▼スペシャルインタビュー▼
【映画「武蔵−むさし−」の挑戦】
〜新免武蔵役 細田善彦〜
2019年公開の映画「武蔵−むさし−」において、武蔵役として映画初主演を果たした細田善彦氏に、お話をお伺い致しました。
史実に徹底的にこだわった内容と、細田氏が見せる「新たな武蔵像」について語っていただきました。
(以下 KENDO PARK=KP 細田善彦氏=細田)
※「武蔵−むさし−」:2019年5月25日公開
-細田善彦(ほそだよしひこ)-
1988年生 東京都出身
フジテレビドラマ 「ライフ〜壮絶なイジメと闘う少女の物語〜」(2007)の佐古克己役でブレイク。
主な映画出演として、「デトロイト・メタル・シティ」(2008)、「大奥」(2010)、「ピア~まちをつなぐもの~」(2019)ほか多数。
テレビドラマでは、NHK大河ドラマ「花燃ゆ」(2015)、「真田丸」(2016)のほか、「逃げるは恥だが役に立つ」(2016)、「3年A組-今から皆さんは、人質です-」(2019)等、出演多数。
2019年5月公開の映画「武蔵−むさし−」(三上康雄監督)において、新免武蔵役として出演を果たす。(2019年5月25日公開)
|「武蔵役」を射止める
KP:
今回新免武蔵役としての出演とのことですが、どのように武蔵役を射止められたのですか?
細田:
以前出演した「真田丸」(2016 NHK)を観て頂いたとのことで、三上康雄監督よりご連絡をいただいたのがきっかけです。
監督とは都内の喫茶店でお会いしたのですが、会うやいなや「武蔵の映画やるけど、君出るの?出ないの?」と聞かれました。
私はとっさに「出ます!」と返答したのですが、その時点では何の役なのかもわかりませんでした。
そこで「ところで、武蔵は誰がやるんですか?」と聞いたところ、「まだ武蔵役が決まっておらず、俳優を探している。」とのことでした。
それに対し私は、「是非、武蔵役のオーディオションに参加させて頂きたい。」と伝えました。
KP:
どのようなオーディションだったのですか?
細田:
三上監督が剣道や居合経験者ということで、スタジオで居合刀を振ることをメインとしたオーディションでした。
とはいえ、私は居合の経験はもちろん、本格的な殺陣経験も無かったので、とにかくスタミナで勝負しようと考えました。
そこで監督が行う演武を必死で真似をし、 2時間近く刀を振り続けました。
結局最後まで刀を振っていたのは、私だけだったと思います。
結果として、その数日後に三上監督からご連絡をいただき、新免武蔵役を演じさせていただくこととなりました。
KP:
稽古は相当大変だったように思います。
細田:
出演の条件としても提示されていたのですが、クランクインの3ヶ月前から毎日みっちりと稽古を行いました。
そもそも今回の役では、単に殺陣の動きを覚えるだけでなく、「刀を扱う技術」と「片手で刀を振れる体力」を身に付けることが必要でした。
そこでまずは、「試し斬り」を体験させていただき、刀の重みや刃筋、斬る感覚などを肌で感じました。
そこで最も強く感じたのが、「刀に対する恐怖」です。
少しでも扱いを間違えれば大事故に繋がりますので、そういった緊張感を感じられたことは、その後の取り組みにも強く影響したように思います。
KP:
クランクインまでは、どのような稽古を行ったのですか?
細田:
とにかく、居合刀を振り込みました。
当然殺陣の動きも覚えなければならないので、それと並行して様々な体勢や角度から刀を振る練習を行いました。
特に大変だったのは、武蔵は二刀流を使うので、刀を片手で振らなければならなかったことでした。
そこで体づくりも必要と考え、食事量を大幅に増やすとともに、睡眠をよく取って体の強化を図りました。
|新たな「武蔵像」を見せる
KP:
武蔵を演じる上で、意識したことを教えてください。
細田:
単に「豪傑で剣豪」というキャラクターではなく、がむしゃらに強さを求めていく武蔵の姿を体現したいと考えていました。
世の中のイメージとして、「武蔵といえば歴代最強の剣豪」というのが定着しているかもしれません。
しかし今回演じた武蔵は、必ずしも強いように描かれていません。
五輪書の地の巻には、「幾度もの戦いに勝ってきたが、振り返ると偶然に価値を収めてきただけである」というニュアンスの記述が出てきます。
つまり、決して最初から強かったわけではなく、強さを求めていく中で人間として成長していく姿こそが、武蔵の本質であると私は理解しています。
KP:
武蔵を務めてみて、いかがでしたか?
細田:
本作では、佐々木小次郎役の松平健さんや沢村大学役の目黒祐樹さんをはじめ、時代劇のオールスターのような方々の中で演じさせて頂きました。
そのような方々の中で、 武蔵という役を務めさせて頂いたことは、もちろん大変ではありましたが、俳優人生に残る貴重な経験をさせて頂いたと思っています。
特に松平さんと目黒さんの着物姿からは、他では味わえない雰囲気と風格を感じました。
年齢だけではないオーラのようなものがあり、実際に目の前に立つと本当に圧倒されました。
|日本の時代劇に「挑戦」する
KP:
今回の「武蔵−むさし−」は、今までの武蔵作品と比べても、かなりアプローチが異なります。
細田:
今回の映画の最大の特徴として、「徹底的に史実に基づいたストーリー展開」があると思います。
過去に武蔵をテーマとして扱ったものとして、吉川英治作の小説「宮本武蔵」、NHK大河ドラマ「武蔵 MUSASHI」、井上雄彦作の漫画「バガボンド」等、有名な作品がいくつも存在します。
それらによって浸透したイメージを、色々な意味で裏切っているかもしれません。
例えば、
・新免武蔵と佐々木小次郎が、ライバルとして描かれていない
・佐々木小次郎が、若手ではなくベテラン剣士として描かれている
・佐々木小次郎を取り巻く時代的背景を、詳細に描写している
・決闘のシーンは、派手な殺陣ではなくリアルな勝負として描かれている
というあたりが、かなり特徴的なのではないでしょうか。
これらすべては、「一般に浸透している武蔵の物語」ではなく、「史実に基づいた物語」として構成されています。
KP:
三上監督のこだわりが、細部にまで感じられます。
細田:
三上監督は、「この作品を提げて、 とことんリアルな本物の時代劇にする 。」とおっしゃっていらっしゃいます。
この作品を通して、今までの「武蔵といえばこれ」という定義を、転換およびアップデートしようとしているのではないでしょうか。
一方で、1本の映画にまとめきる難しさもありました。
過去の武蔵作品は、武蔵の人生をテーマとしているので、どれも〜部作というように長編であることがほとんどでした。
それを2時間前後の映画にまとめる上では、「いかに引き算をするか」が大切な要素でした。
本作では、前半の第1部では「武蔵の剣術修行」、後半の第2部では巌流島の戦いに至るまでの佐々木小次郎の歴史的背景を描いています。
これらは全て史実に基づいていることもあり、歴史や時代背景、地名等の前提知識がないと、理解しきれない部分もあるかもしれません。
そういう意味でも、相当挑戦的な作品であると思います。
KP:
三上監督が、脚本から監督まで手がけていらっしゃいます。
細田:
実は三上監督は、本作品の製作から脚本・編集にいたるまで 、ご自身で行っていらっしゃいます。
そういったことからも、この作品に対するこだわりの強さが伺えます。
私たち出演者は、監督のこだわりをいかにして体現するかを求められました。
そういう意味では、「監督と一緒に挑戦した」という感覚がもっとも近いかもしれません。
|剣道家へのメッセージ
剣道をやっていらっしゃる方は、一度は武蔵の物語に触れたことがあると思います。
今回の「武蔵−むさし−」は、そんな皆様にも是非観て頂きたい作品です。
従来の「武蔵 vs 小次郎」という構図ではなく、新たなアプローチで武蔵を描いていますので、皆さんのイメージや武蔵像を、良い意味で裏切ることができるのではないでしょうか。
本作「武蔵−むさし−」は、個人的にも深い縁を感じている作品です。
巌流島の戦いでの武蔵は、29歳であったとされています。(諸説あり)
私自身も、20代のうちに映画での主演を果たしたいという想いがあり、そんな折にこのような機会に恵まれました。
そんな中で、私自身が挑戦者として取り組んだばかりか、先述の通り三上監督も日本の時代劇への挑戦としてこの作品を作り上げられました。
また武蔵自身も、作品の中で挑戦者として描かれています。
このように、三上監督、武蔵、そして私が三位一体となって「挑戦」した作品となっています。
是非とも、劇場に足を運んでいただければ幸いです。
<取材・文 永松謙使>