方々には少しでも「頑張ろう」という気持ちを持ってもらうことができれば嬉しいです。
少年漫画の醍醐味は、「これはあなた自身の物語です」と言えるかどうかだと思います。
フィクションでありながら、登場人物に自分を重ね合わせ、一種のパラレルワールドとして人物の追体験ができることが魅力だと思います。
「裸すぎる獣たち」を通して、読者の方々にもそのような体験をしていただければ幸いです。